<コラム>アピタ再開発が目指す「都市型コンパクトタウン」の謎に迫る | 横浜日吉新聞

横浜日吉新聞
ひよしコラム 日吉コラム

ひよしコラム日吉の日常で知った情報や出来事をみなさんと共有する「ひよしコラム」の5回目。アピタ日吉店(箕輪町2)の跡地については、2015年11月19日に横浜市と野村不動産、MID都市開発の3者から再開発の方向性が発表され、地元で噂されていた公立の新小学校が建設されることになりました。

計画の全体像として「都市型コンパクトタウン」や「スマート・コミュニティインフラ」の創生といったことがうたわれていますが、具体的に何が建てられるのかという面では、ぼんやりとした部分が多いのも事実です。現時点で近未来の街の姿がイメージできるように、できうる限り迫ってみました。

桜並木を活用し森林広場、敷地の約17%が公立小学校

野村不動産が発表した周辺の位置図

野村不動産が発表した周辺の位置図

このほど、市と野村不動産などから公式発表された再開発の内容は以下の通りです。

・アピタ日吉店の跡地(約2万平方メートル)だけでなく、隣接する「損害保険ジャパン日本興亜の事務センター」(約1万6000平方メートル)と「NRI野村総合研究所のオフィス・寮」(約2万平方メートル)も合わせ、合計5万6000平方メートルの再開発となる

・このうち、約9700平方メートル(全敷地の約17%分)を横浜市が取得し「公立小学校」とする予定

・野村不動産は、MID都市開発と共同で「住宅」を核として、「商業施設」などの生活利便施設などが一体となった大規模複合開発を行う

・今回の開発では、多機能かつ高利便性を有する複合型のまちづくり「都市型コンパクトタウン」を目指す

・「防災広場」の活用や「デジタルサイネージ」を活用した災害情報の提供など“スマート・コミュニティインフラ”を整備する

・現在、NRI野村総合研究所や日本興亜の事務センターの入口付近にある桜並木などを活用し、「森林広場」といったクールスポットを創出する(これを「スマート・グリーンインフラ」という名で呼んでいる)

以上の6点が柱となっています。主な内容を詳しく見ていきましょう。

「プラウド日吉」だけでも日吉台小の教室は限界

p15.0718_daisyojpg

日吉台小学校は校区が広い

横浜市が建設を予定する小学校については、現時点で「日吉台小学校第二方面校」という仮の名前が付いています。これは敷地周辺が日吉台小学校(日吉本町1)の学区内に位置しているための仮称で、正式名となるわけではありません。

この日吉台小学校の学区では、アピタ跡地に隣接する町内で、野村不動産が117戸の大型マンション「プラウド日吉」(「DOWAサーモテック横浜工場」跡地)を建設している最中です。

「今回の再開発以前に、学区内にプラウド日吉が建っただけでも、日吉台小の教室はギリギリの状態になる」。横浜市教育委員会の関係者はこう話します。

また、近隣の日吉南小学校(日吉本町4丁目)では、児童数の急増に対応するための増築を行った結果、現在では全校児童834人という港北区第2位の大規模校になりました。

道路を隔てた綱島側にある綱島東小学校(綱島東3)北綱島小学校(綱島西5)では、校庭にプレハブ校舎を建てて、児童数の増加に何とか対応している状態です。

つまり、アピタ跡地に建てられる大規模な住宅(マンション)分の児童を受け入れる余裕は、近隣のどの小学校にもありません。「この先、2~3年は何とかしのげるかもしれないが、(今回の大規模開発は)そのレベルではない」(市教育委員会の関係者)という危機感があったため、今回の小学校新設に強く動いたようです。

実際の建設に際しては、現在あるアピタ日吉店などの建物を取り壊し、更地になってからでも2年間は要すると言われており、もっとも早く進んだ場合でも2019年以降の完成となる見通しです。

地元の有力者は「新小学校をどういう校区にするのか、横浜市の“線引き”の考え方が気になる」と話しています。

「武蔵小杉のようなタワーマンションは建たない」

p151121p00001

長谷工コーポレーションが2005年に豊洲駅徒歩4分の場所で建てた大型マンション「東京フロントコート」は、2万8000平方メートルの敷地に20階建てと14階建ての建物があり、計981世帯が住んでいる。アピタ跡地に建てられるマンションも現時点ではこのような建物イメージか(長谷工のマンションライブラリより)

アピタなど3施設の敷地は合わせて約5万6000平方メートルという広さがあり、これは「エリア最大級」(野村不動産・MID都市開発)となります。

小学校の建設に使う分を除いたとしても、約4万6000平方メートル分の敷地が残る形となり、ちょうど「東京ドーム」1つ分と同じ広さです。

敷地の多くを占めるとみられるのが「1000戸以上」(日本経済新聞や神奈川新聞の報道)と言われている大規模なマンションです。

「タワーマンションを建てるのではないか」との噂は今も絶えませんが、横浜市で都市開発に携わる関係者は「武蔵小杉のような超高層マンションが箕輪町に建てられることはないだろう」と話します。

「新綱島駅の上部に建てられる商業施設複合型マンションでも28階建てになっている。住宅街である箕輪町では、それ以下の高さにするというのが基本的な考え方」(市の都市開発関係者)だといい、「(アピタの正面に建つ14階建ての)日吉ロイヤルマンションのような20階建て以下の建物が基準になる」と明かします。

一方、ある地元住民は「武蔵小杉のようなタワーマンションは建たないとしても、小学校用地を市に提供することと引き換えに、現状の20メートルという高さ制限は撤廃されることが考えられる。具体的な計画が明らかになっていない以上、今は何ともいえない」と指摘しています。

スーパーや保育園、防災公園など多彩だが未確定部分も

アピタ日吉店の敷地は約2万平方メートルあるといわれている

アピタ日吉店の敷地だけでも約2万平方メートルある

今回の再開発では「都市型コンパクトタウン」というキーワードが掲げられており、大規模なマンションだけでなく、「スーパー」や「保育園」など、居住者や箕輪町などの近隣住民に役立つ施設も同時に整備されると言われています。

加えて、敷地内には災害時に周辺住民が防災拠点として使える「広場」も整備される予定です。これは、普段は公園として使い、災害が発生した場合はマンホールが仮設トイレとなったり、ベンチが炊き出しとして使う「かまど」となるような“特殊な公園”です。また、高齢者の健康維持に関連する施設の追加も取りざたされています

横浜市や野村不動産が「スマート・コミュニティインフラ」と呼ぶこうした設備には、ITを積極的に活用する方針だといい、たとえば災害時の情報発信手段として「デジタルサイネージ」と呼ばれる電子看板を整備するといいます。「ITを使って災害時に地域住民を守る」(横浜市関係者)というコンセプトがあるようです。

来年にも解体着手、2020年の完成を目標に進める方針

横浜市で都市開発に携わる関係者は、「小学校や保育園など、地域に役立つ施設を誘導していくのが市の役割だが、実は再開発計画の細かな部分までは決まっていない」と明かします。

現時点では開発の全貌は見えないため、今後の追加や変更も考えられますが、予定として、2016年中にもアピタ日吉店などの建物解体に着手し、小学校やマンションなどの全施設が完成するのは2020年を目標としているようです。

「解体作業と同時に都市計画手続きを同時並行して行うつもりだが、(地域の街づくり方針を定める)『地区計画』も作るので、計画を正式決定するだけでも、1年以上の時間がかかりそうだ」(市の都市開発関係者)。

2019年4月に予定されている相鉄と東急の乗り入れ時には間に合わない可能性も高いのですが、東京五輪が開催される頃には、アピタ日吉店の跡地には、今とはまったく違った風景が見られることになるのは間違いなさそうです。

【関連記事】
アピタ日吉店跡地に公立小学校、3敷地合わせ「1000戸程度のマンション」も(2015年11月20日)

【参考リンク】
日吉・綱島地区で、環境未来都市にふさわしい持続可能な魅力あるまちづくりを推進します(横浜市都市整備局/教育委員会事務局、2015年11月19日、PDFファイル


カテゴリ別記事一覧