【沿線レポート】日吉・綱島・高田から鉄道やバスで1本、または一度程度の乗り換えによって往来できる観光地やスポットを不定期で紹介してきた当コーナー。定期連載化へ向け、今後は港北区在住のライター・田山勇一氏が担当します。今回は川崎駅前のビル内にオープンして話題となっている「カワスイ川崎水族館」を訪ねました。
電車やバス“一本”で行ける地は広範囲
新型コロナウイルスの蔓延で人の動きが鈍り、春以降はイベントもほぼ消え、この「横浜日吉新聞」でも記事にすべき内容が極端に減っているようで、当方に「日吉・綱島・高田沿線レポート」の原稿依頼が舞い込み、私、ライターの田山勇一が担当することになった。まだ不定期掲載の状態ですが、ご愛読のほどお願いいたします。
この連載では、日吉駅や綱島駅、高田駅から電車やバスで“一本”で行ける観光地やスポットを紹介することがミッションだという。
過去にも書かれているが、日吉駅からは東急線が都内の地下鉄(東京メトロ副都心線や南北線、都営三田線)へ直通し、さらには西武鉄道や東武東上線にも乗り入れているので、一本で行ける範囲は都内各地はもちろん、埼玉県にまで広がっている。
綱島駅からは路線バスで川崎駅や鶴見駅、青葉区の江田駅などへも通じている。日吉駅や高田駅からは横浜市営地下鉄のグリーンライン沿線もある。日吉駅からは山梨・静岡方面へ高速バスも運転されている。
行くべき先は無数に見つけられそうな気もするが、いざ探してみると「これだ!」というスポットがすぐには思い当たらない。
そうなると過去の当欄のように、東横線の電車にひたすら乗り続け、終点となっている埼玉県の「森林公園駅」までとりあえず行ってみる、といったマニアックな内容を選んでしまいかねない。
そこで今回の行先は、実は近所なのに若干遠い気もする「川崎駅」。少し時間はかかるが、綱島駅からは臨港バスで“一本”で行けるので、正真正銘の「沿線」である。
経済ドキュメントも取り上げた新水族館
その川崎駅では今年(2020年)7月17日、駅前の商業ビル内に水族館がオープンした。一応“横浜”である港北区に住んでいると、となりの街で距離も近いはずなのに、川崎の情報があまり入って来ない。「としまえん」の閉園とかで大騒ぎするようなメディアの“東京中心主義”に私も毒されているためだろう。

川崎駅前の商業ビル内で7月17日にオープンした「カワスイ川崎水族館」の公式サイト
そんななか、テレビ東京の経済ドキュメント「ガイアの夜明け」で、「新たな挑戦…日本初の水族館を作る!~日本初の水族館を作れ!挑んだ男たち8カ月の記録」(8月11日放送)という番組を見かけ、日本の水族館を数々手掛けてきたという74歳の起業家が狭いビル内を舞台に、展示内容に苦心している様子に興味をかき立てられた。
この番組は、私のような中高年男性がひとりで水族館を訪問するモチベーションを上げてはくれたが、場所はオープンしたばかりで話題の“ビル内水族館”だ。
土曜日に訪ねると、すでに長い列ができていて、若いカップルとファミリーとばかりという客層で、少しひるんでしまった。
庶民的な姿に変わった“駅前一等地ビル”
カワスイ川崎水族館は、川崎駅東口の駅前に建つ「川崎ルフロン(LeFRONT)」という商業ビルの9階と10階に設けられている。
このビルには、スーパーの「ライフ」がいきなり1階にあり、飲食店街は丸亀製麺とか、びっくりドンキーなどが入っていて、そのほかのテナントも「ヨドバシカメラ」や100円ショップ「Seria(セリア)」など、駅前一等地なのに庶民的な雰囲気が漂っているが、かつては「丸井」や「西武百貨店」が入っていたのだという。
川崎駅前では、幸区側の「西口」にあった東芝の工場跡地が再開発され、大型商業施設「ラゾーナ川崎」を中心とした“新しい街”が出来上がってからは、古くからの繁華街である「東口」が苦戦している様子だ。
そんな東口の一等地ビルである「川崎ルフロン」に人の流れを呼び戻す起爆剤として、大規模改装を機に誘致されたのが水族館だった。
新築のビルではなく、従来からある商業施設内に水族館を設けるのは日本で初めてのことだといい、「都会にいながら、世界の水辺を散歩するように楽しむことができる、新感覚のネイチャーエンターテインメント水族館」(同館)になっているのだという。
サンシャインと比べても見劣りしない規模
スーパー「ライフ」の脇にある直行エレベーターで上がった10階がカワスイの入口で、入場料は「昼間」(10時~17時)が大人2000円、高校生が1500円、小・中学生は1200円、4歳以上の幼児が600円。18時から22時までの「夜間」も同一の料金で、昼と夜は入れ替え制となっている。
映画を観るよりも少し高い金額の入場券を買って入った水族館内には、「多摩川ゾーン」「オセアニア・アジアゾーン」「アフリカゾーン」「南アメリカゾーン」「パノラマスクリーンゾーン」「アマゾンゾーン」と名付けられた6つの展示ゾーンが設けられ、計69個の水槽がある。
9階と10階の2フロアを合わせた延べ床面積は約7000平方メートルで、「八景島シーパラダイス」(約2万平方メートル)や「新江ノ島水族館」(約1万2000平方メートル)などと比べてしまうと小さい規模だが、ビル内にある老舗の「サンシャイン水族館」(約8000平方メートル)や、東京スカイツリーの商業施設内で2012年にオープンした「すみだ水族館」(約7800平方メートル)と比較するならば見劣りはしない。
館内には木々の緑で囲まれた水槽も多く、悠々と無数の魚が泳ぐ姿を眺めていると、ここがビル内であることを忘れさせてくれる心地よい空間で、入場料分の価値があると感じる。夏の水族館が涼しい雰囲気なのも良い。熱帯系の魚が目立つので色も鮮やかで、展示されている植物も豊富だ。
ただ、他の水族館と少し異なるのは、各水槽に説明文が無いことで、水槽の前には「QRコード」が貼り付けられ、スマートフォンで読み取ると、ネット上で説明文が表示される仕組みとなっている。
「新感覚のネイチャーエンタメ」を志向
無料Wi-Fiが整備されているとはいえ、スマートフォン上に表示される説明文も、印刷して貼り出せる程度の分量しなかく、いちいちインターネット上で閲覧させる意味が分からないし、QRコードも上手く読み込めない!
などと、小さな不満を抱えている入場者は、私の周辺では見当たらず、館内で目立つ10代から20代のカップルは楽しそうにQRコードへスマートフォンを向けているし、幼児や小学生はそもそも説明文など読むことはなく、面白い魚や生物を見つけるたびに驚いたり、素直に歓声を上げたりしている。
また、館内各所では、AI(人工知能)がリアルタイムで解析して生きものの解説を表示するという水中カメラ映像も流されていて、泳いでいる魚の解説を随所で見ることもできる。
こうした「IT」を駆使しているのもカワスイの特徴で、CG映像を流す巨大なスクリーンもあって、目の前にイルカやクジラが現れるので、子どもはそれらを触ろうと大喜びだ。
「新感覚のネイチャーエンターテインメント水族館」というのは、こういう部分を言うのだろう。
低い年齢層の客で混雑、空いている平日に
新型コロナウイルスの影響もあるのか、これまでは人の集まる観光地などでは必ず“多数派”を形成していた高齢層の姿は、今日の水族館内にほとんどなく、年齢層の低い人々によって若干密集気味となっていたのは、気がかりなところ。
平日に訪れたなら異なるのかもしれないが、オープン間もない土曜日ということもあって、ゆっくり水槽を眺められる環境とはいえなかった。
何より、今も首都圏で日々数百人単位の感染者が出ている現状を考えると、多くの人が集まる屋内施設でのんびりもしづらい。
できれば平日に訪れ、年間パスポート(大人4000円または6000円)を買うなどして、人の少ない時期を狙って、満喫してみることをおすすめしたい。
川崎駅へは、綱島駅からバスの往復運賃は440円で済むし、日吉駅からは武蔵小杉駅でのJR南武線への乗り継ぎで往復運賃は588円(ICカード)かかるが、所要は20分ほどと移動時間が短い。買物ついでに水族館へ定期的に通ってみるのも悪くなさそうだ。
【関連記事】
・<レポート>楽しくなった「横浜駅」、今夏の“小さな行楽”スポットに(2020年8月20日、田山ライター担当)
・<レポート>日本に現れた「世界的リゾート地」、日吉からの移住者を訪ねて(2020年2月13日、田山ライター担当)
【参考リンク】
・ルフロン川崎(LeFRONT)の公式サイト(川崎駅東口駅前)