綱島の歴史伝える文化財を守るためには――横浜市の有形文化財に指定されている綱島の古民家で、港北消防や消防団、地域がタッグを組んだ初の防火訓練がおこなわれました。
横浜市消防局は、今年(2023年)1月26日(木)の「文化財防火デー」にあわせて、横浜市内15カ所の「文化財(建築物)」での消防訓練を公開し実施。
先月2月4日(土)10時から12時まで、綱島郵便局にも隣接した綱島台にある古民家「飯田家住宅」でおこなわれた防火訓練に、港北消防署綱島消防出張所(綱島西3)や、港北消防団、地元の横浜市立北綱島小学校(綱島西5)の在学児童や自治会・町内会の地域防災拠点の運営者、地域住民ら約40人が参加しました。
訓練実施の冒頭には、伊藤健太消防出張所長があいさつ。
「飯田家住宅」の長屋門は江戸時代に作られたこと、母屋は明治時代中期に再現されたことや、飯田家が江戸時代に北綱島村の名主を務め、農地の開墾や鶴見川の改修に尽力した名家であることなどを説明。
市の有形文化財に指定されていることや、第14代当主の飯田助知さんが、神奈川県立高校で世界史の教諭や校長を務めたという経歴についても紹介したうえ、「歴史の保護と防災について感じていただき、皆様の防災意識の高揚をはかり、地域防災力を高めることを目的とし実施します」と語ります。
伊藤所長の紹介を受けた飯田さんは、講師として「文化財所有者」としての講話を実施。
特に江戸時代という時代において奢侈(しゃし)な建物を建てることが難しかった時代背景に言及し、「箱舟が瓦屋根にのっている、この極めて珍しいこういった建物を作ることができたのは、幕府からみて地域の治安とか防災についてあるいは税金の徴収について役割を果たしていたのではないか」と、名主としての役割を果たしてきた飯田家の歴史、信頼を受けて保存してきた建物の価値についても説明します。
「建物を大切にするということは、そこに住む人、地域の人たちを大切にするということ」と、これまでも地域の人々との“心の通じ合い”を大切にしてきたこと、そしてそういった“心”の在り様こそが防災にも通じていると、文化財を大切にすることや、防災の意識を地域の人々と共有することの重要性についても言葉を選びながら訴えていました。
訓練は「飯田家住宅」と「北綱島支援学校」で実施
集まった地域の人々との防火訓練では、まずは火災を発見した際に「周囲の人に伝える」通報訓練や、基本的な初期消火方法としての「消火器の取り扱い」を児童にも体験してもらうというプログラムを実施。
「飯田家住宅」を守るために設置されている放水銃の取り扱いや、綱島上町自治会のライフコミューン綱島(綱島西5)に設置されている「スタンドパイプ式初期消火器具」を屋外消火栓に取り付け、北綱島特別支援学校(同)の建物下で実際に放水を行うまでの約2時間に及ぶ、初の実践的な訓練の時間を共有しました。
特に、「スタンドパイプ式器具」について伊藤所長は、「綱島地区連合自治会のエリアでは、3つのみの設置。そのうちの貴重な一つとして設置してある器具を、大規模な震災など大きな地震が来た際に、消防車だけでは消火しきれないこともあり、地域の方々が自らが消火できるようにしてもらえれば」と、“文化財”の飯田家住宅を守るためにもと、その使用方法についても時間をかけて参加者一人ひとりに説明。「防火防災」へのさらなる意識の向上を呼び掛けていました。
江戸時代から続く「飯田家住宅」を地域ぐるみで守るための取り組みとして、訓練を継続していくことはもちろん、来月(2023年)4月1日以降に南消防署(南区浦舟町)に異動する予定の伊藤所長が今回の訓練を通じ、地域に伝えた「文化財保護の大切さ」についても、理念として継承され、定期的な訓練も継続されていくことが望まれます。
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【参考リンク】
・文化財防火デー(横浜市消防局)