きょうは桃の節句・ひなまつり。今年も“桃の郷”綱島で、21回目となる恒例の「綱島桃(もも)まつり」(港北桃まつり実行委員会主催)が、2017年3月12日(日)11時~15時まで(雨天時は19日(日)に延期予定)、綱島市民の森(綱島台)内の「桃の里広場」(上町バス停下車)で開催されます。
会場となる桃の里広場までは、綱島駅から徒歩で約10数分。綱島駅西口から商店街、バス通り(子母口綱島線)を通り住宅街から「綱島市民の森」へと決して近いとは言えない道を抜け、決して広いとはいえない、いかにも「山里」といった風情の森の中の広場にたどり着きます。
東急東横線が走り抜け、マンションや住宅がぎっしりと街を埋め尽くすようにもなった綱島で、なぜ「桃まつり」が開催されているのか。
1997年に初めて開催されてから、昨年、節目となる20回目の開催を終え、さらに「新しい未来へ」と21回目の実施に向け準備を重ねる「3人の主催者」に、この“ふるさと・綱島”の街に親しまれてきた「桃まつり」を開催することへの“想い”を聞きました。
鉄道工事で「桃の木」が伐採されるも“綱島の桃ジャム”を継続
まずは実行委員会事務局の堤キミ江さん。綱島の桃を守り愛好する「綱島の桃の会」のメンバーで、毎年この祭りに向け中心となり活動しています。
前回(2016年)の開催時には、一昨年前の2015年5月に休館した綱島温泉「東京園」隣の桃畑に植えられていた10本の桃の木から桃を収獲、ロールパンづくりで“試食用”として使用する「桃ジャム」を無事作ることができたものの、昨年には「相鉄・東急直通線」の工事の影響でこれらの桃の木が伐採されてしまいます。
それでも「今年も、なんとか綱島産の桃でジャムを作ることができました」と、イベントで大きな役割を果たしている「桃ジャム」作りの苦労を語る堤さん。
昨年は、やはり桃の木を植えている同実行委員長の飯田助知さんの敷地や、現在綱島で唯一の桃栽培農家となった同副委員長の池谷(いけのや)道義さんの畑で収穫した桃をなんとか入手できたといい、「先月(2月)で営業終了した “綱島ピーチゴルフセンター”に隣接した池谷さんの桃畑も、やはり鉄道工事でなくなってしまうと聞いています。来年以降、また無事に桃ジャムを作ることができるのか」と心配すると共に、今年の桃ジャムが「綱島産」の桃から出来ているという希少性について言及します。
「綱島市民の森」を守る飯田さんが願う“桃の郷での再会”
“桃の花や実を愛でる”堤さんたち「綱島の桃の会」メンバーを応援しているのが、桃まつり実行委員長であり、綱島市民の森愛護会の会長でもある飯田助知さん。飯田さんは「綱島の桃の歴史を継いでいけたら」と、桃まつりのために、かねてより桃の木が植えられていた綱島市民の森に「桃の里広場」を設置。
「本当は、ひなまつりの季節にとも思うのですが、まだ桃の花がいっぱいに咲くには早いし、また、この広場での桃の花の見頃は毎年4月10日頃なのですが、直前に綱島で恒例となっている『桜まつり』(綱島公園でおおむね毎年3月下旬~4月初旬に開催)が開催されるので、その間をとってこの時期での開催となっているんです」と語ります。
この時期は「桃の苗木を植えるには、とても良い季節なんです」と、桃まつりが初めて開催された1997年当時から、約100本の桃の苗木を配布していますとのこと(今年は抽選で実施)。
「綱島の桃の最盛期(1931~1937年)頃、神奈川県の桃生産高が岡山を抜いて日本一となり『東の神奈川、西の岡山』と言われました。また綱島が“桃の郷”になれば、と願い、また綱島周辺に住む皆さんのご家庭で桃を楽しんでもらいたいんです」と、自然に親しみ、ふるさとの歴史をつなぐ“桃”を地域に広めたいとの想いを込めているといいます。
イベントの内容も、例えば桃ジャムもただ提供するのではなく、パンを焼いて、ジャムを付けて、というように、「体験」してもらいたいという想いから企画しているといい、竹細工・竹馬づくりなどのイベントや綱島音頭・綱島囃子(はやし)なども「みんなで歌って踊って」楽しんでもらいたいとのこと。
そして、“都会的”と言われる東急東横線の沿線とは思えないような「自然あふれる」綱島市民の森、そこにひっそりと広がるこの「桃の里」で、「この“ふるさと綱島”の桃の郷で、久しぶりの再会も楽しんでもらえたなら、と願っているんです」。
「綱島の桃を守る」池谷さんが静かにつなぐ“桃ビール”の味
綱島で現在唯一、桃農家の歴史を継いでいる池谷道義さん。「相鉄・東急直通線の鉄道工事の影響で伐採せざるを得ないピーチゴルフセンターの隣の畑の桃の木も、なんとか10本中、3本は移植を試みたいと考えています。ここがなくなってしまうと、もう残るは50本くらいまでに減ってしまうんです」と、明治時代から桃栽培を初めてここ綱島で行った祖先・池谷道太郎氏が始めた「日月桃」(じつげつとう)をこの先どうやって守っていくのか。次々と減る「桃の木」を、都市化との日々の狭間の中でどうやって未来へとつないでいくのか、まさしく苦悶の日々だといいます。
そんな中でも、先代で父親の池谷光朗さん(故人)が当主だった7、8年頃前に、地元の農業関係者の取り次ぎから、初めて出逢ったという横浜の地ビール会社(株式会社横浜ビール)で製造している「桃エール」が現在も好評だといいます。
「よく先代が、畑に落ちてしまった日月桃を“品質が良いのに、もったいない”と、傷(いた)んだ場所を除いて冷凍保存などしていたんです。横浜ビールさんには、一部の傷みにより販売できない日月桃を無償で提供させていただいているんです」と、毎年2回しか醸造しないという「桃エール」が綱島の桃を使用し製造されていること、毎年「桃まつり」の日が、前年収獲した「桃エール」の翌年の初めての発売日であることを明かします。
「桃エールは、桃まつり以降、綱島のイトーヨーカドーや横浜ビール関連のレストランなど、わずかな場所で販売・提供されることもありますが、それでも“桃まつり”が解禁日とあって、桃まつりではたくさん皆さんにご購入いただいています。毎年わずか700~800本程度の販売となります。“日月桃”は、香りが高いのでビールにぴったり合うんです」と、先代からつないできているという、桃が形を変えて「ビール」となった綱島ならではの味をPRします。
このように、綱島の桃の歴史を「継ぐ」3人の想いが起点となり、大きな綱島の街の歴史となり、この先もより大きく「結実」するであろう桃まつりは、綱島に集う人々の心に、今だからこそ感じられる新たな「桃色のハーモニー」を奏でるに違いありません。
会場の綱島市民の森「桃の里広場」へは、綱島駅西口より徒歩約11分。住宅街を抜け、最後に坂道があります。会場も傾斜がある箇所があるため、特に小さな子どもなどは歩行に注意が必要です。
【2017年3月12日追記】
【関連記事】
・節目迎える「綱島桃まつり」は3/13(日)に、120年の伝統を感じる貴重な機会(2016年3月2日)
・<相鉄直通線の工事>綱島温泉や桃への影響に言及「必要に応じて代償措置」(2016年12月23日)
【参考リンク】
・第21回 綱島桃まつり~わが町のシンボル『桃』と自然を愛そう~(つなしまピーチネット)
・綱島の桃の歴史(つなしまピーチネット)
・第21回 綱島桃まつりを開催します~わが街のシンボル「桃」と自然を愛そう~(綱島地区連合自治会)
・シリーズわがまち港北「第30回綱島の桃ふたたび~日月桃の今日明日」(2001年6月、大倉精神文化研究所)
・シリーズ わがまち港北 第208回まちのシンボル -綱島の象徴-(横浜市港北区「楽・遊・学」2016年4月号)[PDFファイル]
・綱島駅から綱島市民の森までのアクセス(Googleマップ)