【2018年10月時点の記事です】横浜市がこのほど発表した新たな「京浜臨海部再編整備マスタープラン」に、市営地下鉄グリーンラインの日吉駅から先、鶴見駅までの延伸について「北部地域との連絡強化による職住近接などの整備効果が期待できる」として、事業化へ向けた検討を行うことが明記されました。
同マスタープランは、川崎市川崎区や鶴見区、神奈川区の海側エリアに広がる工業地帯の「京浜臨海部」を発展させるため、1997年に初めて策定された計画で、このほど20年以上ぶりに改定が行われたものです。
そこでは、発展のために必要な重要インフラとして新たな鉄道計画についても盛り込まれており、今回の改定では「横浜環状鉄道 (日吉~鶴見) の事業化に向けた検討」という項目を新設したうえで、「北部地域との連絡強化による職住近接などの整備効果が期待できる」(同)と評価。
鉄道整備とまちづくりとの連携や、沿線の交通需要を喚起するための方策を考えるとともに、「事業性の確保に向けた検討を長期的に取り組んでいきます」(同)との決意を示しています。
日吉駅から鶴見駅への延伸を“長期的な取り組み”としている点は、従来の市の姿勢と変わらないものの、京浜臨海部の発展に重要な存在であると明確に示されたことで、議論を始めるための後押しとなる可能性があります。
【コラム】鶴見区はグリーンライン延伸の前に「JR中距離電車」の停車が悲願
今回の「京浜臨海部再編整備マスタープラン」における鉄道整備の項目として、グリーンライン(横浜環状鉄道)の延伸より、真っ先に挙げられているのが「相鉄・JR直通線の鶴見駅停車」です。
鶴見駅は、京浜東北線の駅として約16万人の乗降客数を誇るものの、東海道線や横須賀線の列車は停車しないことから、鶴見区では半世紀近くにわたって「中距離電車(東海道線・横須賀線)の停車」を求める運動が行われてきました。
しかし、東海道線や横須賀線にホームを設置することは、スペースの問題などで困難であるとの立場をJR東日本が崩しておらず、そこで新たな目標として浮上したのが「相鉄・JR直通線」の列車を停車させることです。
相鉄・JR直通線は、神奈川区の羽沢横浜国大駅から港北区などの地下を横断する「東海道貨物線」を経由し、鶴見駅の横浜寄りにある京急の生麦駅付近で東海道線や横須賀線の線路と合流。鶴見駅ではホームのない線路を通過するルートとなっています。
現状では、相鉄・JR直通線は羽沢横浜国大駅から武蔵小杉駅までの区間をノンストップで運行する計画とされていますが、線路は鶴見駅ホームの横を通過していくため、ここに新たなホームを設け、相鉄・JR直通線の列車を停車させてほしい、と横浜市がJR東日本に要望。
これに対し、JR東日本は駅ホームの設置費用は地元が負担することや、貨物線を使用するJR貨物の合意を得ることなどを条件に、相鉄・JR直通線上へホームを設置すること自体は否定していません。
ただ、横浜市が実現性を検証したところでは、ホームの設置には200億円近い事業費に加え、最低でも12年から14年の時間がかかるという結果だったといいます。
1日150本近くの貨物列車が昼夜問わず運行されているなかを縫っての工事となるため、特に長い期間を要するとしています。そのため、2019年10月から2020年3月までに開業を予定する相鉄・JR直通線が走り始めると同時に、鶴見駅停車を実現させることは事実上断念しています。
今後、貨物列車に加えて相鉄・JR直通線の列車が走るようになれば、今より高密度なダイヤとなってしまうため、ホーム設置はさらに困難な工事となることも予想されます。
数々の課題を乗り越え、鶴見区の悲願であるJR中距離電車の停車は実現できるのか。この成否が、グリーンラインの延伸議論にも少なからず影響を与えることになりそうです。
【関連記事】
・横浜市が鉄道計画ページを刷新、注目度の高い「横浜環状鉄道」情報も集約(新横浜新聞~しんよこ新聞、2021年10月7日)※リンク追記
・国の指針に残った「グリーンライン」の鶴見延伸、実現性と3つのルート(2016年4月9日、日吉~鶴見間のルートを検討)
・<相鉄直通線>羽沢横浜国大駅の建設は順調、JR側の次駅は「武蔵小杉」か(新横浜新聞~しんよこ新聞、2018年1月18日、ルートマップも)
【参考リンク】
・京浜臨海部再編整備マスタープラン(横浜市、2018年9月21日発表)