【2018年6月時点の記事です】品川駅と名古屋駅をわずか40分間で結ぶ計画の「リニア中央新幹線」が2027年の完成に向けて首都圏でも工事が始まっています。全線の85%がトンネルで、川崎や横浜の両市内には駅が作られる予定もないため、どこを走るのかが見えづらいのですが、案外身近な場所を通り抜けるルートとなっています。
運営主体となるJR東海は、今年(2018年)5月にルート上にある川崎市内の4カ所と、世田谷区や大田区など都内5カ所で「大深度地下使用の認可申請に関する説明会」を開きました。
「大深度地下(大深度法)」とは、首都圏など3大都市圏で地表(地上)面から40メートル以下の深さの位置で行われる公共事業であれば、地上の土地を持つ人の許可がなくてもトンネルを掘ったり、使用したりすることができる制度。地下深い場所を使うため、騒音や振動など地上への影響が少ないとされています。
工事を行う側にとっては、審査手続きを踏めば、地上の土地所有者と交渉する必要がないため、「公共の利益となる事業を円滑に行える」(国交省)というメリットがあります。土地所有者の反発によってルートを変更したり、工事が遅れたりするようなことがないので、コスト縮減にもつながるとされています。
たとえば、日吉などの港北区周辺では、古くは妙蓮寺駅近くの仲手原などの地下を通る「東海道貨物線」や、近年では日吉駅近くでの「地下鉄グリーンライン」建設時に地上の土地所有者から大きな反発を浴び、裁判闘争にまでなったことで、建設計画に遅れが生じたことがありました。
また、新横浜駅周辺の篠原町では、「地下鉄ブルーライン」のトンネル建設時に地盤沈下被害が起きたり、最近では「首都高速道路きたせん」のトンネル工事にともない、菊名駅に近い鶴見区周辺でも地盤沈下の被害が起きています。これから港北区内でトンネルを掘る「相鉄・東急直通線」では、大倉山駅周辺の住宅街を中心に不安の声もあがっています。
地下に掘られるトンネルは地上からは見えませんが、その上部に住んでいる人にとっては、地盤沈下や騒音、振動などへの不安はもちろん、土地の価値低下を引き起こす可能性があるため、そう簡単には納得できない事情もあります。
そんな土地所有者と交渉することなく、一気に工事を進められるのが大深度地下で、今回のリニア中央新幹線も首都圏の住宅街の地下深くを一気に横切っていく計画としています。
高級住宅街の地下や東横線を一気に横切る
JR東海が開いた今回の説明会では、大深度地下を通過するトンネル位置の細かな地図が公開されています。
これによると、品川駅を出発したトンネルは西品川で横須賀線や東海道新幹線と交差し、東急大井町線の戸越銀座駅や荏原町駅、池上線の長原駅や洗足池駅の近くを通り、東急東横線や目黒線に向かって近づいてきます。
そして、高級住宅街として知られる田園調布2丁目や同3丁目を横切り、田園調布駅近くの多摩川駅寄りで東急東横線・目黒線と交差。多摩川を越えて川崎市中原区に入ります。
等々力陸上競技場や富士通川崎工場の地下深くを通過し、武蔵中原駅近くで南武線と交差。その後、高津区の千年や梶ヶ谷、宮前区の馬絹(まぎぬ)を経て、東急田園都市線や東名高速道路を越え、麻生区内を通って、町田市や相模原市へ向かっていきます。
計画で特徴的なのは、住宅密集地であろうとなかろうと、次駅となる相模原市へ向かって一気に真っ直ぐ進めていることで、いきなり地下にトンネルが掘られることになった田園調布駅近くの住民も驚いたのではないでしょうか。
住宅街だけでなく、既存鉄道との交差も多いため、地上での計画だったなら、完成まで何十年かかるかわかりません。
かつて東海道新幹線が日吉や綱島、大倉山などの街で建設された際は、高架橋の工事をはじめ、日吉や大倉山ではトンネルを掘る姿も見え、なにより“新しい横浜駅(新横浜駅)”が区内に設けられる計画だったため、周辺での期待も高まっていたでしょう。
ところが、リニア中央新幹線では、地下深くでの工事のため、建設工事が行われていることさえ気づかない人が大半かもしれません。品川駅の次駅は相模原市に設けられ、その間には緊急用の「非常口」くらいしかありません。
そして、土地の所有者に対して不安や、価値低下に対する懸念に加え、川崎市の中原区や高津区、宮前区、麻生区はただトンネルが通過していくだけで、区民へのメリットはあまりありません。
東海道新幹線の開通以来、東京と名古屋間で大幅なスピードアップが期待できるため、注目が高まる国家的なプロジェクトですが、駅も設けられず、地下深くで工事が行われることになる川崎や横浜の住民には、完成直前まで知られる機会は少なそうです。
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