南武線「武蔵小杉~鹿島田~矢向」間を高架化へ、川崎市が9踏切の解消目指す | 横浜日吉新聞

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JR武蔵小杉駅から矢向駅までの区間に残る踏切9カ所を解消する一大事業です。

川崎市はJR南武線(立川~武蔵小杉~川崎)の武蔵小杉駅から矢向駅4.5キロを高架化する「連続立体交差事業」で、都市計画決定へ向けた手続きを進めており、先月(2023年)6月19日には公聴会での意見表明に対する市の回答を公表するなど、年度末の決定へ向けた動きが続きます。

JR南武線の武蔵小杉駅から川崎駅までの区間には、NEC玉川事業場の最寄りとなる向河原駅や、再開発で発展中の鹿島田駅(新川崎駅)など重要拠点が点在。なお、かつて橘樹(たちばな)郡「潮田(うしおだ)町」だったエリア(現鶴見区矢向や尻手)が川崎市域にせり出すように形成され、同町は大正末期に鶴見町(現横浜市鶴見区)へ合流した経緯から矢向駅など南武線の一部区間は横浜市域に入っている(川崎市の2019年3月「南武線連続立体交差事業に関する地域勉強会」資料より)

この連続立体交差事業は、武蔵小杉(中原区小杉町)~向河原(むかいがわら、中原区下沼部)~平間(中原区田尻町)~鹿島田(幸区鹿島田)~矢向(やこう、横浜市鶴見区矢向)の各駅間に残る計9カ所の踏切を解消することを主な目的として計画されたものです。

昼間も車や通行者が目立つ鹿島田踏切(6月26日撮影)

向河原や平間、鹿島田の各駅近くには朝の通勤・通学時間帯を中心に遮断機が降りたままの状態が続く“開かずの踏切”が5カ所あり、例えば鹿島田駅前の「鹿島田踏切」ではピーク時(朝7時30分~9時)の遮断時間が最大で55分間(2021年10月、川崎市調査)におよぶなど、道路渋滞を引き起こす原因となっていました。

川崎市は、2014(平成26)年から立体交差化へ向けた本格的な調査を開始し、2019年までに測量や住民向けの説明会などを行っていましたが、新型コロナ禍の影響で一連の取組をいったん中断。

線路と3駅の高架化によって9カ所の踏切を解消し、高架橋の脇には都市計画道路などの整備もあわせて行う計画。横浜市域に入る直前までが範囲となる(川崎市の2023年2月「JR東日本南武線連続立体交差事業(矢向駅~武蔵小杉駅間)パンフレット」より)

事業内容を再検討して新たな計画案をまとめたうえで、今年3月から都市計画決定の手続きを始めています。

市の公表資料などによると、今回の連続立体交差事業では、高架橋の片側部分ができた段階で先行して下り線を移し、のちに上り線を高架化する「別線高架工法」を採用する方針。

今回の採用案として市が提示する「別線高架工法」では先に下り線を高架化し、踏切の長時間遮断を緩和したのちに上り線を移動させる順序で工事を行っていく(川崎市建設緑政局による2023年2月の「JR東日本南武線連続立体交差事業PRオープンハウス」におけるパネル展示「施工ステップ・今後のスケジュール等」を一部加工)

高架橋の両脇には最大幅12メートルの都市計画道路と、幅5メートルの自転車歩行者道路を新たに整備する計画とし、2023年度末までに都市計画決定して翌年度には事業認可を目指す考えです。

現時点で用地取得の対象となる権利者数は569件におよぶといい、まずは5年間かけて工事に必要となる用地を取得したうえで「2029年度(令和11年度)」に着工

用地取得ののち、工事は今から6年ほど先の「2029年度(令和11年度)」から始め、それから10年かけて「2039年度(令和21年度)」に高架橋の完成を目指す(川崎市の2023年2月「JR東日本南武線連続立体交差事業(矢向駅~武蔵小杉駅間)パンフレット」より)

事業着手から10年目となる「2033年度(令和15年度)」には下り線を高架化し、「2039年度(令和21年度)」に上下線の工事完了を見込みます。

関連道路の整備も含めた総事業費は約1387億円。このうち工事費が約995億円、用地費は約311億円などと公表しています。

開かずの踏切、高架化まで最短10年

平間駅近くの「平間駅前踏切」では警報機が鳴ってからの横断をやめるよう促す看板が目立つ(6月26日撮影)

川崎市内を縦断するJR南武線は「本市の骨格を形成するとともに、東京都心から放射状に広がる鉄道路線と結節し、川崎、武蔵小杉などの本市の拠点を形成する重要な交通基盤」(市の資料)となっている一方、武蔵小杉駅から川崎駅までの区間は大半が地上部を走行。

沿線の工場・事業所跡地などで再開発が進むなか、踏切がバスなどの交通や移動の支障となっています。

これまでも踏切の拡幅やカラー舗装といった対策は行われてきたが、根本的な解決にはいたっていない(向河原駅前踏切、6月26日撮影)

市とJRは対策として、踏切の拡幅う回路の設定、遮断の短縮効果が見込める「賢い踏切」の導入などを行ってきましたが、抜本的な解決には踏切を廃止するしかないとの結論にいたり、立体交差化する方針を決定。

市は線路や道路の地下化も含めて調査・検討を行った結果、もっとも事業費が少なく事業期間の短縮効果も見込めるとして「別線高架工法」を採用する案を市民に示しました。

線路の近くに住む住民は用地買収の対象となったり、長期間にわたって工事が行われたりすることに不安を訴える声も目立ち、完成後には周辺環境も変わることになる(川崎市の2023年2月「JR東日本南武線連続立体交差事業(矢向駅~武蔵小杉駅間)パンフレット」より)

ただ、下り線を高架化するまででも最短10年の時間を要するといい、線路の脇に建つ民家などからは用地取得や工事に対する不安の声も聞かれます。

鹿島田駅では、2階レベルで新川崎駅方面とつながっている歩行者通路(ペデストリアンデッキ)が高架化によって駅舎と接続させることが難しくなるという課題も出ています。

現在の鹿島田駅舎(写真左側)は2階レベルにあり、新川崎駅方面からの歩行者通路が接続しているため、写真右寄りの「鹿島田踏切」を渡らなくても駅にアクセスできるようになっている(6月26日撮影)

高架化の際は鹿島田駅舎を1階レベルに置く計画とされているため、2階レベルにある現在の歩行者通路をどう接続させるかの検討が続いている(2023年3月「川崎都市計画素案説明会」の資料より)

横浜市内の区間は動きが見られず

また、支障となる踏切が残る南武線の武蔵小杉駅から尻手駅(駅舎は幸区南幸町、鶴見区との区境)間のうち、今回の計画は川崎市内である矢向の手前までを対象としており、横浜市鶴見区内の矢向から尻手までの区間では具体的な動きが見られません。

矢向駅前には商店街のバス通りを分断する大きな「矢向第二踏切」があり、横浜市民から解消を求める声も上がるが、今のところ横浜市は具体的な動きを見せていない(6月26日撮影)

鶴見区区間にも踏切が多いうえ、南武線と並行して走る横須賀線方面へとつながる貨物線「尻手短絡線」(約1.5キロ)が尻手駅付近から分岐しており、横浜市はこの貨物線が高架化への支障になると説明します。また、矢向駅周辺の横浜市域には、南武線の電車を留置するスペースも置かれています。

川崎市内の重要な動脈である武蔵小杉駅から川崎駅間で、せり出すように存在する“横浜の南武線”をどうすべきかも今後の課題といえそうです。

【関連記事】

市が菊名3号踏切を改善へ、妙蓮寺周辺の「立体交差化」議論は進まず(新横浜新聞~しんよこ新聞、2022年2月21日、横浜市は立体交差化の検討区間を多く抱えており、妙蓮寺駅付近もその一つ)

・【過去記事】新川崎駅と鹿島田駅が直結、両駅つなぐ歩行者用通路は11/15(火)に全通(2016年11月11日、現在は2階レベルで両駅間を連絡しているが高架化の際は駅舎が1階となるため、どう接続させるかを検討中)

【参考リンク】

川崎市の「連続立体交差事業」について(南武線や京浜急行大師線など)

都市高速鉄道の変更(東日本旅客鉄道南武線)ほか関連案件(川崎市、高架化に関する手続き状況など)

横浜市「市民の声公表~JR南武線矢向駅における鉄道の高架化や、改札口を駅の上に設ける橋上駅舎化等についての早期の検討を要望します」(2023年5月30日公表、※一定期間が過ぎると消去される場合があり、その際はアーカイブページをご覧ください


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