地域の大切な「北綱島特別支援学校」が消される!人口増なのに“縦割り行政”の弊害で

横浜日吉新聞
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9月17日に行われた北綱島特別支援学校(綱島西5)の「存続を求める集い」には保護者だけでなく、児童生徒も参加した

学校教育法で根拠のない「分教室」による“存続”では、いずれ閉校となる公算が高い――。

昨年(2015年)9月に横浜市から閉校の方針が明かされた北綱島特別支援学校(綱島西5)について、「存続を求める集い」が今月(2016年9月)17日に港北公会堂で開かれ、同校の保護者や児童生徒、教育関係者、議員、地元住民など約90人が集まりました。人口急増により障がいを持つ児童生徒数も増え続ける港北区や鶴見区などの横浜市北部地域。そんな人口密集地にある特別支援学校を閉校する方針を打ち出したのはなぜなのか。そこには、市の“縦割り意識”が反映されている可能性があることがわかりました。

そもそも、なぜ北綱島特別支援学校が閉校の対象となったのでしょうか。まず、障がい児を受け入れる特別支援学校(旧「養護学校」)の設置状況はどのようになっているのかを見ていきましょう。横浜市内には県立・市立・国立・私立を含め、次のような割合で設けられています。

<神奈川県立

・鶴見養護学校(駒岡4)など8校(+8分教室)
(※日吉にきわめて近い川崎市中原区井田3丁目には「中原養護学校」もある)

<横浜市立

・北綱島特別支援学校など12校(+1分教室)

<国立>

・横浜国立大学教育人間科学部附属特別支援学校の1校

<私立>

・聖坂養護学校と横浜訓盲学院の2校

以上のように、横浜市内には計23(プラス9分教室)の特別支援学校が置かれています。

公立高校が主に「県立高校」と「市立高校」の2つに分かれているように、公立の特別支援学校も同じように「県立」と「市立」の2種類が存在。横浜市をはじめとした「政令市」は、都道府県並みの権限や予算を持つため、独自に公立高校や特別支援学校を設置しているのです。

横浜市内での特別支援学校は、県立よりも市立のほうが数が多いほどで、政令市がいかに力を持っているかがわかります。同様に政令市である川崎市も3校と1分校を独自に開設しています。

一方で、特別支援学校を設ける義務は「都道府県」にある、と法律で決められているため、逆に言えば「政令市に設置義務はない」という見方もでき、「最終的な責任はないが、市が任意で開設している」ということも言えるでしょう。

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重度の障がいを持つ児童生徒が通えるのは市内6校

横浜市内に22ある特別支援学校のなかで、手足や身体が動かない「肢体(したい)不自由」と「知的障がい」を併せた重度の障がいを持つ児童や生徒(重度重複障がい児)を受け入れているのは、以下のように北綱島特別支援学校をはじめとした市立4校と、県立2校の計6校があります。

横浜市内の肢体(したい)不自由特別支援学校は、市内にバランスを考えて配置されている(「存続を求める集い」より)

現時点では、横浜市内の肢体(したい)不自由児童生徒の特別支援学校は、市内にバランスを考えて配置されている(「存続を求める集い」より)

・【横浜市立】北綱島特別支援学校(港北区綱島西=地下鉄「日吉本町」から徒歩10分)

・【横浜市立】中村特別支援学校(南区中村町=地下鉄「阪東橋」から徒歩7分)

・【横浜市立】若葉台特別支援学校(旭区若葉台=JR横浜線「十日市場」からバス約15分)

・【横浜市立】東俣野特別支援学校(戸塚区東俣野町=各線「戸塚駅」からバス約20分)

・<県立>三ツ境養護学校(瀬谷区二ツ橋町=相鉄線「三ツ境」から徒歩15分)

・<県立>金沢養護学校(金沢区富岡東=シーサイドライン「鳥浜駅」から徒歩8分)

参考<県立>中原養護学校(川崎市中原区井田=「日吉駅」からバス10分+徒歩5分)

重度重複障がい児を受け入れている特別支援学校に関しては、横浜市内の金沢区から港北区まで、広い市内をカバーするべく、市立と県立を合わせて6校を比較的バランス良く配置されていることが分かります。

特に日吉周辺で見ると、北綱島特別支援学校に加え、川崎市内にある県立中原養護学校も最寄りとなっており、恵まれた環境であるようにも見えます。

軽度の障がい児童生徒が1校に集中、再編案の末路

また、横浜市内には上記の6校以外にも、主に軽度」の肢体不自由な児童生徒が通う「上菅田(かみすげた)特別支援学校」(保土ケ谷区上菅田町=新横浜駅からバス約20分、横浜駅からバス約25分)が置かれています。

この上菅田特別支援学校は、横浜市内全域から軽度の児童生徒が通うことになるため、横浜市立の特別支援学校ではもっとも大きい規模となり、大型スクールバス11台で送迎を行っているほどだといいます。

横浜市が2015年9月14日に横浜市会で初めて示された肢体不自由特別支援学校の再編計画の詳細(市会ホームページより)

横浜市が2015年9月14日に横浜市会で初めて示された肢体不自由特別支援学校の再編計画の詳細(市会ホームページより)

そこで横浜市は、上菅田特別支援学校の過大規模化を緩和するために、肢体不自由の特別支援学校の再編計画に乗り出します。

たまたま市内には、旭区の保土ヶ谷バイパスに近い左近山(さこんやま)に、統合再編で2013年に閉校となった「左近山第二小学校」の校舎が残されており、ここを新たに「横浜市立左近山特別支援学校(仮称)」として転用する計画を決めました。

一方、軽度の肢体不自由児童生徒については、主に重度重複障が通う他の市立特別支援学校4校でも受け入れることをあわせて決定します。

市は軽度の肢体不自由な児童生徒に対して通える学校の選択肢を広げる一方、北綱島については「軽度の児童生徒を受け入れるための増築ができない」と判断。閉校するとの方針を昨年(2015年)9月に発表しました。

横浜市が特別支援学校を新たに1校作るかわりに、人口急増地域にあるが増築ができない北綱島を閉校する――という構図です。

北綱島特別支援学校の児童生徒数は増え続けている(「存続を求める集い」より)

北綱島特別支援学校の児童生徒数は増え続けている(「存続を求める集い」より)

北綱島を含め、市内の特別支援学校の生徒児童が右肩上がりで増え続けているなかで学校数を減らす方針については、「特別支援学校の設置は県の義務であるため、市として肢体不自由特別支援学校は最大で5校という考え方があり、それ以上は増やしたくないのではないか」(教育関係者)との見方があります。

人口増加エリアであったり、生徒児童が増えているか否かはまったく関係なく、県と市の“縦割り行政”の余波で、北綱島が廃止の対象になった可能性があるというのです。

また、軽度の児童生徒を受け入れるための拡張余地がないという点についても、北綱島特別支援学校の保護者からは「根拠がよくわからないし、市から詳しい説明もない」との声があがります。

集会に参加した港北区選出の神奈川県議会議員からは、「市が北綱島を維持をできないのならば、本来の設置義務者である神奈川県が運営に乗り出すのも一つの方法ではないか」と提案していました。

自ら立ったり座ったりもできない全介助の児童生徒

北綱島特別支援学校には現在72人の児童生徒が在籍しており、このうち33人が港北区内の在住者で、鶴見区は19人、都筑区が14人、神奈川区は6人となっています。横浜市はこの72人に対し、市が指定する他校へ転校するよう求めました。

北綱島特別支援学校の児童生徒の分布図、通学距離が延びると児童生徒だけでなく、保護者の負担も大きく増す(「存続を求める集い」の配布資料より)

北綱島特別支援学校の児童生徒の分布図、通学距離が延びると児童生徒だけでなく、保護者の負担も大きく増す(「存続を求める集い」の配布資料より)

しかし、北綱島特別支援学校に在籍する72人の多くは、自ら歩くことはもちろん、立ったり座ったりもできない全介助が必要な児童生徒です。超難病と言われていたり、入退院を繰り返しながら週に数回だけ通ったりする児童生徒もおり、現在の30分から最大1時間程度の通学時間であっても大きな苦難がともなうといいます。

スクールバスには、介助者が同乗していますが、万が一てんかんや発作が起きた際には、医療的な対処が難しいという不安もあります。

また、学校の授業中に体調を崩す児童生徒も多く、保護者が緊急に迎えにいくケースは学校全体で年間115回にのぼります。自家用車を持っていない家庭では、車いすを載せることができるタクシーをチャーターし、緊急呼び出しの度に数千円を負担し、北綱島特別支援学校へ急行することになります。

そのため、北綱島特別支援学校の児童生徒の保護者のなかには、負担を減らすために学校の近隣に家を買って引っ越しする人も目立つといいます。「借金を抱えて近所に家を買ったのに、閉校となれば何のためだったのか」(保護者)。

井田の中原養護学校は7台の送迎バスが満員の状態

北綱島特別支援学校が閉校となった場合、比較的近い場所の川崎市中原区井田には県立中原養護学校があるため、ここに転校ができれば、通学距離という面では比較的負担が少ないようにも考えられます。

川崎市内の特別支援学校でも児童生徒は増え続けており、(「存続を求める集い」より)

川崎市内の特別支援学校でも児童生徒は増え続けており、北綱島の児童生徒が近隣の中原養護学校へ転校するのは容易ではない(「存続を求める集い」より)

しかし、中原養護学校の現役教員は、「中原が持つ7台のスクールバスは現在でも満杯の状態で、70分以上をかけて通学している生徒児童もいる。今も横浜市からは北綱島特別支援学校を閉校するという話さえ来ていない」と話し、中原養護学校での受け入れは困難ではないかと見方を示します。加えて、市が県とまったく連携していないこともうかがわせます。

もっとも近い中原養護学校に入れないとなると、北綱島特別支援学校の生徒児童は、南区や旭区、戸塚区、瀬谷区、金沢区の特別支援学校へ通うしかなくなってしまいます

いずれの学校でもスクールバスでの送迎が行われるとはいえ、現在でも苦難がともなう通学時間がさらに伸びることは確実です。また、緊急時に保護者が迎えにいく負担は大きく増えることになります。

現在の児童生徒が卒業するまでだけの“存続”

昨年9月に閉校が発表された後、北綱島特別支援学校の保護者らはただちに閉校方針の撤回を求める請願書を横浜市教育委員会に提出したほか、地元の綱島でも自治会・町内会が中心となって閉校撤回の署名集めに奔走。その結果、短期間で3万筆以上が集まっています。

こうした動きが功を奏したのか、横浜市は閉校方針こそ撤回しないものの、「現在の児童生徒が卒業するまでは『分教室』として存続させる」との案を示しています。

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港北区など4区での重度障がい児は現時点で437名にのぼると推計されている(「存続を求める集い」より)

現時点では「分教室」という形で“存続”の方針が示されていますが、これはあくまでも「現在の児童生徒が卒業するまでは面倒を見る可能性がある」という表明にすぎません。分教室では新入生を受け入れない方針をとるとみられ、そうなれば、いずれ在籍する児童生徒数は「0人」となります。

港北区や鶴見区、都筑区、神奈川区では人口が2035年ごろまでは増え続けると予想されており、同時に特別支援学校へ通うことになる障がい児の数も増加が見込まれます。

北綱島特別支援学校が閉校になれば、港北区など4区の人口増加地域で肢体不自由な児童生徒を受け入れる学校は、中原養護学校を除いてなくなることになります。今でも飽和状態にある中原養護学校へ通えない場合は、遠方の学校へ1時間以上をかけて通うしかなくなります

治る見込みのない難病や障がいを抱え、日常の生活でさえ困難がともなうなかで、遠い学校へ通うことは、児童生徒本人はもちろん、保護者の負担もさらに大きくなるはずです。

通学時間の長時間化は生命の危険につながる

今回の集会に参加していた北綱島特別支援学校の保護者は、「入退院を繰り返しているため、今は週に2~3回の登校だが、学校が大好きだという子どもにとって、夢のような時間を過ごさせてもらっている。(入院が多く)いつまで通えるかは分からないが、通学時間が長くなってしまうと生命の危険があるため、今のままの北綱島に通わせてほしい」と涙ながらに訴えました。

「存続を求める集い」では北綱島小学校との交流の様子も紹介された

「存続を求める集い」では北綱島小学校との交流の様子も紹介された

今から31年前に「当時はネギ畑だった土地に、地域が受け入れた」(地元住民)という北綱島特別支援学校。それから四半世紀以上にわたり、綱島をはじめ、最寄り駅の日吉本町も含め、綱島・日吉の地域とともに歩んできました。隣接する北綱島小学校はもちろん、日吉台中学校や慶應義塾高校など、地域の学校とも交流を深めるなど、街に溶け込んできた学校です。

もし、重度の障がいを持つ児童生徒が学ぶ場が綱島から消されてしまえば、港北区だけでなく、鶴見区や都筑区、神奈川区など広いエリアに影響が及びます。

残された時間は多くありません。これからも人口が急増し続ける地域に住む住民として、今後も必ず必要となる公共施設が廃されてしまいかねないという事実を、真剣に考える時に来ています。

【関連記事】

人口増エリアでなぜ閉校?「北綱島特別支援学校」の存続求める集い9/17(土)に(2016年09月1日)

「北綱島特別支援学校」閉校に広まる反対の声、“分教室”で存続延長案も(2015年12月16日)

【参考リンク】

北綱島特別支援学校の公式ホームページ

肢体不自由特別支援学校の再編整備計画についてPDF、2015年9月14日、横浜市教育委員会が最初に横浜市会へ提出した資料)


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