街のシンボルでもある公共建築を通じて横浜市の100年を振り返る貴重な「記念誌」が先月（2023年）7月下旬から公開されています。
横浜市建築局は前身である「建築課」の発足から昨年（2022年）で100周年を迎えたことを記念し、これまでの歩みをまとめた「横浜市公共建築の100年」を作成してPDF版を公開しました。
PDFで公開された「横浜市公共建築の100年」（市建築局の紹介ページより）
公共建築の100年を見ることは横浜市が発展してきた歴史をたどることにもつながる（「横浜市公共建築の100年」より）
1922（大正11）年に発足した市の建築課（現建築局）は、翌年発生した関東大震災で被害を受けた木造小学校を始めとした公共施設の復興を皮切りに、これまで多数の公共建築物に携わっています。
今回の100周年記念誌では、現存する「横浜市開港記念会館」（1917年竣工）や「赤レンガ倉庫」（1911年～1913年竣工）を始め、この100年間で市が保有することになった2608におよぶ公共建築物のなかから象徴的なものを紹介。
現在、横浜市が保有する公共建築物（公共施設）は2600超におよぶという（「横浜市公共建築の100年」より）
庁舎や学校、住宅などそれぞれの分野で年代ごとの特徴や時代背景を解説しており、学校で見ると、1950年代の第一次ベビーブーム対策で“合理的に大量に造る”時代から脱し、少しずつ個性を出す形に変化しており、2020年4月に開校した箕輪小学校（箕輪町2）もその一例として写真が掲載されました。
どこの小中学校も似たような建物となっているのは、子どもの数が多くとにかく量が求められた時代の名残といえる（「横浜市公共建築の100年」より）
今後、横浜市内にある多くの学校で建て替え時期が迫っており、港北区内ではまず菊名小学校（菊名5）が対象となり、築年数が古いなどの基準で他の学校でも順次行う計画です。
人口減を見据えた他の公共施設との統廃合や合築も含め、この先には地域の事情に応じてさまざまな形の設計が模索されており、学校建築物の個性化はさらに進むものとみられます。
市内から100カ所を選んだ「横浜を代表する公共建築」の扉ページには大倉山記念館の写真が使われている（「横浜市公共建築の100年」より）
今回の記念誌には、「横浜を代表する公共建築」として100施設を選んで紹介した日刊建設通信新聞社の連載記事も転載しているのが特徴です。
“横浜を代表する公共建築”として港北区内から選ばれたのは「大倉山記念館」（大倉山2）、「横浜アリーナ」（新横浜3）、「障害者スポーツ文化センター横浜ラポール」（鳥山町）、「篠原地区センター・地域ケアプラザ」（篠原東2）、「横浜国際総合競技場（日産スタジアム）」（小机町）の5施設。
このなかで大倉山記念館と横浜アリーナ、横浜国際総合競技場（日産スタジアム）の3施設は、建築物としての特徴や建築の経緯などについて、関係者のインタビューも含めて特に詳しく取材しています。
大倉山記念館の記事では、建築家の隈研吾さんが地元住民だった立場からその魅力を語り、横浜アリーナはホール内部の形状をコンピュータ制御で自由自在に変えられることに触れ、横浜国際総合競技場（日産スタジアム）は地震に強い工法を採用している点など、意外と知られていない特徴を知ることができます。
巻末にはこれまでの100年に建てられた横浜市の「公共建築リスト」を掲載（「横浜市公共建築の100年」より）
また、巻末には現存しない建物も含めた「公共建築リスト」が掲載されており、ここからは、現存する市内の図書館や地区センターで港北図書館・菊名地区センター（1960年竣工、旧港北区庁舎）が最古であることなどが分かります。
市内の公共建築物の“古さ”という面から比較できるため、今後の建て替えなどの変化を予測するうえでも有益な情報となりそうです。
（※）この記事は「横浜日吉新聞」「新横浜新聞～しんよこ新聞」の一部共通記事です
【関連記事】
・昭和56年以前築の小中学校は建て替え方針、日吉台小や台中、高田小など先行対象か（2017年2月18日、市の小中学校の建て替え方針について）
・菊名小学校の「校舎」建替え計画がまとまる、市教委が意見を募集（新横浜新聞～しんよこ新聞、2022年2月4日、先行対象は菊名小学校になった）
・築40年超「港北区役所」は建替えなるか、9区の庁舎対象に可能性探る調査（2021年8月2日、区役所もそれなりに古い）
【参考リンク】
・「横浜市公共建築の100年」を作成しました（横浜市建築局、2023年7月27日）
・横浜市公共建築の100年（100周年記念誌）（PDFで全ページを公開）
