日本一の人口持つ“仮想自治体”港北区、政治への反映欠如が行政サービス低下に?

横浜日吉新聞
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ひよしコラム日吉が位置する横浜市港北区の人口は、この10年で約2万8000人増加し、今年(2015年)11月末現在で33万8951人(16万4439世帯=2015年11月末現在)で、これは「行政区」としては日本一の規模となっています。

同じ行政区では他に例がないため、「自治体」(市町村と東京23区)と比較してみると、高知県の県庁所在地である高知市(33万6117人、16万2579世帯)とほぼ同様の規模であり、東京都新宿区(33万4340人、世帯数は21万124世帯)を上回る数字でした。

約34万人(約16万5000世帯)もの人口を持っている港北区ですが、いわゆる「自治体」ではなく、横浜市の“行政区”という扱いとなっているのが特徴です。

これは「行政事務処理の便宜上設けられる区」(デジタル大辞泉)であり、東京23区のように独自の議会は持たず、選挙で選ぶ「区長」もいません。人口370万人を抱え広すぎる巨大自治体・横浜市のいち組織として“便宜上”設けられているものです。

こうした行政区は、全国の政令指定都市には必ず設けられており、このなかで、人口30万人を超えているのは、横浜市青葉区(30万8272人、13万1259世帯)をはじめ、岡山市の北区、福岡市の東区、仙台市の青葉区と港北区を含めて5つあり、大規模な行政区自体が珍しい存在というわけではありません

ちなみに武蔵小杉のタワーマンションで有名な、日吉の隣の川崎市中原区も行政区で、人口は24万7734人(12万4615世帯)となっています。

同じ人口規模の自治体と比べ議員の数は1/4以下

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大倉山駅近くにある港北区役所

巨大な政令都市のなかに、便宜上設けられた“仮想自治体”のような行政区ですが、選挙で選んだ区長や議会がないためか、日本一の規模を持つ港北区を見ている限り、行政のサービスが行き届いているかどうかは微妙なところがあります。

たとえば、港北区とほぼ同規模の自治体である高知市は、34人の議員がいますが、港北区は横浜市会に8人の議員を出しているに過ぎません。

「議員なんて働かないし役に立たないから、少なければ少ないほうがいい」という考え方に立てば、コスト縮減という面で港北区は非常に優れています。ただ、議員を“住民の代表”であると考えると、高知市の4分の1以下しか住民の意思を反映させることができないことになります。

港北区と似た人口規模の自治体で、どれだけの議員がいるのかを調べたのが下記です。(人口・世帯数はいずれも11月または12月現在)

・高知県高知市(33万6117人、16万2579世帯):34人

・北海道旭川市(34万5339人、17万7321世帯):34人

・滋賀県大津市(34万2446人、14万3687世帯):38人

・東京都新宿区(33万4340人、21万124世帯):38人

・東京都北区(34万1103人、18万6463世帯):40人

・横浜市港北区(33万8951人、16万4439世帯):8人(横浜市会の定数は86人)

<以下県内の参考>

・神奈川県横須賀市(40万3612人、16万6271世帯):41人

・神奈川県藤沢市(42万2891人、18万3655世帯):36人

・川崎市中原区(24万7734人、12万4615世帯):10人(川崎市議会の定数は60人)

こうしてみると、地方都市にある自治体は議員数を抑え気味の傾向が見られる一方、東京都の特別区(23区)は財政に余裕があるためか、それとも大都会の細かな住民ニーズをくみ取るためか、議員数が若干多い傾向が見られます。

選挙を行っても有権者の半分以上が投票しないケースが多々あるため、議員数が多いからといって必ずしも住民の意思が反映されているかどうかは分かりませんが、港北区は他の同規模自治体はおろか、同じ行政区でも、人口が9万人弱及ばない中原区よりも議員数が少ないことに驚かされます。

港北区は区内に図書館1つ、同規模の東京都北区は14館

議員数の少なさが影響しているのかどうかは分かりませんが、行政サービスのなかでも公共施設の数とサービスの質に一定の関係性が見られます。

下記は港北区と同規模の自治体と、神奈川県内の規模が近い自治体ごとの図書館数と、中学校における給食の提供実施状況を調べたものです。

・高知市:図書館:7、図書室・分室など:16、中学校給食:○

・旭川市:図書館:5、図書室・分室など:11、中学校給食:○

・大津市:図書館:3、図書室・分室など:2、中学校給食:△
(※現在は大津市内の2校のみ給食実施、今後は全中学校で実施予定)

・新宿区:図書館:9、図書室・分室など:1、中学校給食:○

・東京都北区:図書館:14、図書室・分室など:1、中学校給食:○

・横須賀市:図書館:3、図書室・分室など:11、中学校給食:×

・藤沢市:図書館:4、図書室・分室など:12、中学校給食:▲
(※藤沢市では「スクールランチ」を予約する形の「給食」を試行中)

・川崎市中原区:図書館:1、中学校給食:▲
(※川崎市では今後、中学校での給食を完全実施予定)

・横浜市港北区:図書館:1、中学校給食:×

中原図書館がある武蔵小杉駅の上にあるタワーマンション

中原図書館が入る武蔵小杉駅の上に建つ新しいタワーマンション

図書館の数は、他の自治体と比べると唖然とさせられてしまう数字で、「行政区の住民に図書館などいらん!区内にひとつで十分」とでも宣告されているかのようです。

中原区も区内に1館しかありませんが、2013年になって武蔵小杉駅の頭上にあるタワーマンション内に新しく豪華な図書館が設けられています。一方の港北区図書館は菊名駅から徒歩7分、築50年超の古い建物です。

日吉住民からすると、3駅先の菊名へ行って歩くより、列車本数の多い東急東横線か目黒線に乗って2駅先の“エキナカ”にある中原図書館へ行くほうが便利で快適とも思えます。

港北区唯一の図書館は築50年超、菊名駅から徒歩7分

港北区唯一の図書館は築50年超、菊名駅から徒歩7分

港北区よりかなり狭い面積にもかかわらず、区内に14館もの図書館がある東京都北区ほどの充実ぶりを求めるのは無理かもしれませんが、同じ人口規模の街に住んでいるのに、この激しい格差は一体なぜだろうかと考えさせられます。

34万人に1館しか図書館がないという港北区の状態は、これも、ある意味で“日本一”の環境なのではないかとみられます。あまり嬉しくはないことです。

8人の議員でしか意思反映できない結果がこれか

横浜市は中学校の給食以前に宅配弁当の「革命」を行うことに懸命

横浜市は中学校の完全給食を実施を検討する以前に、学校向け宅配弁当の「革命」として、その名称を公募するなどして懸命に改革姿勢をアピール

一方、中学校での完全給食については、神奈川県自体が全国での実施率がワースト2位なので、県内多くの自治体では給食がないのが当たり前といった風潮がありましたが、政令指定都市の川崎市が今後の全面実施を決断したように、それも変わりつつあります。

が、横浜市では相変わらずそのメドは付いていませんので、中学生の子を持った親は、市が強く推奨する「親の愛情を感じさせる弁当」(給食を実施しない理由としてよく語られる論理)を毎朝早く起きて手作りするか、宅配弁当でも注文するしかありません。働く親にとっては大変な負担ですが、横浜市では中学生の完全な給食提供を行う予定は今のところありません。

港北区は、住みやすさや自然環境、利便性という面で東京23区や他の自治体に負けるとは思えませんし、東京で働く人の居住地を担わなければならないという負担が大きいにしても、図書館や中学校の給食という行政サービス面で見ると格差が歴然としています。

この面において言えば、行政区である港北区に住んでいるのは少なくとも“得”なことではなさそうです。

自分の選挙区や地元に利権誘導をばかりに熱心な政治や政治家が正しいとは思えませんし、数が多くても議員のすべてが役に立っているわけではないにしても、8人の市会議員を通じてしか港北区民の意思を反映できない結果が、「34万人に図書館が1つ」「中学生の昼食は親の自己責任」だったとしたら、これは実に不運な制度だと感じさせられました。

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