国際園芸博&大型テーマパーク構想の「瀬谷」、3年内には日吉・綱島の沿線 | 横浜日吉新聞

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【沿線レポート】今月(2020年)7月20日、横浜で大型テーマパーク誘致が構想されているとの報道が一部の新聞やテレビ番組で取り上げられて話題となりました。その場所は横浜市の中心部ではなく、西端にある「瀬谷区」日吉・綱島からは、遅くとも2年8カ月後までには「相鉄・東急直通線」(2022年度下期開業予定)を通じて往来できるエリアとなるだけに、その行方が気になります。現状をまとめました。

米軍跡地にテーマパーク誘致の報道

記事は紙面のほか、Web版「朝日新聞デジタル」でも掲載された(有料会員向け)

先週7月20日(月)、朝日新聞は朝刊で「横浜の米軍跡地にテーマパーク構想~TDL級?市も後押し 事業者は未定」という見出しによる記事を掲載しました。

日常は、横浜市の中心部から離れた“郊外部”の話題を扱うことが極端に少ない全国紙ですが、今回は、地方面ではなく社会面の半ページ近くを使って報じる異例の扱い。このほか、テレビのニュースでも同様の内容が報じられています。

朝日新聞による記事の内容は、瀬谷区にある米軍跡地を活用し、東京ディズニーランド(TDL)並みの規模を持つ大型テーマパーク誘致を地権者と相鉄ホールディングスが検討しており、テーマパーク事業者として米国の大手映画会社の名が挙がっているとのこと。横浜市も公共交通機関の新設や区画整理で後押ししていく、などとしています。

瀬谷区が横浜市の“端”にあるという位置環境は港北区と同じ。現在は遠く感じるが、「相鉄・東急直通線」の開業後は電車一本でつながる(2020年3月、横浜市「旧上瀬谷通信施設跡地利用基本計画」より)

テーマパーク誘致構想があるというこの米軍跡地は、相鉄の瀬谷駅から約2キロ離れた場所にある「上瀬谷通信基地」と呼ばれた施設跡のこと。

第二次世界大戦後、横浜スタジアム90個以上、東京ドームなら50個以上分の広さにあたる約242ヘクタールという広大な土地を米軍が接収

他国電波の傍受や暗号解読などを行っていたとされるアンテナなどの通信施設と、軍人用の住宅などを建設して占用していました。

1991(平成3)年に当時のソビエト連邦が崩壊して以降は役割が少なくなったとされ、一時期は「ほぼ無人状態ではないか」と言われるほどに規模を縮小しながらも、米国海軍が広大な敷地を管理し続けた末、2015(平成27)年になってようやく日本へ返還しています。

瀬谷区が上瀬谷通信施設の返還時に区民へ配布した「アンケート付きパンフレット」(2014年)

市の資料によると、跡地は国有地と市有地が約55%を占め、残りの土地は民間の約250人が所有。米軍によって土地活用が厳しく制限されてきたことから、現在も主に農地として使われているといいます。

瀬谷へはJR武蔵小杉から40分で直通

そんな米軍基地跡はどんなところなのか、今年3月に訪ねました。

最寄りとなる相鉄の瀬谷駅へは、JR武蔵小杉駅から「相鉄・JR直通線」の海老名行電車で約40分。武蔵小杉駅から直行できるというのが不思議な気分ですが、3年ほど先には、日吉駅や新綱島駅(仮称)からも同じような環境となるはず。

相鉄・瀬谷駅、区役所などは一つ前の三ツ境駅にある

基地跡へ向かう瀬谷駅の北口で降りると、いきなり視界に現れたのが、おなじみの書店「天一書房」。日吉や綱島や大倉山といった港北区以外の店舗は、この瀬谷店だけとのことです。

“市の端”という以外にも、港北区と瀬谷区に意外な縁があったことを感じながら歩くこと20分。旧基地内を貫く「海軍道路」と呼ばれる一直線道路の左右には、農地と草地が一面に広がりました。

通信基地跡周辺には一般人が入れない農道も目立つ

「この区域は、在日米軍から日本国政府に返還された国有地です」などの立入禁止を呼びかける看板類さえなければ、まるで北海道のような風景。「タヌキに注意」などという看板を見ると、ここが“横浜市内”であることを忘れてしまうほどです。

歩いても歩いても周辺に人が生活している様子は見えず、時おりフェンスで囲まれた一角があったり、「WARNING 警告」と英語と日本語で書かれた看板が放置されていたりするほかは、ただ広大な農地をさまよっている気分

公道からは軍人住宅の痕跡らしき残置物もわずかに見えた

航空写真で見ると、農地の先には、通信施設や軍人住宅の残骸らしき建物類が打ち捨てられている様子ですが、公道を歩いている限りは、そうした姿に接することはできず、いかに広い“空地”であるかを感じさせられます。

八王子街道沿いにある基地の出入口跡には、「U.S NAVAL」「NO PHOTOGRAPHY ALLOWED 写真撮影は禁じられています」といった文字を塗りつぶした看板がそのまま残されており、米軍基地だった頃のわずかな痕跡も見ることができました。

2027年に“花博”規模の「国際園芸博」

“米軍基地”時代の面影を残すフェンスも一部残る

近年は米軍が占有しながらも大部分を基地施設としては使用せずに、“放置状態”だったとの指摘もある広大な基地跡。

2015年の日本返還を機に、その使い道の第一弾として、横浜市がひねり出した案が世界最高クラスとなる規模の「国際園芸博覧会」を誘致することでした。

横浜市は2027年3月から9月にかつての“花博”のような「国際園芸博覧会」を開く計画(2020年6月公開ポスター、市の紹介ページより)

市は、1990(平成2)年に大阪で行われた「国際花と緑の博覧会(花の万博)」と同様の国際博覧会を開くことを計画しており、現時点では、7年後の2027年3月から9月までの期間に開催し、1500万人以上を呼び込む構想だといいます。

現在は路線バスも含め、公共交通機関がまったく無い状態にある瀬谷駅と上瀬谷通信基地跡の間には、市が新交通システムによる新たな「鉄道」として「(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン」の整備も計画。周辺住民への説明会も8月から始まります。

横浜市は相鉄・瀬谷駅の至近から上瀬谷まで新交通システムの建設を計画。線路は複線で最大8両編成とし、1日414本を運転、供用開始予定時期を令和8年度(2026年4月~2027年3月)としている(「(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業に係る環境影響評価方法書」より)

イベント期間中は、「相鉄・東急直通線」(2022年度下期=2022年10月~2023年3月開業予定)や、すでに開業した「相鉄・JR直通線」を通じて首都圏から瀬谷駅へ誘客し、新たに設ける新交通システムで国際園芸博の会場まで運ぶというわけです。

この国際園芸博を終えた後、土地活用をどうするのか、ということで構想されているのが「大型テーマパーク」の誘致。これは地権者が設立した「まちづくり協議会」が中心となって検討しているといいます。

テーマパーク構想、横浜市「十分ある」

地権者らによるテーマパーク構想に対し、土地利用の方針を最終決定する立場の横浜市も「内容を確認し、最終的に何か決まっているわけではありませんが、可能性としては十分あると認識しております」(2020年3月23日「基地対策特別委員会」で小池政則都市整備局長の答弁)と前向きな姿勢を見せています。

横浜市による「旧上瀬谷通信施設土地利用基本計画」では、跡地を4つのゾーンに分け、「観光・賑わいゾーン」については、「大街区化による土地利用を前提に、テーマパークを核とした複合的な集客施設が立地し、賑わい振興を図る」などとしている(同計画より)

市は、テーマパーク構想に相鉄が関与していることも明かしており、「地元の協議会のほうに提案を行った企業の一つが相鉄で、具体的な特に民有地の部分の土地利用を検討していくときのパートナー、まず最初の相談相手という形で地元の協議会で選んでおります」(同)と説明します。

沿線の二俣川駅近くに置かれている「運転免許センター」以外に著名集客スポットが少ない相鉄にとっても、大規模なテーマパークを誘致することは、乗り入れ先のJR線や東急線を通じて都心からの誘客も可能となるだけにメリットは大きいとみられます。

相鉄ホールディングスは、朝日新聞に記事が掲載された7月20日に「相鉄線沿線の活性化視点でさまざまな検討を進めていることは事実ですが、本地区に関わる事業に関して、現時点で当社として決定した事実はありません」との見解を発表しています。

(※)2021年6月3日追記:テーマパーク誘致の検討パートナーとして、相鉄が離脱していたことが横浜市から明かされました。文末参照

USJより広い「100ヘクタール規模」想定

テーマパークが構想されている土地の規模について横浜市は、「道路とか基盤施設を除くと100ヘクタール規模になり、100ヘクタール規模の中にテーマパークがあって、商業施設、その他の関連施設があるというものを現時点では想定しております」(同委員会で市都市整備局上瀬谷担当部長)と説明。

今はタヌキが出るほど自然がいっぱい残る旧上瀬谷通信施設周辺だが、今後は大きく変わる可能性が高い(2020年3月撮影)

なお、東京ディズニーランドはテーマパークエリアの広さが51ヘクタール、大阪のテーマパーク「USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)」の敷地面積は54ヘクタールという広さを持つことが公式資料などで明かされています。

上瀬谷通信基地跡では商業施設などを含め、現時点で100ヘクタールの土地利用が想定されているということは、スペース的にはテーマパークの誘致自体は可能である規模といえそう。

また、上瀬谷通信基地跡はもともと道路交通の環境が良好である点も見逃せません。敷地の一部に面するように八王子街道(国道16号線)が通過し、基地跡内の「海軍広場」(一般開放用の広場)を基準として見ると、「保土ヶ谷バイパス」の上川井インターチェンジ(IC)へは約2.2キロ、「東名高速道路」の横浜町田ICへも3キロほどの位置にあります。

東急「南町田グランベリーパーク」も近い

旧上瀬谷通信施設は交通の利便性が高く、2つのインターチェンジと瀬谷駅が近くにあるだけでなく、東急田園都市線の「南町田グランベリーパーク駅(旧南町田駅)」(町田市)や小田急江ノ島線の「鶴間駅」(大和市)もアクセス範囲となりそう(2019年8月農林水産省「横浜における国際園芸博覧会の基本構想案」より)

上瀬谷通信基地跡への公共交通機関は、市が瀬谷駅からの新交通システムを新たに整備することに加え、東急グループが近年開発に力を入れてきた田園都市線の「南町田グランベリーパーク駅(旧南町田駅)」へも約3.5キロという環境。

南町田グランベリーパーク駅は東京都町田市にあるものの、上瀬谷通信基地跡(海軍広場)から1.8キロほど離れた瀬谷区五貫目町の大型住宅街「マークスプリングス」と同駅は路線バスで結ばれるなど、一部区民の生活圏となっています。

国際園芸博の開催や大型テーマパーク誘致自体は、田園都市線沿線からの輸送や周辺の賑わい増加という面で、東急電鉄にもメリットを見出せる可能性があります。

「相鉄・JR直通線」の開業により、すでにJR武蔵小杉駅から相鉄の瀬谷駅まで直通できる環境にある(JR武蔵小杉駅)

相鉄線が乗り入れた後の日吉や綱島など、東横線や目黒線の住民にとっても、“電車一本+新交通システム1駅”で容易にアクセスができるため、今より格段に身近な場所となりそう。

ただ、国際園芸博が開かれるのは今から約7年先の2027年。誘致が実現すればテーマパークが開園するのはそれからさらに後のことです。

地元からは「大型テーマパークのような民間企業の営利目的の開発はせず地域住民の生活に役立つ跡地利用にしてほしい」(横浜市の土地利用基本計画(素案)に対する市民意見)といった反対の声も市に寄せられています。

TDLやUSJをしのぐほどの広大なスペースに見合うテーマパークを運営できる企業を誘致できるかどうかも鍵で、今後の動向は、横浜市民から広く注目を集めそうです。

2021年6月3日追記:これまでテーマパーク誘致時の“検討パートナー”となっていた相鉄ですが、横浜市によると、今年3月時点で“相鉄が主体となった形でテーマパーク誘致を行っていくのは難しい状態”だったことが2021年6月3日の横浜市会で明かされました。新型コロナウイルス禍の影響で鉄道事業が苦しくなっていることが背景にあるといいます。今後もテーマパーク誘致を続ける場合は、他の事業者が主体となる可能性があります。

【関連記事】

<レポート>横浜の免許所持者が一度は行く「二俣川」、激変する“近未来の沿線”(2018年8月23日)

【参考リンク】

旧上瀬谷通信施設地区の総合ページ(横浜市)

瀬谷区「旧上瀬谷通信施設について」(瀬谷区・旧上瀬谷通信施設ニュースなど)

国際園芸博覧会について(横浜市)


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