綱島のヨーカドー跡地は野村不動産が取得し、建物は解体されることになりました。
野村不動産株式会社(東京都新宿区)はきのう(2025年)3月18日夜、旧「イトーヨーカドー綱島店」(綱島西2)の建物解体に関する説明会を綱島地区センターで開き、解体は2027年3月末まで2年間を要することを説明。その後の建設計画は未定とのことです。
昨年(2024年)8月18日に閉店したイトーヨーカドー綱島店については、土地・建物などから運用益を受け取る「信託受益権」を2004(平成16)年から持つ日本都市ファンド投資法人(東京都千代田区)が3月3日までに非公表の譲渡先に計90億円で売却。登記簿などによると同日時点で所有権が野村不動産に移されていたものです。
日本都市ファンド投資法人は、野村不動産が川崎市多摩区で開発した商業施設「クロス向ヶ丘」を4月1日までに48億円で取得することを決めており、ヨーカドー綱島店跡の売却先を選ぶ際、クロス向ヶ丘を入手できることが選択に影響を与えたとの指摘が関係者から聞かれました。
今回の説明会は新たな所有者となった野村不動産と、解体施行者に選ばれた西武建設株式会社(埼玉県所沢市)、総合企画を担う株式会社イム都市設計(東京都新宿区)が共同で主催。道路で接するエリアの限られた住民や物件所有者らに案内を配る形で告知しました。
説明では4階建ての建物解体工事を4月から開始し、日曜日のみを休工日とし、毎日8時から18時30分まで作業を行っても2年後の2027年3月までかかるとのスケジュールを提示。時間を要する背景には大型車両の出入りが難しい点があるとのことです。
参加した住民ら約40人から多数の質問が寄せられる中、騒音や振動、粉塵(じん)についてや、アスベストを使った箇所があるとの説明には心配の声も。工事の状況は囲いの外の4カ所に掲出する予定とのことで、「騒音、振動やアスベストについてはいずれも法令に則り状況や説明の掲出を行います。粉塵は季節や風向きなどによっても変わることもありますが、水を撒くといった対策でご迷惑をかけないようにしたい」と工事関係者は説明していました。
また、近くにある8階建て99戸のマンション「ニックハイム綱島第1」で建替組合による建て替えが計画されているため、解体工事が相次ぐことによる大型車両の通行増に危機感を訴える意見も聞かれました。
なお、説明会を担当していた野村不動産の住宅事業本部によると、解体後にどのような建物とするかなどの活用方法は現時点で決まっていないとのことです。
次々とマンションを建てる野村不動産
ヨーカドー跡地も取得することになった野村不動産。日吉・綱島エリアで事業を活発化させることになったのは、綱島東4丁目の綱島街道沿いに本社を置いていた松下通信工業(現在はパナソニックが吸収)の一部建物(体育館)跡を再開発し、2011(平成23)年に「プラウド綱島」(99戸)を分譲したことがきっかけといわれます。
その後、同社は松下通信工業の本社工場跡(現「綱島SST」)の再開発計画でも主要事業者となるだけでなく、隣接する箕輪町2丁目も含めて工場跡地を中心に次々とマンションを開発してきました。
日吉・綱島で「野村不動産」が近年新築したマンション
- 2020年2月~2022年3月完成:プラウドシティ日吉(箕輪町2、1318戸)※事業所・スーパー跡
- 2019年7月完成:プラウド日吉本町(日吉本町3、56戸)※企業寮跡
- 2019年4月完成:プラウド日吉クロス(箕輪町2、58戸)※工場跡
- 2018年2月完成:プラウド綱島SST(綱島東4、94戸)※事業所跡
- 2016年7月完成:プラウド日吉(箕輪町2、177戸)※工場跡
- 2011年10月完成:プラウド綱島(綱島東4、99戸)※事業所跡
一方で野村不動産は、計1318戸の大規模再開発となった箕輪町2丁目の「プラウドシティ日吉」(旧「アピタ日吉店」など)で、複合商業施設「ソコラ(SOCOLA)日吉」も設置しています。
当初、主要テナントとしてイオン系の小型食品スーパー「ビオセボン(Bio c’Bon)」を誘致したものの3年で撤退し、現在は100円ショップチェーンに変わりました。
西口の旧温泉街“再再開発”がスタート
綱島西口の旧温泉街では、1980年代に旅館などから転換した建物を更新する“再再開発”の動きが本格化しつつあります。
ヨーカドー跡地から1ブロック離れた高田寄りでは、戦後の綱島温泉を代表した大型温浴施設「行楽園」から転換し、1980(昭和55)年4月に完成したマンション「ニックハイム綱島第1」(8階建て、99戸)で建替組合を結成しての建て替えが決定。
現在は平面駐車場として使われている旧スポーツ施設部分も含め、ヨーカドー跡より若干小さい約4500平方メートルの敷地は、現時点で住宅174戸(2LDK~4LDK)と寄宿舎84戸を中心とし、1階に5つの店舗と学童保育施設のスペースを加えた10階建てビル(高さ約30メートル)を2027年末ごろまでに完成させる計画です。
一連の敷地にはかつて「オアフクラブ(旧「毎日スポーツプラザ綱島」)」(1980年オープン、2013年閉館)が置かれていた経緯もあり、当初は新築ビルの地下などにスポーツジムを設ける計画案も見られましたが、現時点では5つの店舗などが置かれる1階を除き“ほぼ共同住宅”となる見通しです。
ニックハイム綱島第1の建て替えと、ヨーカドー跡地の解体・建設の工事期間は一部で重なるとみられ、周辺の居住者や買物客、通行者などに影響を与える可能性があります。
ヨーカドー跡地が位置するパデュ広場の周辺は、1980年代に温泉街の再開発を図る際、「地域住民に利便を提供する商業開発を推進する」(1976年制定「綱島西地区街づくり憲章」)と商業エリアに変えるとの構想を色濃く打ち出していました。
しかし、温泉街再開発の核で西口最後の大型スーパーだったイトーヨーカドーを失ったなか、その役割が変わる可能性があります。
かつて温泉旅館「扇家」の一部で民家に転換後、解体されて分譲マンション「ミオカステーロ綱島」(10階建て29戸)が昨年(2024年)9月に建てられたほか、割烹旅館「喜世」の一部で近年は駐車場として使われていた場所には9階建ての賃貸マンション「スペランツァ綱島」が今年1月に完成するなど、共同住宅の建設が相次いでいます。
パデュ広場の周辺一帯は、かつて温泉旅館が次々と消えていったように、買物客を呼び込むための商業施設や店舗がさらに減り、住宅街としての役割だけを担うエリアへと変ぼうしてしまうのでしょうか。
【関連記事】
・日本都市ファンド投資法人、旧ヨーカドー綱島店の信託受益権を90億円で譲渡へ(2024年9月6日、譲渡相手は野村不動産だった)
・<昔の綱島を語る>温泉街の衰退や水害、再開発と区役所誘致の思い出も(2023年2月22日、旅館からの転換時には「1・2階を店舗に」という方針を決めたことについても)
・戦前は西口ヨーカドー付近にあった「東京園」、綱島温泉をめぐる3つの意外な歴史(2024年5月7日、ヨーカドーの場所についての過去)
【参考リンク】
・イトーヨーカドー綱島店跡地の場所(グーグルマップ、2027年3月末まで野村不動産が解体工事を計画)
・マンション「ニックハイム綱島第1」の場所(グーグルマップ、2027年12月末まで建て替え工事を計画)
・綱島駅周辺地区街づくり協議指針(「綱島西地区街づくり協定」など)