<港北区>市営地下鉄の駅が7つもあるのに低かった「敬老パス」の交付率 | 横浜日吉新聞

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港北区での敬老パス交付率は、市営地下鉄の駅がある区のなかでもっとも低かったといいます。

横浜市健康福祉局は先月(2024年)5月30日、70歳以上の市民を対象とした「敬老パス(敬老特別乗車証)」について利用状況などの現状を分析した資料を横浜市会の「健康福祉・医療委員会」で公表しました。

横浜市の敬老パスは2022年からICカード化されたが、PASMOやSuicaといった交通系ICカードとの互換性はないため、駅やバス車内には独自の読み取り機が置かれている(2022年10月31日の横浜市健康福祉局のニュースリリースより)

敬老パスは70歳以上の市内在住者を対象に希望制で交付される“フリー乗車券”で、横浜市交通局地下鉄バス、金沢シーサイドラインに加え、市内を走る東急バス臨港バス(川崎鶴見臨港バス)などの民間バスも含めて利用が可能。東急電鉄やJRなどの民間鉄道会社は対象外です。

敬老パスでは市営地下鉄と市営バス、市が運営に関与する「シーサイドライン」に加え、横浜市内を走るほとんどの民間バスで使える。また市内で乗車または降車する場合は市外区間も利用が可能だという(横浜市「敬老パス」などに関するFAQより)

高齢者の外出を促すことで社会参加や健康維持につなげてもらおうという趣旨で、横浜市では今から半世紀前の1974(昭和49)年に設定。当初は対象年齢になると全員に無償で交付されていましたが、2002(平成14)年以降は希望者のみの交付とし、その後は交付時に一定の負担金を徴収する形に変更されました。

2024年現在の負担金は個人の所得状況によって異なり、最小では年間3200円最大だと年間2万500円を支払うことで1年間有効の敬老パスが交付される仕組みです。障害者手帳を持つ場合などは負担金が徴収されません。

敬老パスの交付を受けるには所得に応じて年間3200円から2万500円までの負担金が必要となるが、たとえ年間2万500円を支払ったとしても、市営バス(1回220円)に年間93回以上乗るか、または地下鉄1区間(片道210円、日吉~高田間、新横浜~新羽間など)に年間97回以上乗るなら安くなる計算。なお、使用目的に制限はないため「通勤」で使っても問題はないという(横浜市健康福祉局の敬老パス案内ページより)

2021年までは「紙」の敬老パスを有人改札口やバス運転手に見せて使用する形でしたが、2022年以降は横浜市独自のICカードを導入し、専用の読み取り機にタッチして使用する形に変更。これにより利用回数などの集計が容易となっています。

健康福祉局がまとめた分析結果によると、18区別の敬老パス交付状況は、港南区の65.22%がもっとも高く、もっとも低かったのが瀬谷区の36.81%でした。

2023年9月末時点での市内18区別の交付率、太字となっている区には市営地下鉄の駅がある。港北区は東急東横線の沿線に人口が集中しているためか、地下鉄の駅がある区では交付率がもっとも低い(2024年5月30日横浜市会「健康福祉・医療委員会」資料「横浜市敬老特別乗車証に関する分析結果について」より)

港北区交付率は46.78%と区内に市営地下鉄の駅がある11区のなかではもっとも低く、市平均の交付率(51%)も下回っています。

交付率が一番低かった瀬谷区は区内に市営バス路線も市営地下鉄の駅もなく、次に低かった鶴見区(43.92%)は市営バス路線が相当数設けられているものの、区内に地下鉄の駅がありません。

港北区内の鉄道路線図、市営地下鉄では東京都心部へ直行できないという弱点がある(港北区「運輸・道路に関するデータ」より)

港北区内市営地下鉄の駅が7つ(新羽・北新横浜・新横浜・岸根公園と日吉・日吉本町・高田)あり、市営バスも新綱島や大倉山、菊名、妙蓮寺(菊名橋)、新羽、新横浜、岸根公園(篠原池)の各駅前や各駅近くを走る10以上の路線が設けられているにも関わらず、敬老パスの交付率が低いという結果になりました。

新羽はブルーラインの始発着列車が設けられている主要駅で、駅前には横浜市営と東急バスの複数路線が乗り入れている(資料写真、2022年)

グリーンラインの日吉駅は沿線各駅でもっとも乗降客数が多い(資料写真、2023年)

なお、高齢者を対象とした敬老パスのような制度は、東京都の「シルバーパス」や、川崎市の「高齢者フリーパス」など公営交通を運行している自治体を中心に設定されており、神奈川県内では横須賀市が京急バスを対象とした「はつらつシニアパス」を独自に設けているほかは、他の市や町には存在していません。

公営交通機関運営できるだけの規模を持つ自治体ならではの住民向けサービスとして高齢者から歓迎されるうえ、自治体が公費で一定数の客を送り込むことになるため、市営や都営を中心とした交通機関の経営を安定させる役割も担っていたと言われています。

港北区内でも平日昼間のバスは空いていることが多く、ほとんどの利用者が敬老パスを使っているようなシーンもみられる(イメージ)

ただ、50年前の制度開始時にはわずかだった高齢者の数もその後は右肩上がりで増え続けており、自治体側の負担額は年々増加。横浜市では2023年度だけで99億4400万円の市税を投入して敬老パスを維持している状況です。

また、横浜市では、交通事業者は市側から1人月15回ほどの利用を想定した助成金しか受け取っていないため、敬老パスによる乗車が増えれば増えるほど客単価が減少し、事業者側の負担も大きくなると指摘されています。

今後も高齢化が進むなかで税収の大きな増加は望めず、敬老パスの制度を維持するにも困難がともなうとみられており、港北区民や鶴見区民、青葉区民などのように“できるだけ頼らない”という姿勢も重要になってくるのかもしれません。

2023年12月に供用を開始した新綱島駅のバス乗場、市営バスや臨港バスは綱島駅からこちらに移動した(2024年4月撮影)

)この記事は「横浜日吉新聞」「新横浜新聞~しんよこ新聞」の共通記事です

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【参考リンク】

横浜市健康福祉局「敬老特別乗車証(敬老パス)」の案内(制度の仕組みなど)

横浜市「敬老パス」などに関するFAQ(健康福祉局高齢健康福祉課)


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