<連載コラム>良くも悪くも注目集める「横浜市」、山中新市長が始動 | 横浜日吉新聞

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コラム:横浜ウオッチ

【連載コラム:横浜ウオッチ(第2回)】先月(2021年)8月30日に新市長を迎えた横浜市。この2週間ほどの間に初の記者会見が行われ、先週9月10日(金)には市議会も始まり、少しずつ市政での新たな考え方や方向性が示されつつある一方、発言や政策などさまざまな面で新市長が“追及”も受け始めています。前回に続き、港北区民の目線から“ヨコハマの動向”を区内在住の田山勇一ライターがコラム形式で連載します。

ここまで注目を集める理由と背景

コラム:横浜ウオッチ横浜市がここまで注目されるのは、いつ以来なのだろうかと思う。

2年前(2019年)の8月、当時の林文子市長がカジノを含んだ統合型リゾート「IR」の誘致を決めて以降、大きな動きとなった反対運動と、予想さえできなかった新型コロナウイルス感染症という大災害を経て、候補者8人が乱立した先月の市長選挙を制し「IR反対」「コロナ専門家」の市長が誕生し、ついに横浜市役所へ乗り込んでいった――、というのがこれまでの“あらすじ”だ。

出勤初日の8月30日(月)に記者会見を行った山中市長(市の中継映像より)

先月8月22日に当選が決まり、4万4000人超の職員が働く横浜市役所へ山中竹春新市長が初めて“出勤”(役所用語では「登庁」という)したのが8月30日(月)。その日のうちに開かれた「記者会見」では記者やジャーナリストから色々と追及され、先週10日(金)に開始した「市議会」(正式名は「横浜市会」という)では、方針発表と市議らによる応援・追及(?)が始まっており、市長にとって超多忙な日々が続いている。

山中市政の動向は、IR誘致表明以前には横浜市の動向など見向きもしなかった大手マスコミや有名雑誌とジャーナリスト、インターネット媒体と幅広いメディアから高い注目を集めており、山中市長が動きを見せると「横浜市」というキーワードが浮上する状態だ。

山中新市長による横浜市政が注目を浴びるのは、以下のような背景がある。

  • 国が主導し、前横浜市長らが賛同した「IR・カジノ誘致」という政策に横浜市民から反対の意思が選挙で示されたこと
  • 今回の市長選が横浜市選出の菅義偉(すがよしひで)内閣総理大臣の行方を左右したこと(退陣決意の引き金となった)
  • 横浜市が長年続けてきた「市立中学校では全員給食を実施しない」という方針や、「みなとみらいに新たなオペラ劇場を建設する」という新たな政策に反対する立場の市長が誕生したこと

また、山中市長ならではの次のような課題や不透明感も存在する。

  • 市議会で少数議席しか持たない立憲民主党系や日本共産党が応援する市長が誕生したことによる政策実現に困難が伴う懸念(議会対策面)
  • 山中市長(候補)が訴えてきた「データ重視の対策」「24時間体制のワクチン接種」といった新型コロナ対策の妥当性と実現性(主に市の体制面)
  • 山中市長(候補)が訴えてきた「敬老パスの自己負担ゼロ」「中学卒業まで所得制限のない医療費補助」といった“ゼロ政策”や「全員喫食の市立中学校給食の実施」などの妥当性と実現性(主に市の財政面)
  • 政治や行政の分野での未経験者であるというハンディキャップ(市長の能力面)
  • 海外留学時の役職など不透明な部分が残る経歴、前職での「パワハラ」発言疑惑など市長本人の資質に関する疑問や疑念(市長個人の資質面)

現在は、良い意味でも悪い意味でも注目を浴びるだけの「材料」が満載といえる状況だ。

筆者個人的には、どんな形であれ、選挙の投票率が上がり、その後も注目を集めているのは望ましい傾向ではないかと思える。多くの市民やメディアが注視することで、行政も議会も税金を使う際に少しは幅広い市民の動向を気にするようになるはずだからだ。

IR・新劇場を中止、全員給食は推進

山中市長が市役所に出勤してから土・日曜日を除き10日間(9月10日時点)が経った。この間の成果と言えるのは「IR誘致撤回」を宣言し、「新たな劇場計画の中止」と「中学校給食の全員実施」(現在、横浜市立の中学校では「ハマ弁」という名の選択給食制)という方針を明確に示したことだろう。

“新たな劇場”は横浜駅東口や新高島駅に近い「横浜アンパンマンこどもミュージアム」の隣接地に作る計画として議論が進んでいた(2021年7月27日「第4回横浜市新たな劇場整備検討委員会 基本計画検討部会」の資料より)

ただ、これは市長が方針を“宣言”しただけに過ぎず、最終決定は、IR誘致や新たな劇場計画の「予算執行停止」や「全員給食実施のための新たな予算」といった議案をつくって議会にはかり、多数決による議決が必要となっている。

市長選の直前までIR誘致を進めてきた多数派の自民党と公明党が「選挙結果とか関係ない、やはりIRは必要なので予算執行停止には反対だ」となれば、IR誘致を止めることは難しい。IR推進だったのが選挙前になると急にIR取り止め方針に変わったのだから、“IR取り止めは取り止める”という再変更があっても不思議ではない(市民の頭の中が混乱しそうだが)。

このほかの政策や考え方について山中市長は、ほとんどが「これから具体案を検討」、または明確な回答を行っていない(行わない)という状態。まだ、勤務から10日が経ったばかりなのでやむを得ない面はあるが、記者会見や議会の場ではとにかく「安全運転」につとめているように見える。

勤務10日で市議会に挑んだ新市長

そんな山中市長が勤務10日目(土日は除く)に臨むことになったのが「横浜市議会(市会)」だ。現時点で計43件の議案を審議(議論)することになっている。

今議会が始まる直前の9月6日に金沢区選出の超ベテラン議員・小幡正雄氏(78歳、当選11回、無所属)が亡くなり、10日の本会議は追悼演説と黙祷で始まった。同氏は市長選で山中氏支持を表明していた(横浜市会の中継映像より)

この43件の議案は、市営住宅の家賃を払わない住民がいるので裁判に訴えたとか、市の職員が事故を起こしたので損害賠償金を払ったとか、日吉本町地域ケアプラザなどの指定管理者が決まったとか、横浜美術館改修の工事契約を行ったとか、建築や屋外広告に関する条例を一部変更するとか……市長が誰であれ役所内で粛々と手続きが行われてきた内容が多く、賛否が分かれるような議案はあまり見当たらない(市議会で審議される議案の大半はこうした内容だ)。

そんななかで大きな議題といえるのが、新型コロナウイルス対策として組まれた総額390億2900万円の「補正予算」案で、このうち292億円はワクチン接種に使い、33億円はPCR検査・抗原検査などの検査体制強化に充てる、などとなっている。

本来、このコロナ対策補正予算に新市長の独自策を盛り込みたいところだが、今回の予算案は前市長時代に決められていたもので、まだ10日しか勤務していない山中市長は予算案の策定に関われなかったという。

それでも市のトップである以上、議案に対する議会質問には答弁を行わねばならないので、あらかじめ役所側が用意した「紙」を淡々と読むしかないことになる。「色々質問されても、自分が作ったわけでも関わったわけでもないので詳しくは知らん」という思いになっているかもしれない。

中学生に満足してもらえる給食に

横浜市会の議席図、1人が市長選出馬で辞任、1人が死去したので現在は84人の議員がいる。「自民党・無所属の会」が最大会派となっている。また当選回数が多いほど後方の座席となる(横浜市会の中継ページ資料より)

先週9月10日(金)の市議会本会議は、山中市長が初となる「所信表明」を行い、それに対して各党が議案への「質問」という形で初めて反応を示す場となった。

本会議での所信表明や質問は、市長を始めとした市側も政治家側もあらかじめ用意した「紙」をほぼ読むだけなので、一般人の感覚では退屈極まりない“儀式”なのだが、市民に公開された場で市長や市当局が方針や考え方を述べ、市民の代表者である議員と議論し、86人(現在は84人)の議員が最終決定を行うという重要な場だ。

山中市長が市議会で表明した所信は次のような内容だった。

山中竹春市長の所信表明(要旨)

緊張の面持ちで初の所信表明に臨む山中市長(横浜市会の中継映像より)

  • 私は、先の市長選挙で多くの皆様のご支持をいただき、第33代横浜市長として、市政をお預かりすることとなりました。
  • 市民の皆様に「住み続けたい」と思っていただける横浜市を創っていく、そして、事業者の皆様から選ばれる横浜市を創っていく。その決意を、今、新たにしています。市民の皆様のご期待に沿えるよう、(力を込めて)誠心誠意、全力で市政運営に邁進してまいります。
  • 私はデータサイエンスにより、これまで、新型コロナウイルス領域をはじめとする様々な課題の解決に取り組んできました。その経験や専門性を生かし、横浜市が直面する様々な課題に対して、より実効性の高い政策を展開できる、そう確信しています。
  • データは数字の羅列ではなく、人々の暮らしの実態を客観的に映し出し、次の一歩を踏み出す基盤となります。現場の声をお聞きし、分析したうえで、根拠に基づいた政策決定を行う。この積み重ねにより、市民の皆様に、誠実で、信頼される市政を実現していきます。
  • 多くの市民の皆様から繰り返し聞こえてくるのは、IR誘致に反対する声です。
  • 私は、その声にしっかりとお応えし、IR誘致の撤回を、ここに宣言いたします。事業者選定のプロセスを直ちに中止し、必要な手続きを速やかに進めてまいります。10月1日には、IR推進室を廃止します。(拍手)
  • 8月には横浜でも過去最多の新規感染者数となりました。新型コロナウイルス感染症による病床使用率や救急搬送件数は高い水準となり、横浜市の医療は深刻な状況を迎えています。
  • 自宅療養中で不安に思われている方、若年層をはじめワクチン接種の時期に目途が立っていない方、入院中で御家族との面会がかなわない方、お子さんの教育が不安な保護者の皆様など、コロナ禍で困っている市民の皆様に寄り添わなければなりません。
  • 私は、データサイエンス、医学の知見、医療関係者とのネットワーク、これらを最大限生かし、感染拡大の防止と一日も早い収束に向けて、全力を尽くしてまいります。
  • 基本となるのは、ワクチンの接種、検査体制の拡充、医療提供体制の確保です。
  • 横浜市では、2回目のワクチン接種を終えた人の割合は、9月7日時点で約45%に留まっています。希望される方が一日でも早く、接種していただける環境を整えます。また、これまで十分とは言えなかったワクチン接種に関するデータの開示を、積極的に進めていきます。検査については、必要な人が必要な時に受けられる環境を充実してまいります。
  • 誰もが自分らしさを発揮し、いきいきと安心して暮らすことができる街、それが私の目指す、横浜の姿です。
  • 今後、生産年齢人口の減少や社会保障経費の増加が見込まれる中、持続可能な街を実現していくためには、医療費の抑制や子育て世代の転入、出生率の向上につながる施策が必要です。
  • そのために「敬老パス自己負担ゼロ」、「子どもの医療費ゼロ」、「出産費用ゼロ」の3つのゼロの実現を目指します。子育て、医療、介護、福祉の施策を、これまで以上に充実させ、「子育てしやすい街」、「健康長寿の街」を実現していきます。
  • 未来を担う子どもたちの教育の質も高めていきます。家庭の経済状況による教育格差の解消、英語教育の充実、子ども一人ひとりの習熟度に合わせて学べる教育環境の整備などを推し進めていきます。
  • 「横浜の公立中学校で、全員が給食を食べられるようにしてほしい」、そのお声を何度もお聞きしました。中学生に満足してもらえる給食を提供する。その目標を達成するために、中学校給食の全員実施に向けて、取組を進めてまいります。(拍手)
  • 人口減少・超高齢社会において、次世代に過度な負担を先送りしない、持続可能でバランスの取れた財政運営が求められます。複雑化する社会課題や多様化する市民ニーズを捉えて、より効果的な政策・施策にシフトしていかなければなりません。
  • これまで進めてきた「新たな劇場」整備の検討中止など、市民の皆様、市会の皆様のご理解とご協力をいただきながら、あらゆる事業をしっかりと見直してまいります。

初の所信表明では、政策実現への具体性な道筋をまだ十分に提示できていないものの、これから始まる市政に対する一定の方向性を議会に示したといえるのではないだろうか。

最大会派・自民は市長に“先制パンチ”

IRの誘致撤回やデータ分析など方針を掲げて議会へ乗り込んできた山中市長に対し、議会で最多の数(36人)を誇る「自民党・無所属の会」は、当選3回の中堅ながら山中市長(48歳)より年下の若手議員磯部圭太氏(40歳)を発言者として起用。以下のような“先制パンチ”を浴びせた。

)各会派の発言内容は、各議案に対する要望や質問を割愛して紹介した。「期」は当選回数

自民党・無所属の会(36人/84人中)の発言要旨

  • 発言者:磯部圭太氏(保土ケ谷区選出、3期、40歳)
  • 質問に先だって一言(いちごん)申し上げます。市長、まずはご当選・ご就任おめでとうございます(市長側に向かって、深く頭を下げる)。
  • 50万6392票、50万票を超える得票を得て当選されたことは大変な重みがあると、我が会派も認識しております。反面、市長以外の7候補に投じられた票の合計は100万1162票、市長の得票の2倍の100万票あることも事実です。
  • そして、本市の人口は直近で377万8000人を超えております。申し上げるまでもありませんが、日本一の基礎自治体・横浜市のリーダーとしての自覚と重さを、(力を入れて)十分、認識されたうえで覚悟と責任を持って市政運営に当たられるようお願いいたします。
  • なお、今必要なのは「反市長」「親市長」などのいわゆる対立や政局ではなく、市民の皆様のためにどうすれば最善を尽くせるのか、市長と議会が対峙するだけでなく、時には手を取り合って、「是々非々」で臨む姿勢を見せること、しっかり結果を残していくことであります。
  • 市長の任期は4年間です。4年間で実現すればよい政策、今すぐにやらねばならぬ政策など、幅広くあります。
  • われわれは無下に市長を追及したり、反対するといったことはいたしません。必要があるときは是々非々の姿勢でとことん議論し、賛同ができない時は否の意思表示をいたします。片や市長の姿勢や政策に賛同できるときは、是の意思表示をいたします。
  • 現在、84名いる市会議員のほうが就任したての山中市長より圧倒的に横浜市政のほうを熟知しているでしょうし、市長はこれから議会の場で、その横浜市会議員を相手に論戦を交わしていくこいとになります。
  • 市長はコロナ専門家という打ち出しで当選されました。コロナを無くしてほしい、コロナ対策なんとかしてほしい、10人いたら10通りの意見や要望があると思います。
  • 山中市長を支援しなかったわれわれの元にさえ、山中新市長の手腕に期待する声が驚くくらい寄せられております。それだけ市長の手腕に期待する横浜市民は多いということです。しかも待ったなしです。
  • しかしながら、申し上げるまでもありませんが、市政はコロナだけではないということもお伝えしておきます。さまざまな分野に精通し、何よりも判断力、リーダーシップが求められるのが市長であります。
  • 外部から好き勝手なことを言うのは簡単ですが、執行者、実行する側の苦労はこれから感じるでしょうし、何よりも責任が伴います。
  • あらためて申し上げますが、日本一の基礎自治体・横浜市のリーダーとしての自覚と重さを(力を入れて)十分認識されたうえで、覚悟と責任を持って市政運営に当たられるようお願いいたします。
  • 大変な時期の市長交代となり、山中市長のご苦労もお察し申し上げますが、市政に停滞は許されません。新人市長であろうがなかろうが横浜市のリーダーでありますので、本日は粛々と質問をしてまいります。
  • (再質問時の発言)市長も議員も市民の皆様から選ばれた二元代表制の一員ですので、対立はできるだけ避け、市民に選ばれた市長をお支えしたいと考えておりますが、われわれは市長の掲げられた公約、これまでのご発言に対しては疑念を抱いております。

本会議での質問なので言葉づかいこそ丁寧だが、皮肉や警告らしき内容を盛り込みながら、“山中市長の誕生は面白くない”という雰囲気をそこかしこに漂わせている質問だった。(選挙で敗れたのだから、面白いわけがないのは当然といえる)

そして、「是々非々(ぜぜひひ)」という言葉もどこか恐ろしい。“良いことは良い、悪いことは悪いと判断する”というような意味だが、政治業界で最大会派が使うと“(自分たちに都合が悪ければ)いつでも反対するぞ、分かってるだろうな”と凄んでいるようにも見えてくる。

果たして横浜市議会の自民党にとって、何が「是」で「非」なのか。市民には分かりづらいが、これから少しずつ見せていくことになるのだろう。

諭すかのように質問した公明党

一方、自民党とともに前市長を支える立場だった公明党(16人)からは、会派の副団長で、港北区選出の中堅議員・望月康弘氏が登壇。質問時間が短いという制限からか、新市長に対するコメントは少なめで、議案に対する質問が中心だった。

公明党(16人/84人中)の発言要旨

  • 発言者:望月康弘氏(港北区選出、4期、会派副団長、60歳)
  • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大第5波の大変なさなかに市長選が行われ、市長交代となりました。山中市長にはまず、コロナ対策のさらなる取り組み推進を期待しておりますが、378万人の市民を抱える横浜の市政に停滞は許されません。市民の安心安全のため、福祉の向上のため、行政の長として真摯に市政全般に取り組まれることをお願いを申し上げます。
  • 市長は、市長選において横浜市が医療崩壊をすると訴えておられたと認識しております。本市が医療崩壊をしているのかどうかの認識について伺います。
  • 横浜市では昨年2月の「ダイヤモンド・プリンセス号」の対応以来、何度となく感染拡大の波が押し寄せているなか、これまでも重傷・中等症病床の確保や拡充、「Y-CERT(ワイ・サート)」による入院の転院や調整、今回の入院受け入れ奨励事業など医療提供体制の確保に向け、さまざまな対策が講じられてきたと考えております。
  • 特に病床の確保に当たっては市内の医療機関に協力を求め、感染者数の拡大に合わせて順次病床を拡大し、確保した病床のなかでしっかりと入院が必要な患者を受け入れてきたというデータもあります。
  • 私はこれらの対策が講じられてきたなかで、医療崩壊という言葉は適切ではないと考えます。この言葉には市民を不安にさせる力があり、横浜市の首長(くびちょう)になろうという方が口にすべき言葉ではなかったと思います。(議場からそうだ、との発声)

今は海の物とも山の物ともつかない山中市長に対し、諭(さと)すかのように注文を付けたり、問いただしていたりしたのが印象的で、まずは“様子見”といった雰囲気だった。

ただ、自民党とともに再質問(一度質問し、答弁内容が不十分だった際に再び質問すること=野党的な立場の会派がよく行う)を行っていたところから見ると、現時点では市長を支える立場という訳ではなさそうだ

立憲会派は市長への“アシスト質問”

議会の第二会派(20人)ながら、山中市長を支える与党となったのが立憲民主党系(18人)と国民民主党(2人)の議員で結成された会派「立憲・国民フォーラム」。市長と同年代の市議藤井芳明氏(47歳)を質問者に起用した。

立憲・国民フォーラム(20人/84人中)の発言要旨

  • 発言者:藤井芳明氏(都筑区選出、1期、47歳)
  • 力強く市長の思いが詰まった所信を述べられた山中市長に、私たち立憲民主党・国民フォーラム横浜市会議員団一同からお祝いの言葉とともに、これから任期4年間の市政運営に熱いエールを送りたいと思います(市長に向かって一礼)。
  • 山中市長はコロナとカジノから横浜を守ることを挙げ、横浜新時代を作る、その思いがもっとも多くの横浜市民から信任を受けて当選されました。初登庁の際、市民を幸せにするという目標に向かって誠心誠意努力していきたい、また一人ひとりが互いを支えあい、風通しの良い職場を作っていきたいと抱負を述べられました。幅広くすべての市民の皆様の期待に応えていただきたいと思います。
  • 成長期の中学生が栄養バランスの整った昼食をとることは、身体づくりの観点からも重要であり、また子育て世代の負担を少しでも軽減するための給食を導入することは意義あるものと考えております。
  • しかしながら、前市長や教育長からは、本市では小学校のような自校式や親子式、センター方式については、コストやスペースの問題で実施が困難と考えている、と今まで答弁されております。希望する生徒に確実に給食が届くように、自校式、親子式、センター方式、さまざまな観点から検討を進めていただきたいと思います。
  • 先ほど、市長の所信演説のなかで、「IRの誘致の撤回をここに宣言いたします」とのお話に感慨深いものを感じて胸が熱くなりました。「今はコロナ対策に最優先し、取り組んでほしい」民意の表れだったと思います。
  • 今回の補正予算においては、IRの減額補正が含まれていません。
  • IR推進事業は当初は3億6000万であり、執行状況の資料を要求させていただきましたが、執行済みは2億8682万6000円となっており、約8割も執行している現状と分かり、差し引き7317万4000円については、IRの撤回にともない、今後の執行を止め、新型コロナ対策に振り充てるべきと考えております。
  • 同様に今回の補正額においては、新たな劇場の減額補正の議案も含まれておりません。
  • 新たな劇場計画に関する予算は3100万であり、執行状況の資料を要求させていただきましたが、執行済みが2184万3040円となっており、約7割が執行している状況です。差し引き915万6960円については市長の公約に挙げられていることから新たな劇場を中止し、まだ執行されていない予算については、有効に活用すべきと思います。

市長側(市当局側)からは言いづらい(公開しづらい)内容を質問に紛れ込ませて、公開することは与党会派の常套手法というべきか。(野党会派も追及材料としてたまに使うが)

今回は、前市長や教育長が自校調理やセンター調理方式に積極的ではない考えを示していたことや、IR誘致予算(3億6000万円)のうち約8割は前市長時代に使ってしまっていること、今回の議案策定に新市長が関わっていない点を、「質問」としてさりげなく明かしている。

現在は、議会の4分の1以下しか議席を持たないなかで市長与党となった。「数がすべて」という常識がある議会でどこまで山中市長を支えていくことができるのか。これから難しい課題に向き合うことになる。

共産党から「心より敬意」の言葉も

今回の市長選挙では、山中市長の誕生を側面から支えた日本共産党(9人)は、会派の副団長で、港北区選出の中堅議員・白井正子氏が登壇し、立憲・国民フォーラムと同様に、与党的な位置付けに見える質問を行った。

日本共産党(9人/84人中)

  • 発言者:白井正子氏(港北区選出、4期、会派副団長、62歳)
  • 今議会は山中竹春新市長が招集された最初の議会となります。市長は所信表明でカジノ・IR誘致について反対する声にしっかりと応え、撤回すると宣言されました。市民の熱い期待に応えた迅速な態度表明に市民とともに心より敬意を表すものです(山中市長側に向かって軽く頭を下げる)。
  • 山中市長誕生に向けて支援した日本共産党市議団は、市長の表明されたコロナ対策、3つのゼロとしての敬老パス自己負担ゼロ、子どもの医療費ゼロ、出産費用ゼロなど施策の実現に向け、市民のみなさんの期待に応えるよう建設的な政策論議につとめる決意です。
  • 新たに就任された山中市長は、市民に向けた公約において次のように述べられています。新型コロナウイルスとの戦いには、科学的なデータに基づく、正しい知識が不可欠です。専門家の意見を尊重せず、政治的な思惑を優先していては、コロナ禍を乗り越えることはできません、とありますから、多くの市民の思いと一致しています。
  • 今回、前市長が策定した議案を新市長が提出されたものです。提案者として決済していますが、山中市長の意向が反映した議案を策定するにはあまりにも時間が短かったためです。この議会日程の設定は問題であり、改善を図る必要があることを指摘して質問を終わります。

横浜市議会においても、舌鋒鋭く市当局を追及する質問を重ねてきた日本共産党が、今議会では冒頭から「(市長の決断に)心より敬意を表す」「建設的な政策論議につとめる決意」といった言葉を使うあたりに、現在の立場が見えてくる。

敬意を示す一方で、「敬老パス自己負担ゼロ、子どもの医療費ゼロ、出産費用ゼロ」という若干難しいかもしれない公約を取り上げることで、実現をあらためて念を押しているようにも見える。

現在は与党的な立場ではあるが、今後、少数与党である山中市政で、どこまで妥協できるのかも試されることになりそうだ。

今週9月16日(木)にも本会議

横浜市議会は、今週9月16日(木)10時から本会議が予定されており、再び各党から質問が行われ、市長がそれらに答えていくことになる。

横浜市議会(市会)は2014年からインターネットで生中継を行い、2営業日後の夕方から録画映像も閲覧できるようになっている(横浜市会の中継ページより)

次は議案だけでなく、市政全般に関する内容を取り上げることができる「一般質問」という位置付けのため、市長が選挙時に訴えてきた新型コロナ対策をはじめとした政策の実現性や、これまでの発言に対する認識を問われることもあるだろう。

山中市長が指摘したとされるように、横浜市は「医療崩壊」の危機にあり、「ワクチン接種が停滞している」という状況にあるのか無いのか。

この機会に山中市長の考え方に触れることに加え、新型コロナ対策などの面で、市会議員も含めた“市役所側”にいる人々の認識と、一般市民が感じている現状が同じなのか、あるいは違うのかを市議会のインターネット中継を通じて確かめてみてほしい。(田山勇一)

田山勇一(たやまゆういち):港北区在住のライター。全国の街歩き旅スポーツ観戦が趣味。2019年秋には日産スタジアム(横浜国際総合競技場)で行われた「ラグビーワールドカップ」の試合をレポート。コロナ禍でのサッカーJリーグや、アイスホッケーのレポート、無観客五輪の落胆報告記も。人生の一時期、政治の取材も経験したことから、今回の横浜市長選を取材

)この記事は「横浜日吉新聞」と「新横浜新聞~しんよこ新聞」の共通記事です

【関連記事】

<新コラム>住宅街のいち市民がウオッチ、巨大都市・横浜は本当に変わるのか?(連載第1回、2021年8月30日)

店じまいの様相「横浜IR」、市がIR情報ページやSNS消去、事業者は撤退表明(新横浜新聞~しんよこ新聞、2021年9月14日)リンク追記

【参考リンク】

8月30日「山中市長の初記者会見の内容」(テキスト)(横浜市政策局)

8月30日「山中市長の初記者会見の内容」(映像)(横浜市政策局)

横浜市会(市議会)の本会議録画映像(※会議のあった日の2営業日後の夕刻に公開するとしており、9月10日分はまだ未掲載)

横浜市会インターネット中継(次の本会議は9月16日開催)


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