横浜市と港北区は、再開発が進む日吉と綱島の綱島街道沿いのエリアで、まちづくりや土地利用の方針を定めた「日吉綱島東部地区まちづくりビジョン」の策定準備を進めていることがわかりました。
今月(2016年8月)19日に当初案を区民に公開し、約1カ月間かけて意見募集を行う計画です。特定エリアにおける具体的なまちづくり方針が示されるのは港北区内では初めてで、横浜市内でもめずらしいといいます。
今回、市と区が策定を検討するまちづくりビジョンでは、日吉と綱島のなかでも、再開発が著しい主に綱島街道沿いのエリアを対象としているのが特徴。
今後も工場跡地などを活用した宅地やマンション開発が行われる可能性もあることから、具体的な目標や方針を示すことで、調和のとれた開発へ導く意図があるとみられます。
目標は「都市の活力をけん引する持続可能な街」
これまで港北区のまちづくり方針は、2015年7月に改定された「横浜市都市計画マスタープラン港北区プラン」に日吉や綱島、高田など10の地域について、それぞれの特性に合わせた方向性が示されています。
たとえば、日吉地域では「大学と緑と豊かな生活のまち」とし、「居住環境の保全、大学や箕輪町周辺に残る樹林の保全、日吉駅前の交通渋滞の緩和が重要な課題」としています。
そのうえで、土地利用については、
- 東京丸子横浜線(綱島街道)東側の準工業地域は、工場の操業環境を保全しながら、住宅との共存を図ります
- 日吉本町駅周辺は、駅周辺にふさわしい土地利用を誘導し、豊かな住環境形成に努めます
- また、大規模土地利用の転換に際しては、周辺地域への影響やインフラ・公共施設等の状況を考慮しながら、地区計画等のまちづくりのルール化を図り、調和のとれた適正な土地利用を誘導します
とし、大まかな方向性を示してはいるものの、「工場と住宅地の共存」や「調和のとれた土地利用の誘導」について、具体的な方法は書かれていません。綱島におけるプランもほぼ同様の記述となっています。
そのため、今回示す日吉綱島東部地区まちづくりビジョンでは、特に再開発が進む綱島街道の周辺と、工場と住宅が混在する箕輪町や綱島東のエリアに絞って方向性を提示。20年後に目指す姿として、「多様な主体が集まり、活躍・連携することで、誰もが『住み』『働き』『暮らし』続けたくなるまち」「都市の活力をけん引する持続可能なまち」という目標を掲げました。
主に日吉3~7・箕輪町1~2・綱島東1~6丁目が対象
今回のまちづくりビジョンは、主に日吉3~7丁目や箕輪町1~2丁目、綱島東1~6丁目のなかで、綱島街道に近い場所や、工場と住宅地が混在している地域をイメージして作成。現時点では、対象エリアを住所や番地などで明確には絞ってはいません。
該当住所のエリアでは、工場用地からマンションや住宅への転換が進んだことなどから、2008年を境に港北区の人口増加率を上回る状態で推移しています。
特に10代後半から20代の転入が増加している一方で、30代~40代は転出する割合が目立つのも現状です。
そのため、「土地利用転換の際には、地域特性に応じて周辺地域との調和を図るための緑化や保育施設、歩行者空間などの必要な社会インフラの整備等を図る必要」があると指摘。
「多世代が安心して暮らし続けられるよう商業、医療、地域交流、教育、子育て・高齢者支援等の生活支援機能や生活利便機能の導入を図ります」とし、「特に住宅を建設する場合には、多様な住まい方に対応できる住宅の供給や保育施設等を整備するなど、必要とされる機能の導入を誘導します」との方針を明示しました。
また、住民の転出入が多い地域であることから、「地域コミュニティーの充実を図り、災害時においても共助が行われる関係を築く必要」を説いています。
住宅と工場混在、騒音などのトラブル抑止へ具体策
ビジョンの対象とする日吉3~7丁目や箕輪町1~2丁目、綱島東1~6丁目では、工場や作業所が今も残る一方で、撤退後の跡地を使ったマンションや一戸建て住宅の開発が増加。2008年以降は右肩上がりで伸び続けており、工業系用途の地域にもかかわらず、2015年には住戸が過半数を占めるまでになりました。
そのため、住居と工場が混在する場所では、住民と企業の間で騒音トラブルに発展することもあるとみられます。
同ビジョンでは「騒音対策等の操業環境改善に効果のある設備導入への助成を行い、周辺環境へ配慮し、既存工場・研究所などの操業環境の保全を図ります」とし、住民との共存を図るために踏み込んだ方針を示しました。
方針配慮の再開発には建物高度化を認める可能性も
今回のエリアにおける具体的な目標としては、
- 低炭素社会の実現
- 地域コミュニティーの充実
- 生活支援機能・生活利便機能の充実
- エネルギーマネジメントの実現
- 豊かな緑地空間の充実
- 安全な歩行空間の整備
- 災害対応の強化
- 新たな企業の進出
- 交通利便性の向上
- (工場などに対する)操業環境の保全
- 駅前空間の整備
以上の11点を挙げ、これらを実現するうえでは、2019年4月に開業を予定する「新綱島駅(仮称)周辺地区」や、パナソニック工場跡地の「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン(綱島SST)」、アピタ日吉店などの跡地を使った野村不動産の「日吉箕輪町計画(仮称)」といった3つの大規模再開発で予定される取り組みを、地域全体へ広げたいとの考えを示します。
また、行政(役所)や開発事業者だけが主導するのではなく、「地域住民、企業、大学、行政などの多様な主体が連携し、まちの魅力発信、地域交流などを行うエリアマネジメントの取組を推進」するとしました。
そのうえで、開発を行おうとする事業者に対しては、エリアで定めたまちづくり方針に対する配慮を求める一方、規制緩和によって建物の高度利用を認める可能性など、業者側へのメリットも示唆。
大型工場などの跡地で宅地開発されることが見込まれる場合には、「早い段階から情報収集を行い、地域や行政課題の解決につながるよう土地所有者や事業者へ働きかけます」と行政の役割も示しています。
なお、同ビジョンに対する住民からの意見募集は2016年8月19日(金)から同9月20日(火)までの期間に予定されています。
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・旧アピタ日吉店などの跡地を使った「(仮称)日吉箕輪町計画(「野村不動産日吉複合開発計画」)」に関する記事一覧
【参考リンク】
・日吉綱島東部地区まちづくりビジョン(案)に関する市民意見公募について(港北区、2016年8月19日から9月20日まで)
・日吉綱島東部地区まちづくりビジョン(案)(PDFファイル)