横浜市や川崎市などが“独立”を目指す動きに県が疑問を呈します。
神奈川県は今月(2024年5月)、政令市(政令指定都市)が県の枠組みから抜けて独自の自治体運営を目指す「特別市(特別自治市)」構想について、見解をまとめたリーフレットを制作し、サイト上で公開しました。
特別市構想は、規模の大きな政令市が「道府県」の下に置かれている現在の枠組みから抜けて独立することで、二重行政の解消や権限の強化を目指そうという動きで、全国の政令市が法制化を目指しています。
政令市は規模こそ大きい一方で道府県を通してしか国と交渉ができず、独自の財源や権限も制限されていることから大規模な自治体を運営するうえで支障があると訴えます。
なお、全国の動きを見ると大阪市は逆に政令市を4つの自治体(特別区)に分割し、「大阪府」と連携を強める形で二重行政を解消しようという“大阪都構想”を独自に進めてきました。
東京都は世田谷区(92万人=4月時点)や練馬区(75万人=同)のように政令市並みの人口を持つ大規模な“自治体”が目立つものの政令市はなく、道府県とは枠組みが異なるため特別市を目指す動きは見られません。
特別市の法制化は、全国の政令市で人口がもっとも多い横浜市(377.3万人=5月時点)と、県庁所在地ではない政令市では最大の人口規模を持つ川崎市(155万人=同)が特に積極的で、神奈川県は相模原市(人口72.3万人=4月時点)を含め、3つの政令市が県からの“独立”を訴えていることになります。
県は「住民目線から見て妥当ではないという考え方に変わりはない」(黒岩祐治知事)という一方、「住民が盛り上がっているのだったらありうる話だが、政令市で機運が高まっているように感じない。アクションを起こさないと、特別市制度を誤解されてしまう」(同)などとして、県の考えをまとめたリーフレットを制作したといいます。
リーフレットでは表紙に「えっ!独立?」と大きな文字を掲げ、「神奈川県は分断ではなく連携・協調を進めていきます」と記載。
そのうえで、特別市構想に対しては「住民代表機能への影響」「総合調整機能への支障」「財政面での大きな影響」「大きな費用負担の発生」という4つの問題点を挙げ、法制化することは妥当ではないと強調します。
たとえば、住民代表機能への影響という面では、県が存在しなくなることで「1人の市長と市議会のみとなり、行政と住民との距離が遠くなります」とし、「住民の多様な声をしっかりと反映できるのか疑問」との見方を示します。
総合調整機能への支障では、新型コロナなどの危機時や、警察事務への影響が生じるとしました。
財政面では、規模の大きな政令市が県から抜けることで県に巨額な財源不足が生じるといい、また特別市になれば県有施設の移転や移管をしなければならないため大きな費用負担も発生してしまうとのことです。
これまで県は特別市構想について県民に直接説明をするような機会をつくっていませんでしたが、今回のようなリーフレットを制作する段階にまでいたったことは、横浜や川崎などの政令市側による運動の成果ともいえそうです。
(※)この記事は「横浜日吉新聞」「新横浜新聞~しんよこ新聞」の共通記事です
【関連記事】
・人口減少時代だからこそ「特別市」、日吉で市長らが大都市の将来像を議論(2024年3月12日、海外の事例も報告)
・神奈川県から“独立”目指す横浜市、「特別自治市」のメリットは誰にもたらすか(2021年6月21日、これまでの細かな経緯と解説)
【参考リンク】
・特別自治市構想(通称「特別市」)に対する神奈川県の見解(2024年4月、神奈川県の考えをまとめたリーフレットも掲載)
・横浜市が目指す新たな大都市制度「特別市(特別自治市)」(横浜市政策局、ロゴマークや細かな資料など)
・川崎市「特別市(特別自治市)について」(川崎市総務企画局、動画やマンガでも必要性を訴え)