2050年までに「好感度80%」を達成したい――「まちの誇りの大学」への道のりは、まだまだ先の、未来へと続くチャレンジになりそうです。
慶應義塾大学は、きのう2023年1月11日(水)夜、日吉キャンパス協生館内「藤原洋記念ホール」(日吉4)で、昨年2022年6月からおこなわれてきた「2022塾生会議」(代表:奥田暁代常任理事)の“最終提言”発表会を初開催。
「日吉プロジェクト」ともいわれるこの「慶應SDGs」の取り組みにエントリー・選出された学生約120人のうち、発表をおこなった約60人と、参加教員や大学職員らも含めた約100人が来場。
学生たちが、伊藤公平塾長へのSDGs (エスディージーズ=持続可能な開発目標) を実現するための、慶應義塾としてのビジョンや目標、ターゲットや具体的な方策を提言する時間を共有しました。
“古本市”提案で日吉を「住み続けたい」街に
昨年(2022年)12月の年末から今年の年始にかけて「日吉近辺にお住まいの方々へ」と呼び掛け、インターネット上でのアンケートをおこなったSDGsの目標11「住み続けられるまちづくり」を担当するグループの5人は、11番目に登壇。
日吉住民の慶應生に対する印象については、「とても良い」と「良い」が約32.5%であったのに対し、「悪い」と「とても悪い」が約33.4%と後者のほうが多かったこと、交流事業に参加した日吉住民が約45.7%だったのに対し、慶應の学生はわずか約1.7%に留まったことなどを挙げ、「学生(大学)側から地域との交流を図る必要性」を提言。
解決のための方向性として、ハード面では、「公開講座」や「図書館の共有」、「施設開放」を挙げ、ソフト面では「子どもとの交流」や「共同イベント」、「清掃の実施」といった手法がアンケートであがったといいます。
特に、横浜市の「1区1館」原則という“図書館の少なさ”に学生たちは着目。
「大学図書館の開放」という選択肢を模索したものの、キャパシティの問題から特に図書館(日吉メディアセンター)開放については難しいと大学側は回答。
そのため、街の人と学生が「古本」を通じて交流する「古本市」のアイデアについて提案、アンケートで寄せられた声をミックスした企画として実行、住民の回答者のうち6割強が「参加したい」と興味を示しています。
キャンパスの屋外施設を中心にブースを設置、住民や学生が自由に出店できるしくみを整え、希望する学生や学生団体のみならず、地元の小中学生、障害・高齢者施設などが参加することで交流を深めるという案を提示。
図書に関連する企業からの協賛を得ることなども構想し、“共同で創り上げるイベント”にしていくこと、「皆さんが使用してきた縁起が良すぎる『赤本』や、SDGsを学んだたくさんの本を出店してみませんか」と呼び掛けるといったアイデアも披露し、イメージをわかりやすく、立体的に伝える工夫もおこなっていました。
2050年までに「好感度80%」目指す“提言”
「古本市」のアイデアや構想を踏まえて、学生たちは「2050年までのロードマップ」を提言。
数値目標として、日吉住民の慶應生に対する印象を「とても良い」、「良い」と答えた約32.5%の『好感度』を徐々に80%まで上げていくこと、住民のイベント参加率を95%、学生側も80%を目標とすることで、「お互いを身近な存在とし理解しあえる関係性を築いていく」ことを目指し、住民と大学の「精神的な距離」を縮めて、“住み続けられるまちづくり”を実現させたいと結んでいました。
「近くて遠い慶應大学」から、「まちの誇りの慶應大学」としての目標を提言した学生たち。
講評をおこなった伊藤学長は、「地域住民との交流を増やすというのをどういう交流にするのか。古本市も一つの考え方で非常に興味深いと思ったが、どこまで広げていくのか、どういう可能性があるかということの議論をもっと続けてもらえれば」と提案。
今回の「2022塾生会議」のスーパーバイザーとして迎えられた同大学大学院政策・メディア研究科(SFC)の蟹江憲史教授も、「スポーツのイベントも最近いろいろなこともやっているし、研究室単位でもあり得る。もっと発想を広げて、もっと広いコミュニティで議論していくと、さらなる(大学の)魅力向上につながっていくのでは」との感想を述べていました。
SDGs事業の継続で“高い目標”達成を
今回、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくり」を担当するグループに所属し、発表をおこなったのは、小松健太郎さん、清川莉世(りせ)さん、子玉(こだま)朋佳さん、鈴木愛奈(あいな)さん、土居七海(ななみ)さんの5人。
それぞれ学部が異なるメンバーが集まったといい、「バランスがとれた良いチームで取り組むことができました」と小松さん。
街づくりを学んでいるという清川さん、土居さんほかメンバー1人ひとりが、今回の「塾生会議」最後のミッションを終えたことに“ほっ”としたかの表情を浮かべていました。
日吉住民の「手厳しい」とも思えるアンケート結果に対しては、「低めの数値が出たほうが(今後上げていくための提言づくりにつながった)」といった声も。
これから先の交流の拡がりや可能性について、学生のみならず、大学側も“再認識”する結果につながった、今回の目標11チームの提言により、「今日で最終」となる、あくまで構想段階の“イベント案”。
しかし、それをまずは「提言」することにより、住民と大学・教職員、そして学生たちのさらなる交流が生まれることでの、「住み続けたい」街づくりや、その道のりの具現化につながることが期待できそうです。
なお、「塾生会議」の来年度(2023年度)以降の実施については、「(継続する際には)メンバー構成といった部分についても検討していきたい」(同大学自然科学研究教育センター・大古殿憲治事務長)とのこと。
「慶應SDGs」全てのミッションが今後実現できるかは未知数ですが、まさに「持続可能な開発目標」としての事業の継続が望まれます。
【関連記事】
・日吉を“住み続けたい”街にするために、慶應生が「塾生会議」提言でアンケート(2022年12月26日)
・慶應大が初の「こども食堂」に挑戦、日吉の小学生を招待しクイズやゲームも(2023年1月5日)※「慶應SDGs」がきっかけとなった慶應子ども食堂の初開催は伊藤学長にとっても数年前からの悲願だったという
【参考リンク】
・2022塾生会議(慶應義塾大学自然科学研究教育センター)
・「慶應義塾SDGs会議-2022塾生会議」ガイダンスを開催(慶應義塾)