<コラム>“お金のない横浜市”が「カジノ」で多額の税収増なるか

横浜日吉新聞

【コラム】横浜市には「お金がない」ということを広く知らしめる機会となったことは確かです。市が「カジノ」を含んだ統合型リゾートIR(アイ・アール=Integrated Resort=インテグレーテッド・リゾート)」を中区の山下埠頭へ誘致する方針を決め、今月(2019年)8月22日に公表したことで、全国的な話題となっています。

横浜市が8月22日に公表した最新資料「IRの実現に向けて」(市政策局のニュースリリースより)

ギャンブルや賭博(とばく)といったイメージが付きまとい、反対の声も根強く残るカジノを含めたIRを横浜中心部へ誘致することに、どんなメリットがあるのでしょうか。

今後、林文子市長本人が自ら出向いて行うという港北区など市内18区での説明会を前に、市長の発言を中心にIR誘致の考え方をまとめました。

IRだけで法人税収入の倍以上が手にできる?

「(市長になる前は民間企業を経営していた身でもあるので)お金がないということは言いたくないが、今回は前向きに言っていきたい

8月22日に行われた会見では、約1時間30分にわたって20人近くの記者らから幾つもの質問を受け、最後は少し苛立(いらだ)ちながらもIR誘致の意義を話し続けた林市長。

最新資料「IRの実現に向けて」ではIR誘致のメリットが強調されている(同資料より)

会見と同時に市が公表した「IRの実現に向けて」と題した最新資料や、これまでに中区や都筑区など市内4カ所で行った説明会で示されたスライド資料には、横浜市が抱える課題に対し、IRの誘致がいかに有益に働くかということが強調されています。

そこから見えてくるIR誘致における最大のメリットは、横浜市(地方自治体)が得られる大きな収入です。

最新の資料では、IRによる納付金や入場料収入、さらには法人市民税や固定資産税、都市計画税によって年間820億円から1200億円の増収効果が期待できると試算されています。

この年間820億円から1200億円という金額は、横浜市が1年間に企業から得られる法人市民税(570億円=2017年度決算)をはるかに上回る数字です。

必死に企業を誘致しても大阪や名古屋以下

市長自らがトップセールスをかけ、みなとみらいを中心とした横浜市内に企業を誘致した結果が法人市民税で得られる570億円という金額。

横浜市の法人市民税収入は、東京23区には遠く及ばず、人口規模が小さい大阪市や名古屋よりも低い(2019年6月の説明会における横浜市政策局資料より)

横浜市の資料によると、この570億円という法人市民税収入は、大阪市の1311億円(2017年度決算)はもとより、名古屋市の644億円(同)よりも低い数字です。

「恥ずかしいが、限界がある」と林市長が会見で漏らしたように、法人からの税収だけで見ると、横浜市は日本一の人口規模(373万人超=2019年2月現在)を持つ大都市としては低い状況。東京23区の規模には遠く及びません。

同じ政令指定都市で人口規模2位の大阪市(人口272万人超=同)や、同3位の名古屋市(人口232万人超=同)に及ばないだけでなく、2018年度に449億円超の法人税収入を得ている人口規模5位の福岡市(人口158万人超=同)も迫っています。

横浜市の市税収入自体は、4割を占める「個人市民税」が支えているため、減っているわけではありませんが、「ベッドタウンとして発展してきたので、個人市民税に頼っており、バランスが悪い」(林市長)。

横浜市の税収自体は減っていないが、個人市民税が4割を占めており、超高齢化社会の進展で増加が見込まれないことが懸念材料となっている(2019年6月の説明会における横浜市政策局資料より)

個人市民税に頼ることへの懸念は、超高齢化社会を迎えるなかで、今後の税収増は望めず、逆に医療や介護に使われる費用は増えることが予想されること。

これに加え、年平均額で約900億円かかるという老朽化した公共施設の建て替え期限も迫っており、市の定期的な“出費”は増える一方というのが市の説明です。

「個人市民税に頼るだけではなく、多様な財源を確保する必要がある」(説明会資料)との考えから、有力な財源確保策の一つとしてIRの誘致を行う、というわけです。

横浜市のIR誘致調査には12社が協力し、社名を公開したなかでは外資系企業が目立つ(2019年6月の説明会における横浜市政策局資料より)

IRは市の財源確保に寄与するだけでなく、市の資料によると、運営時には年間6300億円から1兆円の経済波及効果があり、さらには年間7万7000人から12万7000人の雇用を生み出すとしています。

ただし、経済効果や収入予想は、「事業者から提供された数値を基に、委託先の監査法人が整理」(最新資料)したというもの。

現時点で参入を検討する12の運営事業者が提示した数値であり、日本ではIR運営実績がない状態のため、将来的にどう転ぶかはわかりません。

「一生“白紙”でなければならないのか」

港湾事業者はリゾート開発自体を否定しておらず、カジノが「ギャンブル施設」であるとして問題視している(2017年11月、山下埠頭入口で)

「日本型IRは世界で見ても最大に厳しい規制だ。大丈夫だと確信にいたった」

横浜市民の皆様にも楽しんでいただける統合リゾートになる」

「IRを知らない人が多い。18区全部をまわって丁寧に説明していきたい」

カジノを含んだIR誘致に懸念を持つ声に対し、会見では理解を求める言葉を繰り返した林市長。

山下埠頭の土地は横浜市や国が98%を所有しているという(写真は山下埠頭のイメージ)

IRの誘致先となる山下埠頭で、港湾事業者がカジノ誘致に反対の姿勢を示していることに対しては、同埠頭の土地は市と国が98%を所有しているためか、「一つの考え方として受け止める」(市長)と冷静を装います。

一方、2年前の市長選挙では「白紙」として、カジノ誘致の賛否には踏み込まず、カジノ反対を掲げる2人の候補を大差で破った林市長。

“白紙”から誘致へと舵を切った理由を記者会見で幾度も問われ、「(その時点で)決められないということで白紙だった。批判を浴びると思うが、(有権者を)裏切ったという気持ちはない」などと説明し、「一生『白紙』でいなければならないのか」と苛立ちも。

横浜商工会議所はIR誘致を歓迎する姿勢。写真は2019年3月に日産スタジアムで行われた東京2020五輪の関連イベントで顔を揃えた同会議所の上野孝会頭(右)と林市長

また、IR誘致に反対の声が目立つなかで、「賛成の方もすごく多く、経済界の期待も高い」との認識を示します。

ただ、林市長が実施を否定する「住民投票」でも行わない限り、2年後の市長選挙まで市民が賛否を表明できる機会がないのも事実。

2020年代(2020~2029年)後半と想定するIR開業に向けて、9月に始まる市会から本格的な検討や準備を行う必要があるため、次の選挙で賛否が示される前に、後戻りができない状況になっている可能性もあります。

リスク伴うカジノに“賭ける”価値はあるか

中学校給食の実施や図書館の拡充など、何かにつけ「お金がない」ことをできない理由としてきた横浜市。将来への財政不安から、確実性が見えづらい税収を狙って“賭け”ともいえる政策に乗り出そうとしています。

IRはカジノだけではなく、展示場やホテルなどざまざまな施設が設けられるが、その収益は敷地面積で3%ほどのカジノが支える構図になっているという(市政策局の資料「IRの実現に向けて」より)

IRは統合型リゾートと呼ばれるように、ホテルや国際会議場などのMICEマイス=会議・研修・招待旅行・学会・展示会などの総称)施設が多くを占め、カジノはわずか3%ほどの面積にとどまるといいます。

一方で、カジノの収益がなければIRの運営自体が難しいことは会見でも市側が明かしており、IRというなじみの薄い言葉で覆い隠しても、実態はカジノが統合型リゾートを支える収益構造といえます。

横浜全体のイメージを悪化させたり、ギャンブル依存症者を増やしたりする懸念もあるカジノという“高リスク施設”を「年額820億円から1200億円増収」という試算を信じて受け入れる価値はどの程度あるのか。事業者がカジノ運営に失敗したらどうするのか。治安や依存症対策などの費用は誰が支払うのか。そもそも、市の負担が増える可能性はないと言えるのか――。

現時点の公開資料や市の説明からは、IRのメリットのみが強調され、マイナス面や誘致リスクへの対策に関する記述がほとんどなく、市民の理解が深まるのかは疑問です。

賛否を総合的に判断できるよう、市はさらなる説明と情報公開を行うとともに、市長にはIRを誘致することで、市民がどう幸せになれるのかの将来像を具体的に示すことが求められます。

【関連記事】

東京と違って常に盛り上がらぬ「横浜市長選」、無関心な市民だけが悪いのか?(2017年7月8日、2年前の市長選挙記事、下部に過去のカジノに対する市長の発言も)

イメージだけで実は魅力的じゃない横浜市、週刊「プレイボーイ」が特集(新横浜新聞~しんよこ新聞、2017年8月23日、カジノは市のイメージさえ悪化させる懸念も)

【参考リンク】

「IRの実現に向けて」について(横浜市政策局、2019年8月22日、最新資料を公開)

IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくりの検討(横浜市政策局、これまでの検討資料を公開)

山下ふ頭の再開発(横浜市港湾局)


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