新川崎駅エリアに位置する「夢見ヶ崎」の周辺で一定規模の土地を再活用する動きが相次いでいます。川崎市幸区の南加瀬1丁目ではJRの社宅跡に166戸のマンション建設が始まり、同北加瀬2丁目では元大型工場のゴルフ練習場が再来月(2022年)6月末限りでの閉店を決め、土地所有者が変更。その行方が注目されます。
JR社宅跡に166戸マンション
166戸のマンション建設が行われているのは、幸区の「日吉合同庁舎」(日吉出張所、幸市民館・幸図書館日吉分館)至近にあった「JR東日本南加瀬社宅」の跡地(約1万1300平方メートル)。
JR東日本の社宅は2017(平成29)年までに閉鎖されており、一昨年(2020年)1月ごろに名古屋市の名鉄都市開発(当時は名鉄不動産)が跡地を購入。3棟の建物を解体ののち、昨年(2021年)12月ごろから「(仮称)メイツ新川崎計画」との名でマンションの建設工事を始めています。
現地の建築標識によると、地上5階・地下1階建て(高さ14.9メートル)の建物を複数建てる計画で、工事終了は来年(2023年)12月の予定。
すでに名鉄都市開発が「メイツ新川崎」との名称でマンション販売サイトを公開しており、これによると、建物は来年(2023年)10月下旬に竣工し、部屋の平均専有面積は71平方メートルになるとのこと。
今月(2022年)4月1日に名鉄不動産から社名を変えたばかりの名鉄都市開発は、名古屋圏を走る大手鉄道会社の不動産部門ですが、神奈川県内では新横浜駅の至近で11階建て118戸のマンション建設も行っている最中です。
“国鉄の街”だった名残の一つ
現在、マンション建設が行われている「JR東日本南加瀬社宅」の付近は、新川崎駅周辺が“国鉄の街”だった名残といえる跡地で、同社宅も分割民営化前の国鉄が職員向けに所有していた「南加瀬国鉄官舎」でした。
駅の周辺には、かつて首都圏の貨物列車(貨車)が集まる「新鶴見操車場」(1984=昭和59年廃止)が昭和初期から位置していたことから、近隣には操車場で働く職員用の“官舎(社宅)”が点在。
国鉄の民営化後は官舎の一部をJR東日本が継承しましたが、北加瀬側にあった社宅は2018(平成30)年4月までに「コトニアガーデン新川崎」として再開発により生まれ変わっています。
今回、南加瀬社宅のマンション化によって、国鉄時代から使われてきた主な“旧鉄道官舎跡”の活用に一定の目途がついたことになりそうです。
大型ゴルフ場が閉鎖へ、土地を売却
一方、現在も新川崎駅周辺を象徴する存在が三菱ふそうに代表される“大規模工場”ですが、平成初期まで操業していた大手企業が工場跡地を使って1992(平成4)年4月に設けたのが北加瀬2丁目にある大型ゴルフ練習場の「リンクス(LINX)新川崎」でした。
“ニッパツ”の名で知られる「ばね」メーカーの日本発条株式会社(横浜市金沢区)が1990年までこの地に「川崎工場」を設けており、工場の閉鎖時に設立されたニッパツ子会社の株式会社ジー・エル・ジー(北加瀬2)がゴルフ練習場の運営を担ってきました。
しかし今年3月、ニッパツは同練習場の敷地(3万326平方メートル)を売却することを発表。同練習場は6月30日に閉鎖されることが決まっています。
新型コロナウイルス禍などから世界的に自動車の生産台数が落ち込み、自動車業界を主な顧客とするニッパツも影響を受けており、今回の売却は「2023中期経営計画に基づき、持続的な成長を目指すため、その一環」(同社発表文)などとし、260億円の売却益が得られたとのこと。譲渡額は「譲渡先の意向」(同)として公表していません。
また、「譲渡先との守秘義務」(同)を理由に同敷地の譲渡先も非公表ですが、4月時点では土地などの資産を流動化する目的で設けられた「特定目的会社」に所有が移ったとみられ、この会社はかつて物流施設を取得していたことがあります。
巨大だったニッパツの旧工場
同ゴルフ練習場は、新川崎駅から徒歩約10分。三菱ふそうトラック・バスの川崎製作所(中原区大倉町)に隣接し、目の前にはJR東日本系による再開発エリア「コトニアガーデン新川崎」が位置しています。
平成初期まで存在したニッパツの川崎工場は、旧大同発条による精密ばねの工場として発足した1939(昭和14)年から半世紀超の歴史があり、操業時は東京ドーム1つ分に近い規模の敷地を持っていました。
1990(平成2)年の操業停止後、ニッパツは敷地の大部分をゴルフ練習場として活用する一方、元住吉寄りの約1万3000平方メートルは大手総合商社に売却。
日吉中学校側の一画では2002(平成14)年に225戸のマンション「エンゼルコート新川崎」が建てられ、もう一方の敷地はコンピュータ関連企業の本社ビルが建設された後、2012(平成24)年になると167戸のマンション「クレストレジデンス新川崎」に変わっています。
今回、閉鎖を決めたゴルフ場の敷地は、両マンションを合わせた敷地の約2.3倍の規模があります。
昭和期に隆盛を極めた大型工場や鉄道関連施設の跡地を使った再開発が今も続く新川崎エリア。港北区や鶴見区に接し、都心への交通利便性も高い環境だけに、令和の時代も変化が予想されます。
【関連記事】
・北加瀬の「コトニアガーデン」に全13テナント開店、4/21(土)にまちびらきイベントも(2018年4月3日、JR社宅跡の再開発、ゴルフ練習場の正面に位置)
・子育て賃貸マンション開発続く北加瀬、公社の「フロール新川崎」が入居者を募集(2017年1月14日、神奈川県住宅供給公社による再開発も)
・日吉村にあった巨大貨物拠点、「新鶴見操車場」に焦点を当てた企画展(2022年2月10日、操車場の歴史について)
【参考リンク】
・マンション「メイツ新川崎」(名鉄都市開発、JR南加瀬社宅跡地)
・ゴルフ練習場「リンクス(LINX)新川崎」(ニッパツグループ運営、6月30日閉鎖予定)
・川崎市幸区による日吉地区の郷土紹介ページ「加瀬山」(下部にJR南加瀬社宅付近の歴史についても)