12月に入り、日吉の街でも救急車のサイレンを聞く回数が増えてきました。気温の変化が激しいために体調を崩したり、飲酒の機会が増えることで思わぬ形の事故が起きたりすることで、救急車がフル稼働している日も珍しくありません。しかし、日吉の街には救急車が1台しか配備されていないということは知っておく必要があります。
全国的に救急車の出動は年々増加傾向にあり、横浜市では昨年(2014年)に過去最高件数を記録したばかりで、今年(2015年)もそれを更新してしまいそうな勢いです。
今年1~6月までの統計によると、横浜市内では1日あたり482件の出動があり、2分59秒に1回は市内のどこかで救急車が呼ばれている計算になります。これを67台の救急車で対応しています。ちなみに先週末の12月12日(土)の救急件数は533件となっており、平均より大幅に多い数字です。
日吉では、駅近くの箕輪町1丁目に港北消防署の「日吉消防出張所」があり、救急車が1台配備されていますが、「綱島消防出張所」(綱島西3)は消防車しかありません。
近隣の「高田消防出張所」(高田西2)の1台と合わせ、2台の救急車で日吉・綱島・高田(新吉田の一部も含む)のエリアをカバーしています。
救急車が2台のみですので、もし日吉や綱島で同じ時間帯に救急要請が相次いだ場合には、救急車ではなく消防車で救急隊が出動し、救急車到着までの間に救命措置を行うこともあります。
また、大倉山駅近くの区役所と隣接する「港北消防署」や、距離的に日吉と近い横浜市鶴見区の「駒岡消防出張所」(駒岡4)、「矢向(やこう)消防出張所」(矢向3)、「寺尾消防出張所」(北寺尾4)などの救急車が出動することもありますが、日吉消防出張所や高田消防出張所と比べると若干遠くなってしまうため、到着が遅れる可能性もあります。
日吉は地理的に川崎市中原区や幸区のほうが近いのですが、横浜市と川崎市では消防の組織が違うためか、日常の相互連携は行われていないようです。ただ、救急搬送先として、井田病院(中原区井田)や関東労災病院(中原区木月住吉)は、受け入れが可能な場合はよく利用されています。
安易な救急車要請、港北区では痛ましい出来事も
横浜市では昨年、救急車が出動したケースのなかで50.9%が入院の必要がない「軽症」であったといいます。つまり、半分以上が救急車を呼ぶ必要性があったのかどうかが微妙なケースだったわけです。
極端な例では、
・水虫がかゆい
・靴ずれが痛い
・深爪をした
・救急車で行くとすぐ診察してもらえるから
・今日、入院する予定だ
・病院に来たら混んでいるので、ほかの病院に連れて行ってほしい
・子どもを近くの病院に連れて行きたいが、夕食の準備が忙しくて手が離せない
上記のような理由から、実際に救急車を呼んだケースが横浜市であったといいます。
水虫や靴ずれ、深爪で救急車を呼ぶ……、なんとも信じがたい話ですが、こういう人がいるのも現実です。救急車には運転手など3人の救急隊員が同乗しますので、1回出動すれば4万円以上のコストがかかると言われています。一部の人によって税金が無駄に使われているばかりか、緊急性の高い救急要請への対応を妨害していることにもなります。
安易に救急車を呼ぶ風潮は、救急車の有料化という議論が起こるだけでなく、結果として痛ましい出来事までも引き起こしてしまいます。
今年(2015年)5月、港北区鳥山(とりやま)町の高齢者宅で起こった火災がまさにそうでした。
火災が起きた家に住んでいた60歳の女性が119番通報したものの、横浜市消防局が火災による通報と認識ができなかったために消防車の出動が遅れ、焼死者を出してしまったのです。
被害に遭ったと見られるこの女性は、火災発生以前の5年間で計143回もの救急出動を要請していたことが明らかになり、世間の大きな話題となりました。あまりにも頻繁に救急要請をしていたために、消防局側に「今回も救急の通報だろう」との思い込みが生じたようです。また、当日のこの時間帯は119番通報が多発していたことも影響したとみられます。
一人暮らしの高齢者、心の安らぎで誰かと話したい
5年間で143回も救急車を呼ぶというのは極端な例としても、高齢化社会を迎え、高齢者が救急車を頼るケースが減ることは考えづらい状況です。
今年5月26日に開かれた横浜市会の「市民・文化観光・消防委員会」では、市消防局の久保田真人局長から次のような興味深い報告がありました。
「一般論でございますけれども、今までもこういうケース(編注:今回の被害者にように頻繁に救急車を呼んでいた)の方というのは多々おりますので、そういった方々の対応につきましては、関係する区、そういうところに御連絡申し上げていますし、今後それをどうしていくかということを考えなければいけない」。
救急車を頻繁に呼ぶ人が多々いるということを明かし、このようなことも言っています。
「基本的にお一人で暮らしている方で、そういった場合に、心の安らぎで誰かと話したいのです。ですから、119番が余りふくそう(輻輳=混雑)していないときには、その中で落ちつくようにお話いたしたりしております。ただ、今回のように、ばーんとたくさん鳴ったときに、それに対応することができないところもありますので、そういった状況なども関係局にお話いたして連携をとれればと考えております」。
1人暮らしの高齢者を中心に、身体のことで不安になると、まずは119番にかけてしまう傾向があるというのです。横浜市などではこうした人を対象とした心のケアを目的とした電話相談窓口が設けられているものの、回線が少ないため、夜はいつも繋がらない状態だといいます。
消防局は「救命」を行うことが第一の仕事のはずなのに、不安を抱えている人の心のケアまでも担わなければならない現状があります。
精神的な不安定から大量服薬で搬送される女性が増加
救急車の出動回数が増えているのは、高齢者の問題だけではありません。
精神的な不安定によって「オーバードーズ」と呼ばれる過量な服薬を行う女性が増えており、こうした人の救急搬送も増加傾向にあります。
今年11月24日にNHKの報道ドキュメント番組「クローズアップ現代」で、「助けてと言えなくて~女性たちに何が」と題した特集が放送され、貧困やDV(ドメスティック・バイオレンス)といった社会的な問題から、20~40代の女性がオーバードーズにはしってしまう現状がレポートされました。
番組内では、高度救命救急センターの1つである杏林(きょうりん)大学病院(東京都三鷹市)が取り上げられ、この病院に運ばれてくる重症患者の1割近くがオーバードーズであり、そのほとんどが女性だったということが報じられています。
番組は東京多摩地域の事例でしたが、日吉や綱島でも無関係な話ではありません。正確な数は分かりませんが、実際に日吉や高田の救急車がオーバードーズやリストカットをした女性を救急搬送するケースは、複数発生しているとみられます。身近な場所でも既に起こっています。
12月は1年でもっとも救急車の要請が多いシーズンです。オーバードーズもそうですし、突発的な事故による大けがや心筋梗塞など、生命の危険性があるケースは一刻を争います。それだけに、軽症で救急車を呼ぶことは避けたいものです。
救急車を呼ぶべきかどうかが分からない時のために、横浜市では特設の「救急受信ガイド」を開設しています。このホームページでは、どのような症状の時に救急車を呼ぶべきかが判定できるようになっています。
緊急の場合は焦ってしまい、それどころではない!ということにもなりかねませんので、まずは平常時にページを眺めておいて備えておくのがよさそうです。
【参考リンク】
・横浜市消防局の災害情報案内(救急車の出動状況がリアルタイムで更新されている。ただし公開されていないケースもあり)