“国際”の看板下ろしたい「横浜国際プール」、通年スポーツフロア化へ市が素案 | 横浜日吉新聞

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近い将来に“国際プール”の看板を下ろし、サブプールを残したうえで室内スポーツ施設とする可能性が高まっています。

横浜市にぎわいスポーツ文化局は今月(2024年)6月3日、横浜市会(市議会)「市民・にぎわいスポーツ文化・消防委員会」で横浜国際プール(都筑区北山田)の再整備計画素案を公表し、メインプールの使用をやめ、通年スポーツフロア化する考え方を示しました。

6月3日の「市民・にぎわいスポーツ文化・消防委員会」で公表された「横浜国際プール再整備事業計画(素案)」

横浜国際プールは国際基準のメインプール(50メートル×10コース)やダイビングプール(25×25メートル)、サブプール(50メートル×8コース)などの設備を持つ“室内水泳競技場”。市が1998(平成10)年7月に新設したものです。

いわゆる“市民向けプール”ではなく、国際基準の水泳競技場としたのは、第53回国民体育大会「かながわ・ゆめ国体」(1998年)の開催に合わせるとともに、当時は将来的なオリンピックの誘致も視野に入れていたとされています。

国際基準で設計された横浜国際プールのメインプール(「横浜国際プール再整備事業計画(素案)」より)

一方、約552億円をかけて新設した市の公共施設として、水泳競技だけでなく、幅広い市民への開放を意識。

そのため、メインプールとダイビングプールの場所を「メインアリーナ」と呼び、10月中旬から4月上旬までの期間はプールに“フタ”をかぶせるような形で床を敷き、室内スポーツ向けのスポーツフロアに転換できる仕様としているのが特徴です。

プロバスケットボール「Bリーグ」開催時のスポーツフロア(資料写真、2022年)

スポーツフロア時には、バレーボールの「Vリーグ」やテニスの日本リーグが試合会場としたほか、2011(平成23)年以降は当時のプロバスケットボール「bjリーグ(現Bリーグ)」に参入した「横浜ビー・コルセアーズ(横浜ビーコル)」が定期的に使用。

2016(平成28)年の「Bリーグ」発足以降は横浜ビーコルの本拠地(メインアリーナ)として毎シーズン20試合以上が行われています。

進む老朽化と必須の天井工事

横浜国際プールの外観は古さを感じさせないが、オープンから25年が経ちプールなどの設備面では老朽化が進んでいるという(資料写真、2022年)

ただ、横浜国際プールもオープンから四半世紀を超えて施設の老朽化が進み、プールや空調といった設備の更新時期が迫っているといいます。

また、市の公共施設のうち日産スタジアムや横浜アリーナを含めた101施設では、東日本大震災後の新基準に合わなくなった天井の脱落対策工事を進めており、2025年度までにすべてを終える計画としていますが、横浜国際プールのメインプール部分は工事に着手できていない状態です。

2021年度には市の「包括外部監査」で施設の老朽化が目立っていると指摘されたうえ、プールとスポーツフロアの床転換に年間約5100万円の費用と、約2カ月間の休館期間が必要である点を問題視。

「経済性という点からも明らかに合理性がないといわざるをえない」(同監査報告書)として、プールか体育館(スポーツフロア)に一本化するべきとの提案が盛り込まれました。

プロバスケットボールでも使えるレベルの床となっているが、プールと床の転換には年間約5100万円を要するという(資料写真、2022年)

この監査報告書によると、国際水泳連盟(FINA)が主催する国際大会を開くにも、現在は計測器や観客席の面で要件を満たしていないとのこと。

また、監査報告書では指摘されず、今回公表された「再整備事業計画(素案)」にも具体的な言及はありませんが、Bリーグでは2026年に“新Bリーグ”を発足する計画としており、3部制の最上位となる「Bリーグプレミア(B.LEAGUE PREMIER)」はホームアリーナ(本拠地)などの面で参入審査の基準を引き上げる方針です。

2026年に発足する“新Bリーグ”で最上位の「Bリーグプレミア(B.LEAGUE PREMIER)」へ参入するには現在の「B1リーグ」より高い基準をクリアする必要がある(Bリーグ「B.革新」特設サイトより)

スポーツフロアを本拠地とする横浜ビーコルは、このBリーグプレミアへの参入を目指しており、現時点で横浜国際プール(※常設約4000席、試合時はコート付近に仮設席や2階に立見スペースを設けることで5000人超の収容が可能)は「5000席以上の観客席数」という参入基準について、仮設席を含めることで数字上はクリアしているとみられますが、審査基準が厳しくなった際に対応できなくなる可能性があります。

スポーツフロア化で6000席整備

市にぎわいスポーツ文化局が公表した再整備事業計画の素案では、「単に施設の長寿命化を図るのではなく、この機会を好機ととらえ、再整備を実施する」(同素案)とし、メインプールの使用を止め、通年スポーツフロア化する方針を提示。

通年スポーツフロア化にあわせ、客席を6000まで増やすことやファミリー席の新設などを打ち出している(「横浜国際プール再整備事業計画(素案)」より)

「様々なスポーツ興行も開催できるスポーツフロアに改修し、大型映像装置空調・音響設備改修等のアリーナ機能を拡充します」(同)とし、観客席は6000席以上を整備する考えです。

加えて「スポーツ興行に対応可能なファミリー席やラウンジの整備を行います」(同)といい、新Bリーグ基準で求められている大型映像装置の設置を含めて対応していくことを示唆しました。

サブプール(50メートル×8コース)は機能強化を図り、快適性を高めたうえで「小中高生の水泳の拠点」として活用したい考え(「横浜国際プール再整備事業計画(素案)」より)

サブプールは存続のうえ、現在355の座席数を500席程度にまで増やし、映像装置の更新も行うことで「各種大会の開催にも適したプールとして機能強化を図ります」(同)とのことです。

このほか、休憩室を改修して「スポーツマンガライブラリー」を新設することや、屋外に遊具を設置して“質の高い遊び場づくり”を進めるとしました。

グリーンライン・北山田駅から横浜国際プールまでの距離はそれほど離れていないが高低差がかなりある。同素案では「興行時はもとより、日常的なアクセス改善についても検討していきます」としている(資料写真、2022年)

なお、市は通年スポーツフロア化により運営費が年間1.6億円の削減になるとはじいています。

一方、神奈川県水泳連盟(藤沢市)や横浜水泳協会(都筑区北山田)は、サブプールでは長水路競技の開催が難しいとしてメインプールの存続を求めており、県水泳連盟が署名運動を展開するとともに、存続の要望書も市に手渡しました。

神奈川県水泳連盟は横浜国際プールのメインプール存続に向け署名活動を6月末まで行っている(同連盟の公式サイトより)

市にぎわいスポーツ文化局では6月中にも今回の素案に対する市民意見の募集を行うといい、10月ごろには正式な事業計画を策定する考えです。(6月21日追記:市民意見の募集期間は6月24日~7月31日となりました)

公共プールの未来はどうなるのか

市内のプールをめぐっては、綱島公園プール(1988年オープン)が横浜国際プールと同様に夏場以外はテニスコートに床転換できる仕様としていましたが、老朽化で大規模な故障が発生。昨年から休止状態となっており、来年夏までに床転換装置を廃止したうえで、プールとしてのみ存続させる方針を決めています。

1988(昭和63)年にオープンした綱島公園プールでは夏場以外はテニスコートに床転換してきたが、その装置が故障。今夏も含め2季連続でプール営業を取り止め、来夏からプール専用施設として営業を再開する方針(資料写真)

また、日産スタジアム内で1998(平成10)年にオープンした通年型の屋内プール施設「日産ウォーターパーク」でも近年はプール設備の故障や営業への支障がたびたび発生しており、直近では来月7月1日(月)から12日(金)まで休業する予定です。

子どもの数が今より多く、市の運営面でも余裕のあった1980年代から90年代に計画され、現在は老朽化が進む公共プール施設をどう維持し活用していくのか。市を代表する競技施設である横浜国際プールの再整備計画は、他の施設にも影響を与える可能性があります。

【関連記事】

・【前年記事】新シーズンの「横浜ビーコル」は12選手で船出、目指す場所はただ1つ(2023年9月25日、新たな最上位リーグ「新B1(Bリーグプレミア)」を目指す方針についても)

<綱島公園プールは存続>テニスコート転換床を撤去、2025年夏に営業再開へ(2024年6月10日、こちらも老朽化で床転換を断念)

<横浜アリーナ>2022年1月から半年超にわたり休業、天井など大規模改修で(新横浜新聞~しんよこ新聞、2020年12月24日、多くの施設では天井脱落対策を終えている)

【参考リンク】

横浜国際プール再整備事業計画(素案)に対する市民意見募集について(2024年6月24日~7月31日に募集、横浜市にぎわいスポーツ文化局)リンク追記

横浜国際プール再整備事業計画(素案)についてPDF、横浜市会「市民・にぎわいスポーツ文化・消防委員会」2024年6月3日資料)

横浜国際プールの公式サイト(北山田駅から徒歩約5分)


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