鶴見川と人生を歩む岸由二さん、日吉や綱島から流域の魅力を伝え続けて四半世紀

横浜日吉新聞
岸由二さん

鶴見川とその水系にある矢上川や早渕川に囲まれた日吉・綱島・高田など港北区の街では、川は時に水害を起こす“やっかい者”でありながらも、農業や舟運など、生活になくてはならない身近な存在でした。現在では川の持つ価値や怖さを見聞きする機会が減るなかで、魅力と重要性を見出し、広く伝える活動を四半世紀にわたって続けてきたのが綱島西に本拠地を置くNPO法人「鶴見川流域ネットワーキング」(TRネット)です。そこには、人生を鶴見川とともに歩いてきた一人の研究者の姿がありました。

鶴見川流域での市民活動の中心的な役割を果たしているNPO法人鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)

鶴見川流域での市民活動の中心的な役割を果たしているNPO法人鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)のホームページ

TRネットの代表理事をつとめる岸由二(ゆうじ)さんは、日吉では「慶應の先生」、綱島では「鶴見川を守る市民活動家」という形で広く知られている人かもしれません。

慶應義塾大学の日吉キャンパスに研究室を置き、生物学や地域生態文化論などを研究する教授として教鞭をとった岸さん。同時に日吉キャンパス内の自然再生や、鶴見川の環境を守る活動を地域住民とともに発展させてきました。

2013年3月に慶應大学を退職し、名誉教授となってからはTRネットの活動に全力投球。今も自ら現場へ出て活動を行うとともに、多くの著書や講演を通じても、鶴見川での活動の意義と魅力を伝え続けています。

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物事を「川の流域」で考えることの大切さ説く

鶴見川とその支流で活動する45の団体がTRネットに参加している(TRネットのホームページより)※クリックで拡大

鶴見川とその支流で活動する45の団体がTRネットに参加している(TRネットのホームページより)※クリックで拡大

TRネットは、鶴見川と矢上川などの支流で自然保護や川と親しむ活動を行う市民団体の中核を担うとともに、NPO法人としては行政や企業との連携活動を先導する組織として、1991年に岸さんらが立ち上げました。

同NPOへ集う45団体のなかには、鶴見川の源流域である町田市や川崎市、中上流の青葉区、緑区などで活動する諸団体とともに、「慶應義塾大学・日吉丸の会」や「松の川遊歩道(緑道)の会」「矢上川で遊ぶ会」など、日吉周辺で積極的な活動を続ける団体も目立ちます。綱島地域の川辺では、「鶴見川中流応援団」が創設時からの活動を続けています。

すべての活動における礎(いしずえ)となっているのが、岸さんが提唱してきた「流域思考」というキーワード。自然環境の保全や防災といった課題について、行政区域にとどまらず、川の流域単位で解決を図っていこうという考え方です。

東京都町田市を源流とする鶴見川は、川崎市麻生区や横浜市青葉区を通り、港北区の新横浜や綱島を経て、鶴見区に至り、東京湾に注いでいます。その間に支流として分かれているのが、矢上川や早渕川です。

TRネットの本拠地は鶴見川沿いの綱島西に置かれている

TRネットの本拠地は鶴見川沿いの綱島西に置かれている

たとえば、下流にある綱島周辺の鶴見川だけで自然を守ったり、洪水対策を行ったりしても、上流で環境汚染があったり、洪水の原因となるような場所が存在したりすると、効果は見込めません。鶴見川の水が流れ込む矢上川や早渕川などの支流も含め、流域となるエリア全体で対策や活動を行うことが必要となってくるわけです。

幼少期から30年以上を最下流にある鶴見区で過ごしてきた岸さんだからこそ生まれた思考といえます。「小さい頃、鶴見川で洪水が起こると、大人たちはみな上流にある『町田のせいだ』と言っていたものです」と振り返ります。

そうした体験は、1985年に鶴見川の源流に近い町田市小山田に自宅を移し、源流域の「保水の森」の保全活動(森に保水力を持たせるための自然保護などの活動)を基盤として現在まで自然保護活動を実践してきたことにつながっています。1990年代にTRネットを始めた際には、るさと鶴見に近くなじみの深い綱島に本拠地を置き、今も綱島に下宿しながら活動を行っています。自身の生活も流域思考に基づいた行動となっています。

国や企業も共鳴、自身は今も活動現場の最前線に

国土交通省による鶴見川流域の全体図(京浜河川事務所のホームページより)※クリックで拡大

国土交通省による鶴見川流域の全体図、まさに「バク」の形をしている(京浜河川事務所のホームページより)※クリックで拡大

流域思考は、鶴見川の管理を担う国土交通省の京浜河川事務所にも評価され、治水や環境に優しい事業にも活かされています。岸さんのアイデアを用い、鶴見川流域全体を「バクの形」に見立て、国が率先して流域で考えることの大切さを住民に伝えています

企業では、鶴見区に工場を置くキリンビールや、本社を置く株式会社テルム(現・東芝環境ソリューション)、地元港北区のトレッサ横浜(師岡町)などの企業が共鳴し、鶴見川に関するさまざまな環境保護活動を実践。時には米国に本社を置く国際企業シティグループの社員らが河川で草刈りや在来種の移植活動を行ったりするなど、流域にとどまらない範囲にまで広がりを見せます。トヨタマーケティングジャパン社とは、「AQUA SOCIAL FES!!(アクアソーシャルフェス)」 という同社のプロモーション事業を通して、源流保水の森の保全、綱島・早渕川合流点湿地の保全など、流域全域規模での連携も進行中です。

行政や企業も巻き込んで流域思考を広めてきた岸さんですが、活動の中心にあるのは現場です。68歳となった今でも、鶴見川が見える綱島のアパートと上流の町田市の源流域にある自宅を往復しながら、自ら率先して河川の草を刈り、子どもたちに川で遊ぶ楽しさを伝える活動の先頭に立ち続けます。

今も活動の最前線を走り回る岸さん(綱島西の鶴見川で)

今も活動の最前線を走り回る岸さん(綱島西の鶴見川で)

岸さんは、綱島の堤防で鶴見川を見つめながらこんなことを話しました。

子どもの頃は毎日のように鶴見区の家からここ(綱島)まで河原を歩いてやってきて、遊びまわっていたものです。物心ついた時には身近に鶴見川がありました。だから、死ぬ時もここで死ぬんだろうなと思っています」

「私のことよりも、流域の各地で熱心な活動を続けている色んな団体をぜひ紹介してください。本当に面白いんですよ」

そう言いながら、今日も流域での活動現場をひたすら走り回る岸さん。鶴見川や支流の河川敷へ行けば、草を刈り、笑顔で子どもたちと遊ぶ姿を見つけることができるはずです。

【関連記事】

慶應理工の人間教育講座、12/10(木)に「流域思考」の岸由二さんが登壇(2015年12月9日)

高い評価を得ている日吉の環境保護活動、森を守る2つの団体に注目(2016年6月13日、「日吉丸の会」と「松の川遊歩道(緑道)の会」について)

【参考リンク】

NPO法人「鶴見川流域ネットワーキング」(TRネット)

鶴見川の概要(国土交通省関東地方整備局「京浜河川事務所」)

日吉地区センター(2016年9月3日(土)「日吉地域の安全向上の防災講座」岸由二さん登壇)

NPO法人小網代野外活動調整会議Facebookページ ※岸さんはアカテガニで有名な三浦半島小網代の保全活動のリーダーでもある


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