<横浜市>全ての小・中学校に1人1台のタブレット配備、ネット環境も刷新 | 横浜日吉新聞

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鉛筆やノートと並ぶマスト(必須)アイテムに――。新型コロナウイルス禍を経て、学校のIT化が急加速しています。横浜市教育委員会は約500ある市立の小学校や中学校、特別支援学校などに児童・生徒1人につき1台の「タブレット端末」を配備し、今年(2021年)4月から始まる新年度から順次活用を始めます。これまで脆弱(ぜいじゃく)だったインターネット環境も刷新する計画です。

小学校には「iPad」、中学校には「Chromeタブレット」を計27万台配備する計画(「令和2年度 横浜市総合教育会議」資料より)

市教委では、今年3月末までに110億円以上をかけて約27万2000台のタブレット端末を新たに購入し、市内に499ある市立小学校や中学校、特別支援学校などに配備を行っており、すでに港北区内でも一部の学校に製品が届いている段階です。

タブレット端末の機種は、小学校や特別支援学校が米アップル製の「iPad(アイパッド)」(1台あたり約4万5000円)で、中学校は米グーグルが開発を主導する「Google Chrome(グーグルクローム)」(1台あたり約3万8000円)とし、文字入力用のキーボードも同時に購入。

小・中学校で異なる機種を選んだ背景が説明されている(「横浜市におけるGIGAスクール構想」資料より)

小学生向けのiPadはカメラ機能の充実度や操作性の高さから選んだといい、中学生向けのGoogle Chromeタブレットは、起動の速さやグーグルが提供するクラウド(インターネット)サービスとの相性が良いことから選定したといいます。

小・中学校で機種を変えたのは、「義務教育課程修了時までに異なるOSの端末を使う経験をさせたほうが良い」(2020年9月「横浜市におけるGIGAスクール構想」)との意見もあったとのこと。

市教委は、各学校に端末を配備すると同時に、インターネットを通じてクラウドサービスを活用するための「アカウント(ID)」児童・生徒に配布

市内企業が提供する授業支援アプリ「ロイロノート・スクール」はこれまでも一部小学校などで使われていた(「令和2年度 横浜市総合教育会議」資料より)

このアカウントを使い、グーグルが提供する教育機関向けの無料ツールG Suite for Education(Gスイートフォーエデュケーション)」や、市内企業である株式会社LoiLo(ロイロ、横浜市中区北仲通)が提供する授業支援アプリロイロノート・スクール」を活用する予定です。

また、昨年(2020年)6月から市教委は市立学校に対し、米Zoom(ズーム)ビデオコミュニケーションズが提供するオンライン会議サービス「Zoom」や、米グーグルが運営する動画共有サービス「YouTube(ユーチューブ)」の「学校YouTubeチャンネル」を使用することを認めており、引き続き活用が可能

横浜市の学校ではこれまでもタブレット端末などが配備されていたが、国の「GIGAスクール構想」にあわせ1人1台を配備する(「横浜市におけるGIGAスクール構想」資料より)

これまでも市内の小・中学校などでは、タブレット端末40台とWindws(ウィンドウズ)端末40台がそれぞれ配備され、授業での活用が行われていましたが、「学校内のインターネット環境が良くない」(港北区内の小学校校長)、「複数人が一度に接続すると通信が遅くなる」(区内の中学校校長)など、インターネット環境の面で課題がありました。

このため、市教委では40億円以上をかけて市立学校内のインターネット環境を刷新。タブレット端末でWiFi(ワイファイ=無線)接続を行うための「無線LANアクセスポイント」を各学校の普通教室だけでなく、特別教室などにも設置する計画としています。

港北区内の小学校における「無線LANアクセスポイント」や「充電保管庫」の設置数一覧、箕輪小学校が「0」となっているのは新設校のためすでに設置されているものと見られる(2020年8月「横浜市校内LAN構築業務委託」の発注資料より)

たとえば、港北区内の学校で見ると、無線LANアクセスポイントの数は、日吉台中学校(日吉本町4)では普通教室29と特別教室など17の計46カ所。日吉南小学校(日吉本町4)では普通教室29と特別教室など16、綱島東小学校(綱島東3)は普通教室28と特別教室など16、高田小学校(高田町)が普通教室18と特別教室など16で設置する計画となっており、校舎内のほぼ全域でWiFi接続が可能となる規模のアクセスポイントが設けられます。

この無線LANアクセスポイントに使う機器についても、1台で100台以上の端末が接続できるものを想定しているとのことです。

横浜市立学校のインターネット活用の基礎となっている「Y・Y NET(YOKOHAMA YUME NETWORK:横浜市教育情報ネットワーク)」を増強する

横浜市立学校のインターネット環境は、市内全学校を回線でつないだ独自の「Y・Y NET(YOKOHAMA YUME NETWORK:横浜市教育情報ネットワーク)」に接続し、ここから外部のインターネットにつなげる形となっていますが、市教委の鯉渕信也教育長が「現在は脆弱(ぜいじゃく)」(2020年9月9日、横浜市会こども青少年・教育委員会)と認めるほど、良い環境とは言えませんでした。

全員の子供たちが使っても耐えられる高速化が実現する」(同)として、新年度に向けてY・Y NETを増強しており、市内学校間の通信を高速化することに加え、外部とのインターネット接続は、国立の機関が運営する「学術情報ネットワークSINET(サイネット)」を活用する計画。

このSINETは、日本全国の大学や研究所など900の機関を独自につないだ高速通信ネットワークで、現在は大学などの高等研究機関用となっていますが、所管する文部科学省が今後は小中学校などにも開放する方針を示しています。

市教委事務局によると、横浜市は市内にある横浜国立大学との共同研究という位置付けで、SINETに接続したい考えだといいます。

2021年4月以降の横浜市立学校におけるインターネット接続環境イメージ

SINETへの接続が実現すると、大学や研究機関との通信環境が増強されることに加え、SINETは商業(民間)インターネットプロバイダとも相互接続していることから、一般的なインターネット環境も得られることになります。

また、国の機関である国立情報学研究所が運営するSINETは、接続さえ行ってしまえば、利用料が請求されることなく高速インターネット環境が実現できることになるため、財政難に悩む横浜市にとっても格好の仕組みといえそうです。

国では、新型コロナウイルス禍での学校一斉休校などを経て、「PC端末は鉛筆やノートと並ぶマスト(必須)アイテム。“GIGA(ギガ)スクール元年”の始まり」(萩生田光一文部科学大臣の2019年12月メッセージ)などとして、全国で学校のIT化を急速に推し進めています。

約500校で同時に端末の導入と活用をスタートさせる横浜市の成否は、国の学校IT化の行方にも影響を与えることになりそうです。

)見出し左の画像はタブレット端末活用のイメージ(Photo ACより)

【参考リンク】

「横浜市におけるGIGAスクール構想」について(横浜市教育委員会事務局)

「学術情報ネットワーク SINET(サイネット)5」(国立情報学研究所)

港北つなぎ塾「つなぎ塾トーク<第4回:子育て支援・教育現場のみなさん>」(区内学校の休校時におけるIT活用事例も)


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