鶴見川を描いた「緞帳」が伝える古き港北の記憶、区民らが一冊にまとめる | 横浜日吉新聞

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人間国宝が制作を手掛け、港北区の原風景を半世紀近くにわたって伝え続けてきた港北公会堂(大豆戸町)の「緞帳(どんちょう)」に焦点を当てた冊子「陽に萌える丘から解き明かす港北の歴史」がこのほど完成し、区内の公共施設などに寄贈されました。

区民グループの「芹沢銈介緞帳プロジェクト」が制作した冊子「陽に萌える丘から解き明かす港北の歴史」

同冊子は2019年に発足した区民グループ芹沢銈介緞帳プロジェクト」が今年(2023年)春に1000部を制作したもので、市内の図書館を始め、区内の地区センターやコミュニティハウスなどの公共施設、小・中学校に寄贈したほか、港北公会堂で200部を先着で無料配布しているといいます。

同プロジェクトは、日本を代表する染色作家・芹沢銈介(せりざわけいすけ)氏(1895~1984年)が手がけた港北公会堂の緞帳を題材に作品としての価値や、描かれた原画を通じて地域の歴史をひも解いており、一昨年(2021年)12月には研究成果を発表する大掛かりなイベントを開催。

漆原港北区長(左2人目)と岸本弘之地域振興課長(左)に冊子を手渡す同プロジェクト代表の大野さん(右2人目)と冊子制作を担当した阿部知行さん(右)(4月25日、港北区役所)

成果はイベントを通じて区内に広く共有されたものの、代表をつとめる大野玲子さんは「人の記憶はあいまいになるものなので、後世に残す必要があると感じ、冊子としてまとめました」といいます。

実際、同プロジェクトが発足するまでは港北公会堂の緞帳についての作品価値や制作経緯を知る人は少なく、完成から40年以上を経て作品の名称さえも微妙に異なったものが伝わっていました。

)作品名は「陽に萌る丘」と広く伝わっていたが、同プロジェクトの調査で「陽に萌る丘」だったことが明らかになっている

B5判・40ページフルカラーでまとめた今回の冊子は、一昨年のイベントで発表された研究成果以上の内容が盛り込まれているのが特徴。

冊子はフルカラーで読みやすく構成されている(「陽に萌える丘から解き明かす港北の歴史」より)

イベント時には時間の制約で発表されなかった内容やその後の研究成果、当日は登壇の機会がなかった綱島の旧家である飯田助知さん池谷道義さん、鶴見川研究者の岸由二さんらも寄稿し、下田町で数百年の歴史を持ち、緞帳の制作過程で深くかかわった田邊(たなべ)家についても詳しく触れられています。

緞帳の原画となった「陽に萌える丘(鶴見川)」が伝え続けてきた地域の歴史や風景に加え、採用されなかった「遺跡」と「土器」を描いた原画から見えてくる半世紀近く前の“港北区像”も興味深いところです。

冊子の寄贈を受けた港北区の漆原順一区長は「私も区内の出身ですが、家にあった昔からの資料などは戦争の空襲で焼けてしまって残っていない。こういった形で資料を整えてもらえたのは有難く、公会堂の緞帳が生まれた経緯が伝わることでより愛着がわいてくるのではないでしょうか」と話していました。

冊子は200部限定で港北公会堂窓口で入手が可能(同プロジェクトのサイトより)

なお、この冊子「陽に萌える丘から解き明かす港北の歴史」は港北公会堂200部を先着で無料配布しており、5月10日時点で入手が可能です。

【関連記事】

43年前の熱き思いを再び、人間国宝が残した港北公会堂「緞帳」の価値とは(2021年12月14日、イベントの詳細)

【参考リンク】

芹沢銈介緞帳プロジェクト(冊子についても)


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