日吉駅前「珈琲屋いこい」が閉店、地元オーナーが後継店で想いつなぐ | 横浜日吉新聞

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日吉らしさあふれる喫茶店経営の灯、そしてその想いを、地元経営者が新店舗でつなぐことになりました。

「珈琲屋いこい」オーナーの瀬川さん(左)から、「喫茶かなで」(仮称)新オーナーの池田さんへ。二人は日吉出身。世代交代、そして事業継承のバトンリレーを行うことになった(2019年12月23日)

「珈琲屋いこい」オーナーの瀬川さん(左)から、「喫茶かなで」(仮称)新オーナーの池田さんへ。二人は日吉出身。世代交代、そして事業継承のバトンリレーを行うことになった(2019年12月23日)

日吉駅西口から徒歩約2分、駅前商店街の普通部通り沿いにある「珈琲屋いこい」(日吉本町1)は、日吉出身のオーナーが50代で起業、2010(平成22)年8月に夫婦でオープンしたお店。先月(2019年)12月22日で閉店、開店以降、約9年4カ月の歴史を閉じました。

清涼な空気の高原にいるような、いこいのひと時をご提供します」(同店公式サイト)と、ゆったりとした空間で、まごころこめて入れたコーヒーを楽しんでもらいたいと、日吉出身のオーナー・瀬川義雄さん・かついさん夫妻がゼロから作り上げた同店。

普通部通り沿いにある日吉台小学校(日吉本町1)、そして普通部通りから赤門坂を下った日吉台中学校(日吉本町4)を卒業した瀬川さんは、大学で理系分野を学んだ後、東京都内の大手流通企業で経営企画や予算関連の業務に従事。

日吉駅から徒歩約2分、普通部通りにある「珈琲屋いこい」は昨年(2019年)12月22日で閉店。今年(2020年)2月から「喫茶かなで」として再オープンする予定(2019年12月23日)

日吉駅から徒歩約2分、普通部通りにある「珈琲屋いこい」は昨年(2019年)12月22日で閉店。今年(2020年)2月から「喫茶かなで」として再オープンする予定(2019年12月23日)

サラリーマン時代から喫茶店経営を自ら行ってみたいと思っていました」と、夢を実現すべく、ふるさと・日吉で起業するに至ったと、瀬川さんは懐かしい同店のオープン当時をしみじみと振り返ります。

学生の街・日吉には、特に全国系チェーン店やラーメン店なども多く、「大食い、脂っこい、そして安い、この3点のお店が流行しているなと感じていました」と、それまでになかった、地元の人々が「憩える」日吉らしい店を作りたかったと、その起業の理由を説明する瀬川さん。

カフェ経営のスクールに通い、ビジネスについての見識を深め、満を持してのオープンだったといいますが、「現実には、喫茶店経営は大変難しいものでした」と、その厳しさも常に感じた日々だったと、閉店までの歴史を振り返ります。

東日本大震災や消費増税など「試練の連続だった」日々

「清涼な空気の高原にいるような、いこいのひと時を」(写真・リンクも同店公式サイト)との想いで運営されてきた珈琲屋いこい。オープン後半年あまりで東日本大震災に見舞われ、2度の消費税上げもあるなど、経営は苦難の連続だった

「清涼な空気の高原にいるような、いこいのひと時を」(写真・リンクも同店公式サイト)との想いで運営されてきた珈琲屋いこい。オープン後半年あまりで東日本大震災に見舞われ、2度の消費税上げもあるなど、経営は苦難の連続だった

オープン翌年の2011(平成23)年、3月11日に東日本大震災が発生。以降、日吉でも計画停電を実施したこともあり、一周年記念に作ったうちわも、「実はこれもクーラーが使えない日があり、お客様にうちわで扇(あお)いでいただくために作ったものでした」と、カフェ店ならではの、大規模災害というオープン1年目にして受けた、来客の大幅減をともなうあまりに厳しすぎる現実を目の当たりにしたといいます。

また、2014(平成26)年 4月には消費税率が5%から8%に引き上げられ、2018(平成30年)5月からは、週休2日制を導入するために店の休みを増やしたことで、「利益を上げることがより難しくなってしまったのです」と、50代からの起業ならではの「体力の減退」にも直面するという試練の連続を感じる日々だったとのこと。

経営してから「一日たりとも生花を切らしたことはありませんでした」と瀬川さん

経営してから「一日たりとも生花を切らしたことはありませんでした」と瀬川さん

それでも、約10年間にわたり店を続けてこられたのは、「自身が“へそ曲がり”だったことが一因でしょうか。妻(かついさん)が考案した、“家庭の夕食”そのままの味を再現した、人気メニューの“いこい特製ハンバーグ”の存在も大きくなり、経営の柱となってくれました。調味料も単純で、何度食べても飽きさせない味に仕上げたことも大きかったのでしょうか」と、夫婦二人三脚で、数々の試練を乗り越えてきたと説明。

「日吉近郊の皆さんの、日々の生活に溶け込めるものをと、お店づくりをしてきたのも大きかったのかもしれません。奇をてらったことは一切行いませんでした」と、“自然と”憩い、集い、そして寛(くつろ)いでもらえるような店舗運営を心がけてきたと瀬川さんは少し照れながら言葉を選び、これまでの日々について語ります。

日吉出身の「最適な方」に店舗継承、憩いから奏でる場所へ

池田さんは、ハンバーグなどの一部の人気メニューや、瀬川さんの想いを引き継いでいきたいと考えている

池田さんは、ハンバーグなどの一部の人気メニューや、瀬川さんの想いを引き継いでいきたいと考えている

65歳まで、10年間経営することを目標にしてきたという瀬川さんですが、開店満9年を迎えた昨年(2019年)夏頃から、「当店の雰囲気や、お客様を引き継いでくれる方を探していました」と、数々の偶然が重なり、同じ日吉出身で、音楽レストラン「Wonder Wall Yokohama(ワンダーウォール横浜、略称:WWY)」(日吉2)を浜銀通り沿いで経営する池田紳一郎さんと出会うことに。

池田さんは、「ワンダーウォール横浜では、ジャズの生演奏を、お食事と一緒にライブ形式で聴ける運営手法でご好評をいただいています。そこで、“音楽により身近に接することができる”喫茶店の経営に挑戦することになりました」と、新オーナーとしての“事業継承”を決断した理由について説明します。

最近では、日吉東急アベニュー(日吉2)でのジャズ生演奏イベントの2度の成功(2019年10月、12月)もあり、「アナログな雰囲気を楽しんでもらえるよう、レコードを楽しめる音響機器なども設置するなど、ゆったりと、これまでの(珈琲屋いこいの)素晴らしさも継承しながら、新店を経営してみたいと思っています」と、これまでの同店の良さを引き継ぎながら、新しい「音楽も楽しめる喫茶店」としてのチャレンジを行っていく予定とのこと。

懐かしいあの「いこい特製ハンバーグ」の味に、また出逢えるかも(瀬川義雄さん提供)

懐かしいあの「いこい特製ハンバーグ」の味に、また出逢えるかも(瀬川義雄さん提供)

同じ日吉、そして日吉台中学校出身どうしというつながりもあり、「池田さんとは(喫茶店経営についての)考え方が近いように感じています。まさに“最適な方”にお店の経営を継いでもらえて、本当に良かったと感じています」と瀬川さん。

人気メニューの「いこい特製ハンバーグ」やアップルケーキなど、瀬川さん夫妻のノウハウも引き継ぎながら、店舗リニューアルなどを行った後、来月(2月)上旬頃に「喫茶かなで」(仮称)として再オープンする計画です。

「いこい」の良さをバトンタッチ、独自色でのアレンジも想定

鳥の巣箱も写っている、神宮外苑の森で撮影されたという大型パネル写真。「オープン時刻に応じてアレンジしていくことも検討しますが、お店のイメージとともにこの写真も極力残していきたい」と池田さん

鳥の巣箱も写っている、神宮外苑の森で撮影されたという大型パネル写真。「オープン時刻に応じてアレンジしていくことも検討しますが、お店のイメージとともにこの写真も極力残していきたい」と池田さん

池田さんは、「珈琲屋いこい」から継承していきたいポイントについて、「店内の清楚(せいそ)なイメージ、特製ハンバーグなどの一部メニューの味、そして、瀬川さんからそれらを引き継ぐにあたり、(時折)瀬川さんご自身にも店頭に立ってもらいたいと考えています」という、同店のファンからすればなんともたまらないプランまで交渉・検討しているとのこと。

店内に大きく掲示された、森林をイメージしているパネル写真については、「お店の建設当時、“いこい”のイメージを建築事務所の方にお話ししたら、それに合うようにと、事務所の方が自ら(東京の)神宮外苑に赴(おもむ)き、撮影してきてくれたものなんです」と瀬川さん。

これからも継承されていく予定だという、店内にある“風景”や、味のレシピについても、「少しずつ独自色を出していくことになりますが、瀬川さんの想いや理念については、しっかりとつないでいきたい」と意気込む池田さん。

日吉出身者どうしの店舗継承の一事例として大きな注目が集まっている

日吉出身者どうしの店舗継承の一事例として大きな注目が集まっている

世代を越え、日吉で継承されていく新しい事業のバトンタッチの事例は、超少子高齢化による劇的な人材・後継者不足に悩む中小企業や個人事業主にとっての「モデル事例」となり、また、多く近郊に住まう人々にとっても、より明るい未来を感じさせる事案として、地域の大きな話題に。

また、「喫茶かなで」(仮称)のオープン日には、瀬川さん、池田さん双方の想いが響き合い、「珈琲屋いこい」時代からのファン、そして新しい店に期待を寄せる人々の想いも、新しいハーモニーとなって、日吉近郊の、より新しい“地域まちづくり”の一助となっていくことが期待されそうです。

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【参考リンク】

ようこそ珈琲屋いこいへ(「珈琲屋いこい」公式サイト)※2019年12月22日閉店

お知らせ(同)※閉店の案内、新オーナーへの店舗継承についてなど

ワンダーウォール横浜公式サイト ※新オーナー・池田さんが浜銀通りで音楽レストランを経営


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