【東横線100周年フォーラムレポート(7)】今年(2025年)8月19日に慶應義塾大学日吉キャンパス内協生館で行われた「東急東横線100周年フォーラム~沿線5駅の“未来を語る”」(一般社団法人地域インターネット新聞社主催)について、今回は5人の登壇者がテーマごとに5駅を語る「パネルディスカッション(前半)」の模様をお伝えします。
<パネルディスカッション登壇者>
- 【日吉駅】都倉武之さん(慶應義塾福澤研究センター教授)
- 【綱島駅】吉田律人さん(横浜都市発展記念館・主任調査研究員)
- 【大倉山駅】林宏美さん(公益財団法人大倉精神文化研究所・図書館運営部長)
- 【菊名駅】高木暁子さん(高木学園理事長・英理女子学院校長)
- 【妙蓮寺駅】酒井洋輔さん(松栄建設株式会社・妙蓮寺ニコニコ会副会長)
- 【コメンテーター】竹内敏浩さん(東急株式会社「東急100年史」担当)
- 【コメンテーター】橋本志真子(一般社団法人地域インターネット新聞社代表理事)
- 【司会】広瀬未来
2つのテーマで“未来トーク”
<司会(広瀬未来)>
これから5名のパネラーと2名のアドバイザーで未来を語る“未来トーク”を展開してまいります。こちらは「ぶっつけ本番」ということで、事前にリハーサルはしておりません。登壇者の皆さんの生の声を聞くという企画になっておりますので、私もドキドキ、登壇者の方もドキドキではないかと思います。
今回は質問を5つ用意しており、お時間が許す限りたくさんお聞きできたらと思います。テーマは未来です。それぞれの質問の未来像を描いていきたいと思っております。
駅と街はどう変わってほしいか
<司会>
それでは1問目です。「駅の未来像」として、それぞれのご担当の駅の未来像について、「こうなっていたらいいな」「こうなっていると思う」といったご回答をお書きください。画用紙になるべく太く大きく、(会場の)後ろの方にも見えるように、そして簡潔にお願いいたします。
未来といいましても、「すぐ先の未来」なのか「もうちょっと先」か、「すごく先の未来」なのか、それぞれ時間軸もご提示いただけるとイメージしやすいかなと思います。
皆さん一生懸命書いていてくださっていますが、日吉駅の都倉さんは「交通=百年文明開化」とお書きいただきました。ご説明をお願いいたします。
【日吉駅】都倉武之さん(慶應義塾福澤研究センター)
“交通イコール文明改革”というのは、交通とは文明開化であると福澤諭吉は言っております。
交通というのはモノが移動し、人が移動し、人とともに考え方も移動して、「ごちゃ混ぜ」になっていくことによって発展していく、無限の可能性がある、それを追求していくのが未来に生きる人間の使命である――ということです。
日吉という場所には学問があり、商業ががあり、そして住環境があり、さまざまな要素があって、それが百年、二百年と経て予測不能な発展を遂げていく、ということが言いたい内容です。
<司会>
この先、交通によってどんな日吉駅がまた生まれているのかということですね。ありがとうございます。それでは綱島駅の吉田さん、お願いいたします。分かりやすい、「温泉」です。
【綱島駅】吉田律人さん(横浜都市発展記念館)
温泉と書かせていただきました。歴史をやっている人間が未来を語るのはなかなか難しいんですけれども、歴史を踏まえてお話しますと、先ほど申し上げたように綱島駅は「桃」と「温泉」という特徴がありました。
やはり、街をつくるには特徴的なまちづくりが重要だと思います。もともと「綱島温泉」という名の駅が置かれていた地域で、先ほど「東京園」(綱島温泉で最後まで残った日帰り温泉施設)のお話もしました。
綱島は歴史的に見ても人が集まる場所でした。個人的な希望としては20年30年先でもいいので、また綱島温泉が復活していただくことを願っています。
<司会>
ありがとうございます。それでは大倉山駅・林さんお願いいたします。「駅前広場」「駅ビル」とお書きいただきました。
【大倉山駅】林宏美さん(公益財団法人大倉精神文化研究所)
私が書いたキーワードは「駅前広場」と「駅ビル」なのですが、大倉山駅を使っている身としては、“駅前が狭い”“横断するのが危ない”という思いがあります。
妄想みたいな話なのですが、まず駅前の東急ストアさん(高架下の「フードステーション大倉山店」)の場所を駅前広場にして、タクシーやバス乗場、送迎車の降車場などをつくり、地下には駐輪場も設けます。
駅ホームの上には「駅ビル」をつくり、東急ストアさんはそちらに入ります。そして、最近は駅に直結する公共施設も多くなっていますので、駅ビルに図書館や区役所なども入ると地域の拠点になります。
また、駅ビルに駅前通りをまたぐような出入口を設けたり、(大倉山記念館へのアクセス路となる上り坂の)記念館坂の上のほうにも出入口をつくっていただくと記念館や大倉山梅林へのアクセスも向上し、大曽根台や大曽根方面からも駅が利用しやすくなるのではないでしょうか。
建築もギリシアの雰囲気を入れていただくと、(エルム通りと)統一感も出ます。こうしたことが実現すれば、安全で便利でより魅力的な駅・街になるんじゃないかと思います。
<司会>
ありがとうございます。駅ビルや駅前広場のある大倉山駅、皆さんイメージしてみてください。それではお隣の菊名駅・高木さんお願いいたします。
【菊名駅】高木暁子さん(高木学園・英理女子学院)
(「ここから(5~10年)正念場」と書いたフリップを掲げる)先ほど申した通り、今、菊名駅では駅前の東急ストア(菊名店)がリニューアル工事中ですが、それに合わせ、街としてのインフラの課題を解決することが大事です。
駅東口の交通量の多さとか、お年召した方やお子さんが歩くのは危険というような今の街の状況を変えるとかいった点です。また、本当に坂が多くて高齢の方が買物へ行くにも困っちゃうというような街のインフラ課題を解決するということが、とても大事だと思っています。
(移動するためのモビリティとして)ドローンの拠点にするべきじゃないかな、というふうにも思っています。
<司会>
ありがとうございます。それでは妙蓮寺駅について酒井さんお願いいたします。
【妙蓮寺駅】酒井洋輔さん(松栄建設株式会社・妙蓮寺ニコニコ会)
(「ずっと平屋」と書いたフリップを掲げる)妙蓮寺駅は東横線で唯一の「平屋」の駅舎になっていまして、それがすごく良い点なんです。駅を降りたらまず、空が広がっています。
まちづくりって、沿線にいろいろあると思うんですけど、“動(どう)と静(せい)”では、どちらかと言うと妙蓮寺は「静」です。
動くのではなくて「そのまま」、みんなが懐かしさを感じるような町のままで残っていて、それがいいと思ってもらえる人たちが、磁石のように集まっていく、そういう町であったらいいなと思っています。
<司会>
平屋の駅舎が唯一ということを私は知りませんでした。ありがとうございます。それではお答えを受けまして、アドバイザーの皆さん、お願いいたします。
【コメンテーター】竹内敏浩さん(東急株式会社)
皆さんからありがとうございます。駅というのは人と交通もそうですけど、クロスポイントになりますので、非常に重要なポジションだと思っております。
今、たとえば林さんから駅前広場とか駅ビルとか、高木さんから街としてのインフラを、といったご意見をいただきました。
これからに向けて、われわれが一番重要に考えるのは「安全・安心」です。駅前広場とかいろんなものを含め、われわれができることは限られていますが、10年後、20年後、いい形にしていきたい、そんなふうに思いました。ありがとうございます。
【コメンテーター】橋本志真子(一般社団法人地域インターネット新聞社)
日ごろさまざまなニュースや話題を報じているなかで「再開発」の記事はすごく読まれます。妙蓮寺はほっとするような空間で、ということなのですけど、これからも注目していきたいなと思っています。
港北区の子育てや教育の未来像
<司会>
2問目のテーマは「子ども・学生・子育て」についてです。皆さんご存知の通り、港北区の人口は36万人から37万人(2025年8月1日時点で36万7291人、世帯数は18万5754)に近づき、子育てファミリー層の流入もまだまだ見込まれる、全国でも数少ない地域となっています。
今回のイベントも、まさにこれからを担う学生さんや子どもたちと、未来を共有したいとの思いがあります。それぞれ、担当駅周辺エリアの育児や教育、学校ほか学びについてなど、未来像をお答えください。
それでは、書けていそうな綱島駅・吉田さんからお願いしましょうか。お願いいたします。
【綱島駅】吉田律人さん(横浜都市発展記念館)
「宝庫」というキーワードでお話をさせていただきます。
東横線沿線は非常に自然が豊かな場所ですし、これを残していってほしいということが一つあります。
それと同時に、先ほども触れましたように、街の中には歴史を語るものがたくさん残っています。子どもたちには、自分が住んでいる地域はどういう地域だったのか、そしてアイデンティティーを持ってもらうためにも、地域のなかに散りばめられている“宝物”、歴史であったり、自然であったりを勉強していって、未来の港北区を好きになって、育っていってもらえればと思います。
<司会>
ありがとうございます。それでは大倉山の林さんお願いいたします。
【大倉山駅】林宏美さん(公益財団法人大倉精神文化研究所)
「地域だけの学び」と書いたのですが、地域でしかできない学びを、という意味です。
港北区では公立小学校から私立の中学校へ進学し、区の外へ出る子が多い傾向が見られます。また、新型コロナ禍を経て“場所に縛られない学び”のスタイルも広がりました。
そういう点から逆に地域でしかできない学び、地域への愛着をはぐくむ学びが必要ではないかと思います。
たとえば大倉山ですと、記念館で歴史を学び、商店街でまちづくりや経済を考えて、区内でもっと広げれば慶應大学や新横浜の企業、新羽の工場などと連携し、地域のさまざまな場所を「教室」にしていくということです。
現状、こういった取り組みは学校の「地域学習」として行われていますが、学校のカリキュラムとして体系化していけば地域理解が深まって、社会も学べます。
それにより、子どもたちがいずれは未来のまちづくり担う流れにつながっていくと良いのではないかと思います。
<司会>
ありがとうございます。地域ならではの学びということで、吉田さんにも通じることですね。続きまして、菊名の高木さんお願いいたします。
【菊名駅】高木暁子さん(高木学園・英理女子学院)
私は「菊名全体を学びの場に」と書きました。これは菊名の学びの環境で、2つ解決できればと思っていることがあるからです。
まず一つは、日本でもめずらしく人口が爆発していて、子どもたちの数も増えています。菊名小学校(菊名5)や樽町中学校(樽町4)など、このあたりは小学校を中心にキャパオーバーになっているとよく聞きます。
校庭をつぶして校舎をつくらざるを得ないという、そんな状況であれば、いろいろ法律のからみ等もありますけれど、街全体を学べる教室にしてはどうか、というようなことを考えています。
先ほども言いましたが、文化的なイベントが少ないということで、たとえば「港北国際交流ラウンジ」(大豆戸町)とか、こうした施設を活用して学びの場にしていってはどうか、と思っています。
<司会>
少子化のなかで、子供たちが増えている街というのは、それだけで希望がありますよね。それでは妙蓮寺の酒井さんお願いたします。
【妙蓮寺駅】酒井洋輔さん(松栄建設株式会社・妙蓮寺ニコニコ会)
(「家高すぎ」と書いたフリップを掲げる)少しイレギュラーな回答なのですが、不動産・建築をやっていますと、一般的な子育て世帯が家を買う際に8000万とか9000万くらい出さないと買えないというのは、ちょっとクレイジーな世界だなと思っています。
小学生の子がおりますが、4クラスから3クラスに減ってしまいました。不動産価格が高騰しすぎると、投資のお金とか余計なものが入ってきて、住む人のためにならないお金が入ってきます。僕はそこがすごく大嫌いで、やっぱりお父さん、お母さんが働いたお金で買えるくらいの街であってほしいです。
解決は自分だけではできなくて、行政の公営住宅とかが必要になってきていると思っています。
<司会>
ありがとうございます。それでは日吉の都倉さん、お願いいたします。
【日吉駅】都倉武之さん(慶應義塾福澤研究センター)
(「日吉ミュージアム 5~10年」と書いたフリップを掲げる)歴史家は地元の歴史を大切にしようというような話だったと思いますが、やはり日吉そのものが学問とも言えますし、もっと言えば東横線が学問できると言ってもいいと思います。
それは文系の分野のみならず、理系の分野でも自然史とか、地学とか、色んな観点から、その土地ですでにあるもの、魅力をもう一度発見するということが、いくらでもできます。
そういったものを共有し、さらに新しいものを創造する、そのために何か拠点となるような場所などを創り出せたらいいなと思っています。
<司会>
ありがとうございます。それではコメンテーターのみなさんいかがでしょうか。
【コメンテーター】竹内敏浩さん(東急株式会社)
実は東急の事実上の創業者である五島慶太(1882~1959年)は、小学校の先生と、それから高等学校の英語の先生をつとめたことがある教育者でした。その流れで鉄道会社を経営したので、学校の誘致にすごく積極的だったという話があります。
そうした流れがあり、この沿線に学校が多かったり、教育熱心だったりということになったのかなと思っております。これからもですね、そういう雰囲気を醸成していければと思いますし、我々がどんどんお手伝いができるんではないかと、そういうふうに思っています。
【コメンテーター】橋本志真子(一般社団法人地域インターネット新聞社)
皆さん大変堅実なことをおっしゃっていますが、客観的に見ますと、港北区の小学校は未だにプレハブを置いているところが多かったり、県立高校を見ても校舎が古くなっていたりと、たとえば横浜のイメージとプレハブや老朽化した校舎というギャップが激しいんですね。
ここは本当に公的な皆さんのお力、政治家の方もそうですし、市民が政治に参加するといったことそうですが、環境を整えていかなければと。たとえば中高一貫校をつくるですとか、大学をもう一校、農業を学べるような学校を誘致するとかもあっていいんじゃないかなと思っています。
※「<東横線100周年レポ(8)>期待とあるべき港北区内5駅像を語り継ぐ(最終回)」につづく
(※)この記事は「横浜日吉新聞」「新横浜新聞~しんよこ新聞」の共通記事です
【関連記事】
・<東横線100周年レポート(6)>菊名が持つ可能性と変化する妙蓮寺の日常(2025年9月29日)
・「東横線100周年フォーラムレポート」の記事一覧(全8回)(全レポート)
【参考リンク】
・「東急東横線100周年フォーラム~沿線5駅の“未来を語る”」特設サイト(当日の動画も公開)
















