かつて横浜市内にも“お台場”が存在していたことを広く伝える契機となりそうです。
公益社団法人神奈川台場地域活性化推進協会(神奈川区泉町)と神奈川区、横浜市都市整備局などは「神奈川台場」を分かりやすく伝えるための映像作品をはじめ、体験型VR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)やAR(拡張現実)技術を用いたスマートフォン向けガイドを新たに制作し、先月(2026年)5月26日から一般公開を始めました。
神奈川台場は神奈川区の東神奈川駅から歩いて15分ほど、かつて海上だった時代に存在していた“人工島”。横浜港を防衛する砲台場として幕末の武士・勝海舟(1823~1899年)が設計し、今から160年以上前の1860(万延元)年に完成しました。
巨大要塞(ようさい)のような雰囲気を持つ人工島でしたが、実際に戦闘で使われる機会はなく、儀礼上の祝砲を放つ施設として約40年間にわたって活用されたのち、1899(明治32)年に廃止。大正期になると鉄道用地などとして徐々に埋め立てられ、今は土の下に隠れてしまいました。

1932(昭和7)年に横浜市がまとめた「横浜市史稿 地理編」に掲載された「神奈川砲台(台場)」の写真、撮影年は不明だが埋め立てが始まった大正後期より古いとみられる。台場(本体)は約2万6000平方メートルと横浜スタジアムとほぼ同じくらいの広さを持っていた。両端には陸と接続する「取渡(とりわたり)り道」があり、プールのように見えるその真中は船溜まりとなっていた(「横浜市史稿 地理編」=国会図書館デジタルコレクションより)
横浜開港の歴史を伝える重要な史跡であることから、1990年代から神奈川区内を中心に台場跡の保存を目指す活動が始まり、その後には横浜商工会議所内の団体として組織化。2013(平成25)年には現在の神奈川台場地域活性化推進協会が財団法人として発足しています。
神奈川台場のスケール感を伝える
同協会の山本博士理事長は「神奈川台場の遺構を見ても、石積みの一部が少し露出しているだけでスケール感は伝わりづらく、3年ほど前から本格的にデジタルコンテンツで台場を復元しようと考えるようになった」といいます。

このほど完成したデジタルコンテンツを発表する山本理事長、手に持つ冊子「神奈川台場物語」は2018(平成30)年に1万冊を制作し、3年間にわたって神奈川区・西区・中区の小学6年生に配布してきたが、興味を持ってもらうためにはデジタルコンテンツのほうが適していると感じ、新たに制作を進めてきたという(5月26日、横浜市役所)
制作にあたっては横浜市の支援に加え、横浜商工会議所の所属企業から500万円以上の寄付を受け「まさに官民一体となって作り上げた」(山本理事長)形となりました。
このほど完成したのは12分ほどの映像作品「神奈川台場の記憶~横浜開港と未来への物語」と、高精細な3DのCG(コンピューターグラフィックス)を用いたデジタルコンテンツ「神奈川台場VR」、自身のスマートフォンを使って街歩きを楽しむ「神奈川台場ARスマホガイド」の3つです。
最大の見どころは高精細なCGで再現された神奈川台場で、これまでは明治期の古い白黒写真や絵図、地形図などから全貌を想像するしかありませんでしたが、CGにより当時は海が広がっていた周辺の様子を含めた全体像が見えるようになりました。
映像作品では神奈川台場の設計者でもある勝海舟をモデルとしたキャラクター「かいしゅう」くんが登場してCGによって描かれた台場内を案内するなど、小学生などへの学習時にも使えるような工夫がなされています。同作品はYouTube(ユーチューブ)でも公開され、誰もが見られるようになっています。
神奈川台場VR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)は、専用のノートパソコンやコントローラーを使って、歩くような目線で見てまわり、砲台では祝砲を放つこともできるようになっており、神奈川台場を舞台にしたロールプレイングゲームのような感覚。こちらは区内でのイベント時などに披露するとのことです。
神奈川台場AR(拡張現実)スマホガイドは、観光での活用を意識したコンテンツで、チラシなどからQRコードを読み取り、市内4カ所(神奈川台場公園、星野町公園、ぷかりさん橋、横浜ハンマーヘッド)のスポットに記されたキーワードを入力すると、ARによる映像体験ができるようになっています。
東京港区だけではない“お台場”
先月5月26日に横浜市役所で行われた発表会で神奈川区の鈴木茂久区長は、「子どもたちが横浜の歴史を学ぶツールの1つとして活用でき、横浜の歴史を身近に感じる貴重な機会」と述べ、「神奈川区は2027年に区制100周年を控えており、イベントでこうしたデジタルコンテンツを積極的に活用していきたい」と話します。
横浜商工会議所の小峰直副会頭は「横浜には明治以降の建造物は数多く残されているが、江戸時代の建造物・遺構はほとんど現存しておらず、(神奈川台場は)きわめて貴重な歴史遺産。後世に継いでいくべきもので、地域活性化にも大きく寄与する」と述べました。

横浜市ふるさと歴史財団の埋蔵文化財センターは神奈川台場の遺跡発掘調査を担当しており、現在は東高島駅(貨物駅)付近の土地区画整理(再開発)事業にともなって2025年12月から約3800平方メートルにわたる規模の調査を実施。5月10日には発掘で見つかった当時の石垣や遺物などを公開し、多数の見学者が訪れた。写真奥にはみなとみらい地区のビル群が見える(5月10日、神奈川区神奈川1丁目)
今回のデジタルコンテンツは歴史考証などで横浜開港資料館が関わっており、同館を運営する公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団(都筑区中川中央1)の埋蔵文化財センターは、神奈川台場の発掘調査を担当しています。
横浜開港資料館の神谷大介調査研究員は「外国船の襲来に対抗するため、幕末には日本各地で台場が多く築かれた。現在は“お台場”と言えば東京都港区の品川台場と呼ばれていた砲台跡が有名だが、横浜開港場の対岸となる神奈川宿にも台場が建設されていたことはあまり知られていない。今回のデジタルコンテンツを通じ、広く伝わっていくことを期待しています」と講演で語りました。
(※)この記事は「横浜日吉新聞」「新横浜新聞~しんよこ新聞」の共通記事です
【参考リンク】
・神奈川台場「デジタルコンテンツ」の紹介(神奈川台場地域活性化推進協会)
・神奈川台場とは(神奈川台場地域活性化推進協会)
・映像作品「神奈川台場の記憶~横浜開港と未来への物語」(YouTube、約12分)
・横浜市ふるさと歴史財団埋蔵文化財センター「埋文よこはま39号(2019年3月31日発行)」の特集「横浜の台場」(PDF、神奈川台場の詳しい特集)








