タワマンから研究施設まで多彩、巨大再開発の大先輩「新川崎」に日吉が学ぶこと | 横浜日吉新聞

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矢上川越しに日吉からは新川崎の高層ビルが見える(2015年10月)

矢上川越しに日吉からは新川崎の高層ビルが見える(2015年10月)

JR横須賀線・新川崎駅周辺の再開発が今も続いています。日吉の高台や矢上川に近い場所から新川崎の方向をのぞむと、3つの高層タワーが見え、うち1棟が建設中である様子を眺めることができるでしょう。元住吉側を見れば武蔵小杉に林立するタワーマンションが迫り、矢上川方面を見ても塔のような建物が突き出しているのですから、日吉住民としては「新川崎も武蔵小杉のように大変貌するのか」と行方が気になってしまいます。

新川崎駅の周辺では、かつて東洋一と呼ばれた巨大な「新鶴見操車場」が大幅縮小したことを契機に、マンションや商業・研究施設が次々と建てられ、近接する鹿島田駅周辺の再開発も並行して行われることで“新川崎エリア”といえる新たな街が形作られようとしています

実は新川崎と日吉は浅からぬ関係があります。昨年(2015年)4月に日吉駅を結ぶ路線バスが新設されたこともその一つですが、かつて2つのエリアは、「日吉村」の“仲間”だったからです。

新川崎駅から7~8分歩いた先にあるのは「川崎市立日吉小学校」、そこから5分も歩けば川崎市幸(さいわい)区の「日吉合同庁舎」が現れます。東急線の日吉駅周辺が“日吉”という地名の代表的な存在となった今では不思議に思えますが、新川崎駅の周辺もかつて「日吉村」という同じ行政区域だったことが公共施設の名に今も残されています。

総務省が資料で公開した2007年1月撮影の写真には、赤点線で囲まれた再開発地域にほとんど手が付けられていない(本紙で駅の位置などを加筆した)

総務省が資料で公開した9年前の2007年1月に撮影された写真。当時は赤点線で囲まれた操車場跡の再開発地域はほとんど手が付けられていない(本紙で駅の位置などを加筆した)

そんな日吉村の「鹿島田」「小倉」と呼ばれた農村地帯に、東京ドーム10個分超の新鶴見操車場が作られたのは1929(昭和4)年。東の鹿島田・小倉では大操車場、西の日吉台(当時は駒林や矢上と呼ばれた地)は慶應義塾大学が新キャンパス建設と昭和初頭にいちやく脚光を浴びた村でしたが、大変化は平和な農村に分断をもたらし、横浜市と川崎市にそれぞれ分割合併されて今に至るとの歴史があります。

“横浜日吉”には慶應大学のキャンパスが残り、“川崎日吉”に残されたのが東洋一と呼ばれた新鶴見操車場でした。鉄道が貨物輸送の主力だった昭和40年代までは日本中から大量の貨車が集まり、操車場は大盛況をきわめたものの、鉄道貨物の衰退とともに、当時の国鉄は1984(昭和59)年に大幅縮小して操車場機能を停止。広大な跡地が生まれたことで、新川崎は“鉄道の街”から“ものづくり・研究開発拠点と大型マンションの街”に生まれ変わるべく、再開発が行われてきました。

超高層タワーは鹿島田駅側に4棟を建設

新川崎駅の駅舎、後方に見えるのは鹿島田側の「パークハウス新川崎」(左)とツインタワーの「新川崎三井ビル」

新川崎駅の駅舎、後方に見えるのは鹿島田側の「パークハウス新川崎」(左)とツインタワーの「新川崎三井ビル」

そんな新川崎ですが、駅の東側と西側では様相がかなり異なります。

東側は、JR南武線の鹿島田駅と隣接しており、その距離は歩いてわずか5分。東京都内の地下鉄なら同じ駅名にするくらいの近さです。鹿島田は日吉村時代の昭和初期には駅が設置されていたこともあり、鉄道駅を中心とした街が形作られています。

一方、西側はかつて操車場が広がっていた地域で、操車場が消えた後にゼロから作られた新しい街といえます。新川崎駅自体が1980年に設置されたものであるため、それほど長い歴史はありません。

日吉からも見える超高層ビル群ですが、東側の鹿島田地区に建てられています。新川崎と鹿島田の両駅を自在に使える利便性の高さがうりで、これまでに4棟のタワーが登場しました。

鹿島田側は2駅が使える利便性の高さがあるものの、土地がそれほどないため、ビルが高層化している。手前は新鶴見操車場の名残を残す信号所

鹿島田側は2駅が使える高い利便性があるものの、土地がそれほどないため、ビルの高層化を認めている。手前は新鶴見操車場の名残を残す信号所

うち2棟は開発初期の1989年3月に完成した31階建ての「新川崎三井ビルディング」というツインオフィスビルで、新川崎のランドマーク的な存在です。もともと日立製作所がこの地に工場を置いていたこともあり、日立が新川崎拠点として活用しているほか、向かいの新川崎地区に大型工場を置く三菱ふそうトラック・バスは本社として入居しています。

残り2棟がいわゆる「タワーマンション」です。一つが2002年12月に完成した41階建ての「サウザンドシティ」、残る一棟が現在分譲中の「パークタワー新川崎」です。パークタワーは地下2階地上47階建ての670戸を分譲する巨大タワーで、今年(2016年)10月の完成を目指して三井不動産が建設中です。

三井不動産は1年前の昨年(2015年)2月、新川崎と鹿島田の両駅中間地点にスーパー「マルエツ」や「ザ・ダイソー」「スシロー」など18店が入る「新川崎スクエア」を完成させています。再開発計画のなかで“生活利便支援施設”などと呼ばれる商業ビルで、今後は両駅間を歩行者専用通路(ペデストリアンデッキ)で結ぶ計画も進められています。

鹿島田側は都心へ通勤する世帯が暮らすのに、ますます便利に変化しています。

東京ドーム7つ分の跡地を15年以上開発中

2012年現在の新川崎側の再開発状況(川崎市の資料より)

2012年現在の新川崎側の再開発状況(川崎市の資料より、地図上の赤字は本紙で加筆)※クリックで拡大

超高層ビルが4棟も建つ鹿島田地区だけでも「大開発」といえる規模なのに、西側の新川崎地区でも東京ドーム7つ分(約33万3000平方メートル)にもおよぶ南北に伸びた細長い跡地を使い、これまで15年超にわたって開発が行われてきました。

バブル経済の余韻が残っていた1990年代には、「市民向けドーム型運動施設」といったものの建設を模索した歴史もあるようですが、その後は、ものづくり・研究開発機能を備えた生活拠点の整備を目指し、1990年代後半から工事が進められています。

慶應義塾大学の「新川崎タウンキャンパス(K2キャンパス)」は、産学官連携の拠点として「新鶴見操車場」の跡地を活用して2000年に開設された

慶應義塾大学の「新川崎タウンキャンパス(K2キャンパス)」は、産学官連携の拠点として「新鶴見操車場」の跡地を活用して2000年に開設された

2000年4月に慶應義塾大学の「新川崎タウンキャンパス(K2<ケイスクエア>キャンパス)」が完成したのを皮切りに、パイオニアをはじめとした企業の研究開発拠点や、3カ所1000戸超におよぶ17~20階建てのマンション、「シンカモール」と名付けられた商業施設も誕生しています。昨年(2015年)4月にはバスやタクシーが発着する交通広場も整備されました。

ちなみに、慶應大学は旧「日吉村」内の横浜側にあたる日吉と矢上に続いて、川崎市側の新川崎にもキャンパスを設けたことになり、何やら因縁めいたものを感じます。また、商業施設のシンカモールは、近年になって箕輪町1丁目に本社を置くコーエーテクモゲームスに所有権が移ったようで、ビルにコーエーテクモの企業ロゴが掲出されています。ここにも日吉との不思議な縁が息づいています。

2500戸のマンションと公立小学校を計画

F地区はまだマンションが1棟建ったばかり、今後は公立小学校も予定(グーグルアースより)

F地区はまだマンションが1棟建ったばかり、今後は公立小学校も予定(グーグルアースより)

2016年2月現在、ほぼ完成形に近づいてきたかのように見える新川崎地区の大開発ですが、まだ終わっていません。今後の注目は新川崎駅からもっとも遠い矢向(やこう)寄りの「F地区」と呼ばれる10万平方メートル(東京ドーム2つ分超)におよぶエリアです。

この規模は、アピタ日吉店などの一連の跡地とパナソニック跡の「綱島SST」を合わせても足りないくらいの巨大敷地で、ここにマンション開発会社のゴールドクレストが計2500戸のマンション「クレストプライムレジデンス」を2020年までに段階的に建設する計画としており、今も工事が進んでいます。昨年7月には第一号となる地上15階建て421戸の「アベニュー壱番街」が完成しており、来月(2016年3月)には入居が始まる見通しです。

そして、あまりに急激な人口増加に対応するため、敷地の一部(1万6800平方メートル)を川崎市が買い取り、公立の新小学校を建設する予定といいます。ただ、当初計画では「2018年度以降」の開校予定だったのが、「2020年度以降」に延期となりました。

日吉では、アピタ跡地など一連の5万6000平方メートルの敷地に、新たな公立小学校(約9700平方メートル)と、商業施設や1000戸以上のマンションが建てられる計画とされています。新川崎のF地区と比べれば規模は小さいのですが、土地利用の方向性が似ているため、その行方が気になるところです。

たとえば、アピタ再開発地でも建設が取り沙汰される「生活利便支援施設」は、鹿島田の「新川崎スクエア」や新川崎の「シンカモール」のような商業施設なのでしょうか。

また、再開発のメインとなる「共同住宅」は、20階建て程度のマンションが幾つか並べばどんな雰囲気なのか、タワーマンションが複数建つとどんな風景となるのでしょうか。

15年以上も開発を進めてきた“大先輩”の新川崎には、これから始まる日吉での再開発をイメージするうえで、最適な教材が多数あることは間違いありません。

【関連記事】

<コラム>自らの利益のため「日吉村」を引き裂いた大都市横浜と川崎の罪(2016年1月3日)

<コラム>アピタ再開発が目指す「都市型コンパクトタウン」の謎に迫る(2015年11月21日)

【参考リンク】

新川崎地区整備事業(川崎市ホームページ)

鹿島田駅東部地区(市街地再開発事業)

新川崎地区における小学校の新設について(川崎市教育委員会)

クレストプライムレジデンス(F地区における2500戸マンションプロジェクト)


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