日吉駅から“電車一本”で行き来が可能な3都県36市区町にわたる「日吉沿線」を紹介するこの企画。今回は日吉から約75キロ先、沿線のなかでもっとも遠い場所にある埼玉県比企(ひき)郡滑川町(なめがわまち)の「森林公園駅」まで行ってみました。
埼玉県にゆかりのある人以外は、比企郡滑川町といってもまったくピンと来ない人のほうが多いのではないでしょうか。そもそも日吉では、森林公園という駅名自体を知る人のほうが少ないかもしれません。東武東上線の川越よりかなり先、東上線の終点(寄居駅)に近いような場所にあります。
日吉駅を発車する電車のなかで、森林公園へ直通するのは平日の朝と夜の1日4本、土日祝日は夜にわずか2本(2016年2月現在)しかなく、東急東横線の“超レアキャラ”といえる存在です。そんな貴重な列車の1本、日吉駅を9時17分に発車する森林公園行の「通勤特急」に乗ってみました。
平日朝に2本運転されているうちの1本で、もう1本は日吉を8時3分に発車しています。日々都心へ通勤・通学している方なら、平日朝8時台の東横線渋谷方面行の通勤特急がいかに恐ろしいかはご存知のことと思います。なので9時台の列車に乗ったのですが、やはり渋谷までは超満員。最近は10時出社の企業も増えていることを感じさせられます。
通勤特急の区間は渋谷で終わり、この先は森林公園までは各駅停車に変わります。あと34駅、残り1時間37分間……。
ちなみに、この列車に乗るかわりに、日吉駅から新横浜へ行って東海道新幹線に乗れば、余裕で名古屋駅に着いている頃に、森林公園へは着いていません。それだけ日吉からは遠い場所なんです。
副都心線の新宿三丁目を過ぎるとようやく車内が空いてきて、和光市から東武東上線に入ると、朝のラッシュ後の閑散とした車内となりました。
国営の巨大公園と立正大学のキャンパスがある
日吉駅を出発してから1時間57分後、11時13分に「日吉沿線」でもっとも遠い森林公園駅へ着きました。山や緑が間近に迫っていて、日吉駅出発時の通勤ラッシュとは完全に別世界。当然ですが、日吉からずっと乗っている客は皆無。池袋からでも見当たりません。最後は1両に1~2人しか乗客がいませんでした。
なぜこんな電車があるのかというと、ここに東武東上線の車庫が置かれているため、車両の回送がてらに運転されているのです。それでも日吉沿線が遠くまで伸びていくのは嬉しいところです。
森林公園は、その駅名の通り付近に公園があります。正式名称は「国営武蔵丘陵森林公園」といい、国が作って運営しているもので、首都圏に3つしかない国営公園の1カ所がここにあります。一般的には“森林公園”で通じます。
公園以外で特筆すべきは、品川区大崎にキャンパスを置く立正(りっしょう)大学のなかで、地球環境科学部や社会福祉学部の学生が通う「熊谷キャンパス」の最寄り駅となっていることです。
同キャンパスは熊谷駅と森林公園駅の中間的な位置に置かれているため、森林公園は熊谷にかなり近い場所ということがいえます。
子どももペットも満足、公園近隣には温泉施設も
観光地である「森林公園」へは、駅から立正大学の学生と同じ路線バスに乗って7分ほど。平日の日中は1時間に2~4本しか便数がないのですが、土日祝日は公園まで直通バスも運転されます。
バスが着くのは、森林公園のなかでも「南口」という一番“端”にある場所です。公園全体では東京ドーム65個分あるという広さなので、北端にある「北口」になると、熊谷駅に近い位置です。
公園の入場料は大人410円、65歳以上は210円、小・中学生は80円(乳幼児は無料)。この安さは国営公園ならではでしょう。園内をひたすら散策するのも面白そうですが、レンタサイクル(3時間410円、子ども260円)もあり、専用道を走ることができます。また、広すぎる園内では、主要箇所を結ぶバス(1回乗車210円、子ども100円)も運転されています。
子ども連れにおすすめは中央部の「西口」にある「むさしキッズドーム」や「わんぱく広場」「冒険コース(アスレチック)」「水遊び池」といった施設が揃ったエリア。1日遊んでも退屈しないくらいの施設があります。また、「北口」に近い場所には約6000平方メートルの「ドッグラン」もあり、ペット連れでも楽しめます。このほか、園内ではバーベキューも行えます。
土日祝日は観光客が多いのですが、平日は主に学校のマラソン大会や行事、中高年層のマラソンやハイキングコースとしての利用者が目立っていました。
ちなみに公園南口に比較的近い場所には天然温泉の「なめがわ温泉 花和楽の湯」(入館料880円~)もあり、土日祝日は公園へのアクセスバスも立ち寄ってくれます。散策後の湯治に最適かもしれません。
サイクリング観光客が激減、今は穴場スポット?
そんな観光名所の巨大公園がある「森林公園」駅ですが、1974(昭和49)年のオープンから40年超、観光客は年々減りつつあるようです。
かつてはサイクリングの名所として首都圏各地から客が押し寄せ、駅や公園周辺には幾つものレンタル自転車店が軒を連ねていたといいます。昨年(2015年)末に東武鉄道の直営レンタサイクルが閉店してしまい、今や貸自転車店はゼロ。東武沿線で発売されていた「東上線サイクリングクーポン」という割引観光切符も廃止になっています。(森林公園園内の貸自転車は今もあります)
「昔は昼も夜も観光客がいっぱいで休む暇さえなかったもんだけど、今は全然ダメ。もう日曜は店を閉めてるよ」。駅前の食堂でそんな声が聞かれました。
逆に考えてみれば、土日祝日でも比較的空いている“穴場行楽スポット”ということもいえます。日吉からはちょっと、いや、かなり遠いのですが、「沿線」ということで、心の片隅に森林公園駅の存在をぜひ覚えておいていただけたらと思います。
ちなみに日吉からの運賃は1080円。パスモ・スイカの残高不足には十分ご注意ください。なお、森林公園駅からは東急東横線への切符が売っていなかったりします。やはり日吉からは遠い場所なんだなあ……。
【関連記事】
・日吉駅から1本でアクセス、3都県36市区町に繋がる「日吉沿線」に迫りたい!(2016年2月12日)
【参考リンク】
・国営武蔵丘陵森林公園(森林公園)
・東武東上線の各駅ガイド(東武鉄道)
・相互直通運転のご案内(東武鉄道、各路線の見所紹介)
・東急「日吉駅」の時刻表(東急電鉄)