今や当たり前のように街にある「防犯カメラ」。特定の地域や組織での設置はもはや何の違和感もなく見つけますが、たった2人の一般市民が「これを区内全域に付けられたら」と思うとしたら、それは実現するのでしょうか。
そんな全国でも稀だという「民間主導」での「公共の場」への防犯カメラ設置が、神奈川県で初めて、横浜市港北区新吉田にある2つの公園で行われました。
発起人は、不動産会社の経営も手掛ける畠山英治(えいじ)さん。株式会社ハマツーウェイ(新横浜1)の代表取締役会長を務めています。
治安の悪化はビジネスにもマイナス、経営者視点から防犯活動へ
港北警察によると、今から14年ほど前の2002年(平成14年)頃は、港北区内で、年間7600件余りもの犯罪(殺人、強盗、窃盗、詐欺、傷害、暴行等のいわゆる刑法犯)が発生する一方で、犯罪発生に占める検挙の割合、いわゆる検挙率は約17%にまで低迷するなど、近年で治安が最も悪化している状況となっていました。
この頃、畠山さんが不動産業の仕事で取り扱う物件でも空き巣が多発。物件の価値も下がってしまうことから、これをきっかけとして、同業者らと約10年前に「港北区宅建防犯協会」を設立。港北区の治安について警察署と協議する委員としても活動しており、以降も、全国各地で多発する子どもや女性の誘拐や連れ去り事件に心を痛めていたといいます。
「2020年にオリンピック・パラリンピックが開催される、この地域の治安をより良くしなくてはならない」と思い、区内に防犯カメラを設置することを思いついたと当時を振り返ります。
規制や行政のハードルを乗り越え、“絆”が生まれた活動の日々
畠山さんのこの想いに呼応したのが、この新吉田地域で電源装置などの製造を手掛ける会社を経営する篠沢秀夫さん。新吉田東3丁目に本社を置く株式会社シノザワで代表取締役を務めています。新吉田本町町内会で副会長も務める篠沢さんに、畠山さんが声をかけ、3年ほど前から具体的に防犯カメラを設置するための活動を開始。
「民間主導ということもあり、様々な規制やハードルがある中、法律や条例、行政のしくみなどを理解するのにも時間がかかりました。右も左もわからない状況の中、スタートしたんです」と篠沢さんは、今日に至るまでの苦労を語ります。
畠山さんと篠沢さんは、周りの地域の方々に少しずつ協力を仰いでいったといいます。港北防犯協会(大谷宗弘会長)や港北区役所、港北警察など、一つひとつの団体や組織、行政機関の理解や、企業からの協賛金といった具体的な支援も少しずつ得ながら、段階を踏んで周囲との“絆”を深めていったといいます。
県内初の快挙、地域連携モデル事業として「防犯カメラ」設置へ
そして、ついに昨年(2015年)8月、港北区内全域の防犯カメラの設置を促進するために組織した協議会「港北安心・安全コミュニティー創生協議会」を設立。さらには、この「民間主導」の初の防犯カメラの設置という“稀有”(けう)な活動が評価され、神奈川県からも補助事業として認定。「港北区防犯カメラ設置合同委員会」を発足させ、同11月に地域連携モデル事業としての支援を得ることとなりました。
今回の事例をはじめとして、“一般の民間人”である地域住民が、防犯に地域で取り組んできたことが功を奏したのか、「港北区内の犯罪の発生は、昨年(2015年)には年間約2500件となりました。犯罪発生件数のピークだった2002年(平成14年)と比べると、人口が約4万人も増加しているにもかかわらず、この13年間で犯罪はおおむね3分の1にまでに減少したんです。検挙率も約40%と2倍以上に向上。地域の皆さんと署員の連携プレーの賜物なんです」と、港北警察の陶山和美(すやまかずよし)署長。港北区の住民が、防犯対策や防犯活動への地道な努力を行っていることこそが、日々の防犯につながっていると語ります。
「防犯カメラ」に対する区民等の理解が深まり、その設置数が飛躍的に増加したことも、治安回復に大きな効果を発揮しているといい、行政や単体のコミュニティーにより設置することがなかなか難しい「公の場」、ましてや大規模でない身近な住宅街にある地域の「公園」に、今回「民間主導」で防犯カメラを設置した“発起人”畠山さん、篠沢さんに対し、その功績を称え、港北警察から感謝状が送られることになったのです。
園児らに囲まれ「防犯カメラ」を披露、“港北区じゅう”への設置を目指す
2人の“偉業”を祝福するかのように穏やかに晴れわたる(2016年12月)12日(月)13時より、第1号機となる防犯カメラが設置された新吉田第一公園(新吉田東6)にて行われた「防犯カメラ設置記念式典」では、約70名もの地域住民や来賓が参加。防犯カメラ披露のテープカットには、地元・新吉田の保育園・幼稚園児約30名も駆け付け、これを祝福。
「防犯カメラの設置はとてもうれしい。子どもを安心して遊ばせることもできます」との声も公園に来訪した地域住民からも聞かれました。
「民間主導」で生まれた防犯カメラを通じ得たものは、と篠沢さんに聞くと、「それは“絆”(きずな)です。民間人だった私たちが、公の場でのカメラ設置を実現していく過程で得られたのは、こういった“人と人とのつながり”。ぜひ、これからもこの輪を広げ、より安心・安全な街を実現すべく、港北区じゅうにカメラを設置できるよう、邁進(まいしん)していきます」と、畠山さん・篠沢さんは、より「安心・安全」に暮らせるコミュニティーの実現のための更なる“夢”を語ってくれました。
なお、設置されたカメラの維持・管理は、地元・新吉田の自治会・町内会が行っていくとのことで、新吉田連合町内会長の小林辰雄さんは、「パソコンをすぐ下に持っていけば画像も見れるなど、管理しやすいシステムで有事の際も迅速に対応できるので安心です」と、設置後の運用もしやすいシステムであることに歓迎の意を表します。
今回設置された1号機のほか、2号機は、同じ新吉田東地区にある新吉田町公園(新吉田東3)に設置されたとのことで、隣接してオーケーストア新吉田店もある場所柄、昼夜問わず犯罪抑止にも役立つことが期待されています。
【参考リンク】
・「防犯カメラ設置記念行事」の開催について(神奈川県記者発表資料)
・民間団体主導で防犯カメラ 横浜市港北区内の公園2カ所(神奈川新聞・カナロコサイト)
・港北区防犯カメラ設置合同委員会委員長を務める畠山英治さん(タウンニュース港北区版)
・地モトTV おかえり!KANAGAWA(ケーブルテレビ・イッツコム)※2016年12月27日(火)にこの日の模様を放映予定