全国20の政令指定都市にある「行政区」は、東京23区のように独自の巨額予算や議会を持つほど独立性はないものの、住民向けの「ミニ市役所」(指定都市市長会の説明)という位置付けで、全国に175行政区が設定されています。人口ランキングを見ると、36万人が住む港北区の膨張ぶりや、横浜市内の各区における人口の多さが目立ちます。
住民にもっとも近い基礎自治体とほぼ同じ機能が与えらえた「特別区」となっている東京23区を除き、日本国内でおおむね70万人以上の人口を持つ20市は、政令指定都市という「市」なかでも特別な立場に位置付けられ、日本の主要都市として都道府県に近い権限が与えられています。
一方、住民にとっては身近であるはずの基礎自治体が大きすぎることから、市役所はどこか縁遠い存在です。
そのため、政令指定都市では市内をいくつかに区分して、“ミニ市役所”的な「行政区」を設置。「住民票の交付や国民健康保険、地域振興など、日常生活に密着した多くの行政サービスを提供」(指定都市市長会の説明)を担わせることにより、広すぎる“市内”で住民サービスの低下を防いでいるというわけです。
そんな行政区ですが、人口2万7000人超の「浜松市天竜区」から、同36万人の港北区まで、175区の人口規模はさまざまです。全国ではどのような状況となっているのか。「行政区人口ランキング」を見ていきましょう。
膨張する港北区、仙台と横浜で“青葉区対決”
まずは人口が30万人以上の行政区です。(カッコ内は推定人口を各区が算出した時期、100人以下切り捨て。なお、福岡市と札幌市の各区は国政調査の関係で2020年9月以降は推計人口の発表を停止中)
- 1位.横浜市・港北区 36.00万人(2021年5月)
- 2位.福岡市・東区 32.17万人(2020年9月)
- 3位.仙台市・青葉区 31.19万人(2021年5月)
- 4位.横浜市・青葉区 31.12万人(2021年5月)
- 5位.岡山市・北区 31.10万人(2021年5月)
人口が30万人以上の行政区は全国に5つしかありません。そんななかでも港北区が“独走状態”となっており、2位以下を引き離しています。

福岡市東区は博多駅の隣あたりから海沿いにも広がり、“金印の島”も含んでいる(「魅力・イベント」紹介ページより)
全国2位に付けた「福岡市東区」は、福岡周辺の出身者以外はなかなかピンと来ない場所かもしれませんが、“金印”(漢委奴国王印=かんのわのなのこくおういん)が発見されたことで知られる「志賀島(しかのしま)」も位置する海の街です。
その一方で博多駅から近い「箱崎」や、海岸沿いの埋め立てで副都心化が進む「香椎(かしい)」など、都心の近くに住める適地として人口が右肩上がりで増加中。九州大学の本部も置かれた九州随一の元気な街として、港北区の人口規模にどこまで迫るのかに注目したいところです。
「ベスト5(ファイブ)」で印象的なのが仙台と横浜の「青葉区」が人口規模で激しく競っていることでしょう。
仙台の青葉区は、仙台駅や仙台城址(青葉城)、宮城県庁、仙台市役所、歓楽街の「国分町(こくぶんちょう)」、東北大学などが位置する東北の中心部といえるエリアです。
加えて、歴史ある温泉地「作並温泉」までが“区内”に入るなど、横浜の青葉区と比べると、9倍近くの面積(約302キロ平方メートル)を持っています。
横浜青葉と僅差で5番目となった「岡山市北区」(31.10万人)は、岡山駅や県庁、市役所などが位置する岡山県の中心エリアを含む一方、こちらも全国の行政区では4番目という広い面積(450キロ平方メートル)となっています。
そうした巨大な面積を持つ行政区と、同規模の人口が住む横浜市青葉区(面積約35キロ平方メートル)。さらに狭い港北区(面積約31キロ平方メートル)とともに、“狭いわりに人口が多すぎる行政区”といえそうです。
30万人目前の鶴見区、札幌の「北区」が迫る
次は人口25万人以上を持つ10の行政区です。
- 6.横浜市・鶴見区 29.73万人(2021年5月)
- 7.札幌市・北区 28.82万人(2020年9月)
- 8.横浜市・戸塚区 28.44万人(2021年5月)
- 9.相模原市・南区 28.08万人(2021年4月)
- 10.京都市・伏見区 27.46万人(2021年5月)
- 11.相模原市・中央区 27.24万人(2021年4月)
- 12.福岡市・南区 26.50万人(2020年9月)
- 13.川崎市・中原区 26.49万人(2021年5月)
- 14.札幌市・東区 26.45万人(2020年9月)
- 15.北九州市・八幡西区 25.12万人(2021年3月末)
このなかで、人口30万人が目前に迫るのが鶴見区。少し離れて続くのが札幌市の「北区」(28.82万人)です。
札幌市の中心部は、繁華街の「すすきの」や北海道庁が位置する18位の「中央区」(24.74万人)ですが、北区は札幌駅近くの北海道大学や数々の大手予備校、進学校の札幌北高校などに加え、区内には藤女子大学も位置する“文教エリア”。都心部に近い居住に適した区となっており、札幌駅は中央区との区境ながら住所が「北区北6条西4丁目」となっていて区内です。
8位の戸塚区(28.44万人)と9位の「相模原市南区」(28.08万人)の県内対決も気になるところ。相模原の南区は、東京都町田市にあるJR町田駅の南口や相模大野駅、厚木市の境界までをエリアとし、東京や横浜への通勤圏として今後も成長の余地がありそうです。
一方、タワーマンションの林立で「武蔵小杉」の名のほうが目立っている感もある「川崎市中原区」(26.49万人)。川崎7区ではもちろん人口トップですが、全国で見ると13位。隣の港北区の膨張ぶりを考えれば、まだ人口が増えても大丈夫、という位置かもしれません。
人口20~24万人台に目立つ横浜と川崎の区
最後は人口20万人から24万人の行政区を一気に紹介します。横浜市と川崎市の行政区が目立っています。
- 16.横浜市・神奈川区 24.79万人(2021年5月)
- 17.名古屋市・緑区 24.78万人(2021年5月)
- 18.札幌市・中央区 24.74万人(2020年9月)
- 19.静岡市・葵区 24.69万人(2021年5月)
- 20.福岡市・博多区 24.54万人(2020年9月)
- 21.広島市・安佐南区 24.46万人(2021年4月末)
- 22.横浜市・旭区 24.43万人(2021年5月)
- 23.神戸市・西区 23.73万人(2021年5月)
- 24.浜松市・中区 23.63万人(2021年5月)
- 25.仙台市・太白区 23.53万人(2021年5月)
- 26.川崎市・高津区 23.47万人(2021年5月)
- 27.川崎市・宮前区 23.41万人(2021年5月)
- 28.川崎市・川崎区 23.25万人(2021年5月)
- 29.静岡市・清水区 22.77万人(2021年5月)
- 30.札幌市・豊平区 22.44万人(2020年9月)
- 31.川崎市・多摩区 22.31万人(2021年5月)
- 32.福岡市・早良区 22.09万人(2020年9月)
- 33.名古屋市・中川区 21.94万人(2021年5月)
- 34.札幌市・西区 21.90万人(2020年9月)
- 35.横浜市・港南区 21.51万人(2021年5月)
- 36.横浜市・都筑区 21.43万人(2021年5月)
- 37.神戸市・垂水区 21.36万人(2021年5月)
- 38.千葉市・中央区 21.29万人(2021年5月)
- 39.札幌市・白石区 21.27万人(2020年9月)
- 40.福岡市・西区 21.22万人(2020年9月)
- 41.仙台市・泉区 21.15万人(2021年5月)
- 42.神戸市・北区 20.9932万人(2021年5月)
- 43.静岡市・駿河区 20.9930万人(2021年5月)
- 44.北九州市・小倉南区 20.88万人(2021年3月末)
- 45.横浜市・保土ケ谷区 20.76万人(2021年5月)
- 46.福岡市・中央区 20.45万人(2020年9月)
- 47.京都市・右京区 20.22万人(2021年5月)
20万から24万の人口を持つ行政区で、横浜市は16位の神奈川区(24.79万人)、22位に旭区(24.43万人)、35位・36位に港南区(21.51万人)と都筑区(21.43万人)、45位には保土ケ谷区(20.76万人)の5区が入りました。
人口が20万人には満たないためランキングでは割愛しましたが、48位に金沢区(19.84万人)、49位には南区(19.81万人)も迫っています。
一方、川崎市は26位から28位に高津区(23.47万人)や宮前区(23.41万人)、川崎区(23.25万人)が上手く並び、少し飛んで31位に多摩区(22.31万人)が入っており、絶妙な人口比で“区割り”を行っていることを感じさせられます。
日本の全人口の約2割を占めるといわれる行政区。人口規模や広さはそれぞれ違いますが、これほどまでに人口が20万人や30万人以上の街があったとしても、自治体のようには扱われず、“ミニ市役所の街”から脱却できないのは悲しいところです。
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【参考リンク】
・指定都市市長会(横浜や川崎など全国20市長による団体)
・指定都市とは(区役所はいわば「ミニ市役所」という説明も)