<税理士相談の現場から>第3回:サラリーマンの「起業」や「副業」も届出と税対策を | 横浜日吉新聞

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税の悩みひも解き方法人サポーター会員による提供記事です】どんな立場の人であっても、必ず関わらなくてはならない「税金」。日吉を拠点で活動を続ける税理士の澤口洋輔さんに、無料相談会などの場で実際に受けることの多い質問内容をもとに、税の悩みを、ひも解いていく連載の第3回では、サラリーマンの「起業」や「副業」について考えみましょう。

税理士の澤口洋輔です。最近では国が副業を解禁するよう経済界に働きかけたり、サラリーマンにも起業を促したりという風潮となりつつあります。

そんななか、ビジネスとなりそうな分野やアイデアを見付け、サラリーマン生活を続けながら、平日夜間や週末を使った起業や副業へと踏み出そうという方は、決してめずらしい存在ではありません。

一方で、忘れがちなのが税金対策です。企業に勤めていれば、税金は会社側が自動的に天引きしてくれるため、自らが計算をすることはほぼありませんが、起業や副業においては、すべて自分で行うしかありません。

“サラリーマン兼業”であっても、副収入が生じる限りは届出を行ったり、税金を支払ったりする必要が生じてきます。

では、どのような手続きが必要なのか、どう税金対策を行えばいいのかについて、実際の相談内容から見ていきましょう。

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質問者:わたしは現在、会社勤めをしているのですが、いつかやってみたいと思っている事業があります。来月から平日の夜と週末に副業としてスタートしてみようと計画しています。これにあたって税金のことで注意するポイントを教えてほしいのですが……。

税理士澤口:わかりました。それでは、まずは現在のご家族の状況を教えてください。

【図1】今回相談者の家族構成と現状

質問者:家族は妻と子供2人がいます。私は正社員で年収700万円程、妻は専業主婦です。妻にも子育ての空いた時間でこの副業のサポートしてもらおうと考えています。【図1参照】

税理士澤口:なるほど、それは良いですね。今後の予定としては、どのように想定していますか?

質問者:この事業が発展したら会社を退職して、事業に集中したいと思っています。ただ、これからの数年は準備期間と割り切っています。会社勤めをしながら、徐々に事業を育てていくことを想定しています。

税理士澤口:そうですか。税金面で注意するポイントは、大きく3点ですね。1つ目は、税務署に提出する「届出書類」について。次の2点目が「日々の経理」という部分、最後の3つ目は「所得税の確定申告」についてです。

事業を始めたら税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出が必要となる(国税庁の案内ページより)

まず、一つ目から説明します。まずは事業を始めたら、すぐに(1)個人事業の開業届出(2)青色申告の承認申請書を税務署へ提出してください。また、奥様に給料を支給する場合には、その旨の書類(青色事業専従者給与に関する届出)も提出する必要があるので注意してください。

質問者:わかりました。ただ、会社で忙しいので税務署に行ける日が限られるのですが。

税理士澤口:国税庁のホームページからこれらの書類をダウンロードすることができます。記載例もきちんと用意されているので、印刷して必要事項を記載した上で、所轄の税務署に郵送するのがおススメです。そうすれば、わざわざ税務署に行く必要はありません。

質問者:わかりました。その方法で作成してみます。わからなかったら、また教えてください。ポイントの二つ目、日々の経理はどうしたら良いですか?

澤口税理士が考案した領収書保存ファイル。

税理士澤口:まずは、領収書を整理するファイルを準備してください。【写真参照】
このようなファイルに、経費になるような領収書を種類ごとにもれなく入れるようにしてください。税金は、事業の売上から経費を控除した残りの利益に税率を乗じて計算されます。経費となる領収書を残しておかないと、実際よりも利益が出ていることになってしまい、結果として無駄に税金を払うことになります。特に副業の場合には、会社からの給与と合算して所得税の税率が決まるので副業自体の利益は少なくても意外なほど税金が高額になるので注意が必要です。

質問者:それは怖いですね。この副業のために携帯電話で通話したり、自家用車を運転することもあると思いますが、このような場合はどうすべきですか。

税理士澤口:家庭で利用しているものと事業で利用しているものが混在しているケースですね。ご質問の、電話代やガソリン代だけでなく、自宅の一部を副業の事務所として利用しているのであれば、家賃や電気代・水道代などの光熱費なども考えなければいけません。これらは、事業で利用している一定の割合で、経費とすることが可能です。例えば、自宅の総床面積と仕事部屋として利用している部屋の床面積で毎月の家賃を按分して経費に入れるというようなことです。これらの領収書も同じように残しておいてください。

質問者:わかりました。では、最後に毎年の確定申告はどのようにしたら良いですか?

税理士澤口:実は、これは思っているより簡単です。国税庁ホームページに「確定申告書作成コーナー」というサイトが用意されています。こちらで指示通り入力していけば、確定申告書は作成できますし、電子データにて申告書を提出することも可能です。

国税庁ホームページ内にある「確定申告書作成コーナー」で指示通り入力していけば、確定申告書が作成できる

ただ、事業を営んでいる方は少々複雑です。青色決算書というものを記載する必要があるからです。1年間でどれだけの売上があり、どれだけの経費を使ったかを整理して記載するものです。具体的には、さきほどの領収書の整理ファイルから領収書を取り出して、この集計作業を行います。

この集計方法には、2つの種類があります。1つは、「エクセル(Excel)」などの表計算ソフトで集計する方法。2つ目は、「会計ソフト」などを利用して複式簿記にて集計する方法です。両者の違いとしては、前者のほうが手軽ですが、後者のほうが税金上のメリットが認められています。

質問者:私の場合は、どちらで集計するのが良いですか?

税理士澤口:副業の方の場合は、手軽なエクセルなどでの集計をお勧めしています。両者の違いとして、青色申告特別控除という経費の上乗せを認める枠が10万円から65万円にアップするという点がありますが、そのメリットよりも会計ソフトを用意する費用や仕組みを覚えたりする手間など、負担が重いことが多いので。

質問者:わかりました。とりあえず、今年はエクセルで集計してみようと思います。来年以降で、事業の規模が拡大したら会計ソフトの導入も検討してみますね。そのときは、また相談させてください。

今回の相談内容と回答「まとめ」

税理士澤口:そうですね。税金の手続きも事業の成長ステージに合わせて変化させていくのがベストです。さらに事業が成長すれば、個人事業ではなく会社を設立して行うことも検討するタイミングもきます。引き続きサポートしていきますね!

最後にもう1点だけ。確定申告書に副業の結果で増額となった住民税について、「会社の給与から天引きするか?」「会社とは別に自分で納めるか?」の2種類を選択して記載する項目があります。現在の勤務先の会社に副業を知らせたくない場合には、「自分で納付」欄にチェックしてくださいね。

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このように1時間程度の相談で、税金の面で注意すべきポイントをお伝えしていきます。

起業や副業を考える際は、ビジネス面で全力投球するのは当然ですが、税金面もあらかじめ相談し、備えておくことで、後に事業が軌道にのった際にも不安が少なくなるはずです。

【執筆者プロフィール】
澤口税理士澤口洋輔(さわぐちようすけ):税理士・澤口税務会計事務所代表、1980(昭和55)年神奈川区松見町生まれ。港北小学校(菊名2)時代から東海大相模の中等部・高校在学時までを菊名や大倉山周辺の港北区内で過ごし、初の事務所は高田西3丁目で開業。現在は日吉4丁目を拠点に港北区内外で税理士活動を行っている。元野球少年。実家は大倉山。中央大学法学部卒、税理士法人けやきや株式会社鹿谷総合研究所を経て2015年6月に独立。
ホームページ:https://sawazeirishi.com/

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法人サポーター会員:澤口税務会計事務所提供)


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