東急の「豪華電車」が日本の最北端へ、横浜~伊豆を走るロイヤルエクスプレス

横浜日吉新聞

【レポート】東急が横浜駅から伊豆方面へ向けて企画運行している豪華観光列車THE ROYAL EXPRESS(ザ・ロイヤルエクスプレス)」を北海道へ運び、最北端の稚内まで初めて運行するツアーの参加者募集がきょう(2023年)2月6日(月)から始まります。

伊豆高原駅に到着したロイヤルエクスプレスを歓迎する伊豆急行の関係者ら(2月1日)

ロイヤルエクスプレスは、東急グループ伊豆急行(伊東~伊豆急下田)などとともに伊豆観光の活性化を目的として2017(平成29)年7月から運行を開始した団体観光列車で、通常はJR東日本の線路を使って横浜駅と伊豆急行沿線の間で運行しています。

かつての寝台列車「ブル―トレイン」の雰囲気もあるロイヤルエクスプレスだが、ベッドや個室などの宿泊機能はなく、ツアーでは昼間に列車の旅を楽しみ、夜は著名ホテルなどに宿泊する形の行程となっている

著名シェフが監修した車内での食事やホテル、現地観光などをセットにした旅行ツアー用の「クルーズトレイン」となっており、片道乗車と食事だけのプランでも1人3万9000円(2023年3月・4月出発分、以下同)という旅行代金に設定され、宿泊や観光を合わせたプランは1人10万円台後半から20万円台という価格帯が目立ちます。

“豪華絢爛”な車内で生演奏も

ロイヤルエクスプレスは、1990年代から伊豆急行で運行されていた「アルファリゾート21」という観光列車を大改造したもので、車両は“豪華絢爛(けんらん)”という言葉で表せそうな車内に刷新され、伝統工芸やステンドグラスを随所に使用。

横浜駅から食事を楽しみながら伊豆へ移動できる

1両ごとにデザインが違い、既製品は使っていない。一つひとつ手間をかけてつくり上げられた車両」(東急株式会社の社会インフラ事業部・松田高広統括部長)となっているのが特徴です。

8両編成のうち1両を料理提供用の厨房(キッチンカー)として使い、イベントの開催も可能な「マルチカー」も1両設け、前面展望が可能なライブラリー(図書席)や子ども用「木のプール」なども設置。

最後尾には本が置かれたライブラリーコーナーもある

また、客席として使用する3両にはピアノを設置し、運行中の車内ではロイヤルエクスプレスのテーマ曲などがバイオリンとピアノの生演奏によって披露されます。

バイオリニスト・大迫淳英さんによる生演奏も披露され、音楽を通じて旅を彩る

計8両の車両をつないでいながら1回あたりの乗車定員は17組(1組あたり最大4人まで、2023年3月・4月出発分)までに絞っており、乗客がゆったりと車内を使えるような配慮も。

東急東横線・みなとみらい線横浜駅の南改札口へ向かうルート上には専用のラウンジも設置されている

出発駅となる横浜駅では、東急東横線・みなとみらい線南改札口へのルート上の南北連絡通路に「THE ROYAL LOUNGE(ザ・ロイヤルラウンジ)」と名付けられた旅行参加者用のラウンジも設けられています。

北海道まで運び異例の出張運行

首都圏から伊豆への“贅沢な旅”の舞台として使われてきたロイヤルエクスプレスに変化が現れたのは2020年のことでした。

ロイヤルエクスプレス北海道クルーズの2023年パンフレット。2020年夏から北海道でも運行を始めた

2018(平成30)年9月に発生した「胆振(いぶり)東部地震」(最大震度7)で低迷した北海道の観光を盛り上げようと夏場の北海道でも運行することを企画。

横浜から北海道までは青函トンネルを経由してレールこそつながっているものの、北海道内は大半の鉄道路線が電化されていないため、「電車」であるロイヤルエクスプレスを走らせるのは困難な環境です。

北海道の多くの路線では「電車」が走れないため、独自の電源車もつくられた。なお、電源車容量の関係で北海道内では5両に減らして運行される

それでもJR東日本やJR貨物、JR北海道の各社が協力して“電車”であるロイヤルエクスプレスを北海道まで運び、けん引用の専用ディーゼル機関車や電源車を仕立て、「日本で例のない、常識的には考えられない形」(東急・松田統括部長)で北海道での運行を実現させました。

新型コロナウイルス禍のなか2020年8月・9月に行われた計5回(定員計150人)の3泊4日のツアーは、1人68万円という価格ながら定員の8.2倍にあたる1232人からの応募があり、注目の高さを見せつけています。

ついに日本最北端へも乗り入れ

その後もロイヤルエクスプレスは夏場の北海道で運行されており、ツアーで訪れる路線や内容を拡充

これまでのツアーでは「道央(どうおう)」と呼ばれる札幌などが位置する北海道の中央部から、帯広や釧路、知床、網走などがある「道東」方面への運行が中心となっていましたが、4年目を迎える今年の夏は、初めて日本最北端の稚内を含めた道北へも乗り入れを決めています。

2023年夏の北海道クルーズでは初めて最北端の稚内が目的地に加わった。旅行代金は1人85万円からと高価だが、参加は抽選となる見通し(2023年パンフレットより)

稚内まで通じる「宗谷(そうや)本線」という路線は、山・川・草原・海とすべての要素が詰め込まれた車窓が広がることでも知られており、これまでのツアーでは味わえない風景を楽しむことができそう。

今年は7月下旬から9月下旬まで北海道内で3コース計9回のツアーが企画され、このうち稚内へ向かう「HOKKAIDO(ホッカイドウ)日本最北端の旅」(3泊4日)は9月に3回を設定。1人85万円からという料金で、1回あたり15組30人の参加者を4月17日まで募集し、抽選で販売するといいます。

北海道内で活躍する料理人が監修した地元食材を使った料理と地元産の飲料が提供される

初めてロイヤルエクスプレスのツアーが訪れることになる稚内市で企画総務部の主査をつとめる柴田憲一(のりかず)さんは、「我々としても大歓迎で、微力ではあるが精一杯協力していきたい」といい、同市観光協会で事務局長をつとめる岩木直人さんも「市と民間を挙げてロイヤルエクスプレスの到着をお待ちしたい」と期待を口にしました。

北海道のローカル線を助ける存在に

一方、北海道では胆振東部地震にともなう観光不振に続き、2020年春以降の新型コロナ禍も加わって鉄道路線の赤字幅が拡大しており、一部路線では廃止の方向も示されています。

稚内の郊外部を走る宗谷本線のローカル列車、運営は年々厳しくなっているという(2008年撮影)

景勝路線として知られる宗谷本線も例外ではなく、途中の名寄(なよろ)から稚内までの人口が少ない区間では、100円の収入を得るために1200円超(2021年度)の経費を要するなど、大きな赤字運営を強いられている状況です。

ロイヤルエクスプレスの車両デザインを担当したデザイナーの水戸岡鋭二さん(ドーンデザイン研究所主宰)は、「ローカル線が無くなるのではないかと言われているが、新しい観光列車で北海道を応援したい。日本一のクルーズトレインを北海道で完成させてほしい」と力を込めます。

ロイヤルエクスプレスをデザインしたデザイナーの水戸岡さん(右)と東急の松田統括部長(2月1日)

これまで九州のクルーズトレイン「ななつ星」など全国で観光列車のデザインを数多く担当してきた水戸岡さんは、地域が独自で豪華な観光列車を運行しようにもノウハウが不足して難しいことが多いと指摘。

「ロイヤルエクスプレスは(全国各地で運行する)実験を行っているようなもので、今は北海道を走っているが(線路さえつながっていれば)日本中に行ける。そうすることでローカル線が見直される可能性はある」といいます。

そのうえで、「今は厳しい環境だが日本のローカル線には価値がある。観光が進化して時代が変わってきたとき、海外から来る人が何を観たいかというと、日本の原風景や伝統的な文化や食、生活だ。新しいものを観たいわけではない。今のインバウンドみたいに多くの人が瞬間的に消費するのは大量生産・大量消費と同じで長続きしない」と語っていました。

旅行代金が高額なこともあり、ロイヤルエクスプレスを使ったツアー参加者の中心は70代から80代が多いというが、車内には子ども向けのスペースも設けられており、全年代が楽しめるようにつくられている

東急グループにとっても北海道は、実質的な創業者である五島慶太社長の時代から地元交通企業の買収やホテルなどの観光開発で力を注ぎ続けてきたエリアです。

現在では東急グループの企業や関わりが減ってはいるものの、ロイヤルエクスプレスという新たな形の観光列車を通じて、再び北海道の交通や観光振興に携わり、地元の期待を集めることになっています。

【関連記事】

半世紀ぶり制作中の「東急100年史」、2004年分まで社史を先行公開(2023年1月10日、東急グループと北海道に関する記述も目立つ)

<レポート>日本に現れた「世界的リゾート地」、日吉からの移住者を訪ねて(2020年2月13日、北海道の著名リゾート地のニセコにも古くから東急グループが進出)

【参考リンク】

THE ROYAL EXPRESS(ザ・ロイヤルエクスプレス)の公式サイト(東急株式会社)

THE ROYAL EXPRESS「北海道クルーズトレイン」(2023年7月~9月出発)


カテゴリ別記事一覧