人間国宝が残した“鶴見川の緞帳”、12/12(日)に公会堂で「知られざる港北の宝」 | 横浜日吉新聞

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人間国宝が港北区に残した“鶴見川の緞帳(どんちょう)”の作品価値と地域のつながりを再認識できる機会となりそうです。日本を代表する染色作家・芹沢銈介(せりざわけいすけ)氏(1895~1984年)がデザインした港北公会堂の緞帳「陽に萌ゆる丘」をテーマに、「芹沢銈介~知られざる港北の宝」(同プロジェクト主催)と題したイベントが今月(2021年)12月12日(日)に港北公会堂で開かれます。

静岡市立「芹沢銈介美術館」(写真は公式サイト)や東北福祉大学「芹沢銈介美術工芸館」など、作品を所蔵・公開している美術館は全国に複数ある

芹沢銈介氏は日本の自然や風景を題材とした多くの作品を残しており、その名を冠した美術館が生まれ故郷の静岡市と、自身が愛した東北の中心地・仙台市に置かれています。

加えて岡山県倉敷市の大原美術館には専門の展示室が設けられ、目黒区駒場の日本民藝館は多くの作品を所蔵するなど、染色の分野を芸術の世界へ昇華させた染色作家として、現在も国内外で高く評価され続けています。

1978年に制作された港北公会堂の緞帳「陽に萌ゆる丘」(2021年3月)

港北区との縁は今から40年以上前の1978(昭和53)年港北公会堂のオープン時までさかのぼります。現在の港北区役所とともに一連の敷地内に建てられた公会堂の緞帳(どんちょう=ステージ幕)をデザイン。

東京・歌舞伎座や大阪・フェスティバルホ-ルなどの緞帳を手がけた実績を持つ京都の老舗・川島織物(現・川島織物セルコン)が縦6.5×幅13.2メートルの大きさに織り上げ、現在も港北公会堂の緞帳として使われています。

日吉下田・綱島東の旧家が尽力

緞帳制作に地元から尽力したのが、江戸時代から続く下田町の旧家・田邊(たなべ)家で12代当主だった田邊泰孝(やすたか)さん(1921~2013年)でした。

田邊家の12代当主だった田邊泰孝(やすたか)さんが住んでいた築150年を超える家屋は「日吉の森庭園美術館」内に田邊泰孝記念館として、同氏が収集した民族文化財コレクションとともに残されている(2019年4月)

民族文化財に造詣が深かった田邊さんは、緞帳のデザインを人間国宝である芹沢氏に依頼。その下絵4点は現在も「日吉の森庭園美術館」(下田町3)内の田邊泰孝記念館に所蔵しています。

また、デザインの元になっているのが綱島の旧家・池谷(いけのや)家が所蔵している江戸時代の「鶴見川流域絵図」(1803年)です。

公会堂の緞帳制作は日吉・綱島の旧家が関わっていたことになりますが、これまで作品が持つ価値とともに、制作の経緯もあまり知られていませんでした。

作品と制作経緯を専門家が解説

12月12日(日)に港北公会堂で開かれる「芹沢銈介~知られざる港北の宝」の案内チラシ(公式サイトより)

12月12日(日)に開かれるイベント「芹沢銈介~知られざる港北の宝」は、美術作品としての価値や地元との関係を解き明かしていく内容となっています。

芹沢作品を多く所蔵する日本民藝館(目黒区)の学芸員・村上豊隆さんが「染色家・芹沢銈介の人と仕事」と題し、芹沢氏と作品の美術的価値を俯瞰的に解説。

さらに、大倉精神文化研究所理事長の平井誠二さんは、郷土史の視点から「下絵の元になった鶴見川流域絵図」とのテーマで江戸期の絵図と緞帳の関係を考察します。

イベントは11時から16時まで開かれる(公式サイトより)

緞帳の下絵を所蔵する「日吉の森庭園美術館」からは、田邊家の子孫で学芸員をつとめる田邊陵光さんが登壇し、「港北の情熱、緞帳の下絵はここにある~日吉の森庭園美術館と芹沢銈介」との演題で、地域との関わりを紹介する講演を行います。

13時30分から始まる講演に先立って、午前中は11時から芹沢銈介氏が技法を生み出し世に広めた「型絵染」を体験できるワークショップをはじめ、貴重な緞帳下絵や鶴見川流域絵図、芹沢銈介氏の型絵染作品の展示も予定されています。

講演・展示とも入場は無料で、ワークショップ(先着10人)の材料代は500円。

「緞帳と地域の物語」を伝えたい

今回のイベントを企画したのは、緞帳の価値を広めるため2019(平成31)年4月に発足した20人ほどの区民グループ「芹沢銈介緞帳プロジェクト」です。

今年3月の港北公会堂リニューアル公開時、緞帳について見学者に解説する大野さん

代表をつとめる大野玲子さんは、「芹沢銈介がデザインした緞帳は全国で3カ所しかなく、大阪の旧フェスティバルホールと、芹沢の生まれ故郷である静岡市の市民文化会館、そして次が港北公会堂です。なぜ3つ目が港北区だったのかを調べていくうちに地域とつながる物語が生まれ、これを広く伝えたいとの思いからプロジェクトを始めました」と振り返ります。

昨年(2020年)3月にイベントを企画していたものの、新型コロナウイルス禍によって断念。その後は港北公会堂の長期リニューアル工事もあって今年4月に開催を1年延期しましたが、今度はワクチン接種会場となったことで港北公会堂が使えなくなり、再延期して今月の開催となりました。

大野さんは「開催まで時間が空いてしまいましたが、その間に緞帳を紹介する映像作品も制作し、地域で紹介できるなど“不幸中の幸い”もありました。イベントを通じて、緞帳の価値と地元の関係を知っていただければ」と話しています。

)緞帳の下絵はこれまで「陽に萌ゆる丘」として知られていましたが、正式名は「陽に萌える丘」だったことがイベント当日に明かされました。当日のレポート記事では“萌える丘”で統一しています(2021年12月14日追記)

【関連記事】

43年前の熱き思いを再び、人間国宝が残した港北公会堂「緞帳」の価値とは(2021年12月14日、当日のレポート)リンク追記

港北公会堂のリニューアル完了、ワクチン接種で利用再開は10月以降(新横浜新聞~しんよこ新聞、2021年3月26日、延期後はリニューアル記念イベントとして開催予定だった)

【参考リンク】

芹沢銈介緞帳プロジェクトの公式サイト(12月12日のイベント案内)

2021年2月の『楽遊学(らくゆうがく)』は芹沢銈介「緞帳プロジェクト」の特集です(港北区連合町内会、2021年2月25日、同プロジェクトの詳細を掲載)

芹沢銈介について(プロフィールと作品、静岡市立芹沢銈介美術館)


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