横浜市内最多の児童数に至るなかでも授業の充実を目指した箕輪小。卒業生には戦争体験者を招いた特別授業で、“君たちはどう生きるか”というテーマを投げ掛けます。
2020年4月開校、今年(2025年)4月に開校5周年を迎える横浜市立箕輪小学校(箕輪町2)では、開校翌年の2021年から副校長として着任した副校長の大滝文平さんが、授業に登壇・協力しての「社会科授業」を実践しています。

今年(2025年)4月に開校5周年を迎える横浜市立箕輪小学校の井上強校長(中央)、大滝副校長(左)、昨年4月に2人目の副校長として着任した野澤聡子副校長。5周年を記念し児童発案・投票により決定したキャラクター「みのっぴー」のイラスト画と(3月3日)
来週卒業式を迎える6年生4クラス約120人の児童に対し、「君たちはどう生きるか」とのテーマで、これからの生き方を考えることを目的とした授業を昨年(2024年)12月から行ってきました。
始まりは「前任校」、戦争記録映画との出会い
初任地の戸塚区内の小学校の後、約10年間にわたり、横浜国立大学附属横浜小学校(中区立野)で勤務したという大滝さん。
1944(昭和19)年1月から4月ころに制作されたという、西前国民学校(現在の横浜市立西前小学校、西区中央)を舞台とした記録映画「戦ふ(戦う)少国民」と、同小学校に保存されていた、専門とする社会科の資料として出会ったといいます。
映画の収録時に西前国民学校に在学していた横浜市内在住の大木秀生さんが当時を語る報道番組が夏にオンエアされたことで、大滝さんは大木さんの存在を改めて認識、大木さんとの対面を果たしたことで、箕輪小学校の児童に向けたインタビュー動画を収録。
授業で「戦ふ少国民」を流した上、大木さんのインタビュー動画を授業で公開、「知識偏重」になりがちな子どもたちに、今から80年前の戦時下を生きた当時の小学生が実際に体験したことをメッセージとして伝えることができたと、大滝さんは大木さんとの出会いを喜びます。

第二次世界大戦中の西前国民学校(現在の横浜市立西前小学校)在学時に「戦ふ少国民」映画の撮影が行われ映像にも登場する大木さんが「驚きの来校」で、子どもたちに戦争の悲惨さを体験談を交えて伝えていた。左は孫の大木穂洲さん

この日も箕輪小学校で上映された記録映画「戦ふ(戦う)少国民」は神奈川県立図書館(西区紅葉ケ丘)でも所蔵されている
「地域の歴史」をリアルに伝える取り組み
箕輪小学校に着任後も、綱島商店街や綱島東1丁目の古民家「池谷家住宅」を見学するといった、地域の歴史を知る特別授業を行ってきたという大滝さん。
大木さんの動画のほか、戦禍が厳しかったといわれる、神奈川区新子安の子安国民学校(現在の同市立子安小学校)の6年生が、横浜から東横線で大倉山駅へ、新田(旧新田村、新吉田エリアなど)を経由し、中川(旧中川村、現在の都筑区)を経て寺院(正覚寺)に疎開したという文集を資料として使用。
当時の戦時下の子どもたちに自分たちを重ね合わせながら、どうして日本がこのような戦禍に巻き込まれたのかを議論し考える授業を行ってきたといいます。
大木さんが驚きの来校、戦争の悲惨さを伝える
「君たちはどう生きるか」と名付けた授業の集大成として、今月(2025年)3月3日、6年生の全児童が同校のアリーナ(体育館)に集合。
改めて「戦ふ少国民」を視聴、終了したタイミングで、この日特別に招いた大木秀生さんが登壇する授業が実現します。

質疑応答の時間では多くの手があがり質問が寄せられていた
大木さんは、子どもたちの驚きの声に包まれ、孫の大木穂洲(すいしゅう)さんとともにステージに登壇。
大滝さんらとのステージトークとして、映画が撮影された当時のエピソードを語り、湯河原温泉に疎開したことや1945(昭和20)年5月29日の横浜大空襲での災禍に巻き込まれた体験、終戦時に感じたことなどを赤裸々に語り、子どもたちに戦争の悲惨さや恐ろしさを、自身に迫りくる実体験として伝えていました。
最後の質疑応答では、6年生児童も果敢に手を挙げ、戦争中の食事についてや、疎開中語り合ったこと、軍艦や駆逐艦を見たことがあるかや、当時の睡眠時間といったリアルな質問を投げかけ、大木さんは当時を思い起こし、丁寧に自身が見聞きしたことについて語っていました。
児童倍増でも授業の「内容充実」に注力できた日々
開校初年度は、横浜市教育委員会の北部学校教育事務所(都筑区茅ケ崎中央)に配属となり、港北区の担当として同小学校の開校をサポートしていたという大滝さん。
当時は601人(2020年4月1日)だった児童数も、今年4月には1200人を超え、横浜市内で最大の児童数を抱える見込みです。
開校当時に推計した予測の1139人・32学級も大幅に上回る事態に、今年度(2024年度)からは副校長を初めて2人体制として臨んだ日々となっていますが、「さまざまな変化や苦労がある中で、授業については、その中身を議論できることが多く、充実を図ることができたと思います」と大滝さんは、着任以降のこれまでの日々を振り返ります。

箕輪小学校の初代「学校地域コーディネータ―」で代表の小原光子さんは日吉台小学校(日吉本町1)でも同コーディネーターの代表を務めている。「トイレが足りない状況により、授業中に行かざるを得ず、児童の集中力を保てないといった問題も起きています」と大規模校としての悩みにどう対処すべきか思案に暮れているという
箕輪小学校の児童数は、1485人・46学級にまで増える見込み(2028年)と2022年に市教育委員会が示しており、これからの同小学校の教育の体制の構築、2025年度中に開始される予定の校舎増築工事にもどのように対応していくのか。
近年、日吉地区では見られなかった大規模小学校としての在り方、その教育の行方にも、学校関係者のみならず、地域ぐるみでの関心を寄せていくことが望まれます。
【関連記事】
・横浜市で最多の児童数「師岡小」、3位「箕輪小」、中学校最多は「日吉台中」(2024年10月3日)
・<市教委>箕輪小や師岡小、日吉台中などの大規模校で「電子書籍」を試行導入(2024年9月2日)
・<箕輪小>児童急増で4月から1000人超、「5階建て」校舎増築の説明会(2023年2月4日)
【参考リンク】
・【みのわ日記】11月29日 週末ふりかえり(同)※5周年「創立記念式」についてや記念キャラクター「みのっぴー」、創立に関わった「開校準備委員会」のメンバーを取材した約20分間の「記念映像」を制作したことについて。映像は2024年12月初旬に全校生徒に披露されたとのこと
・「死ぬための教育は、教育のまさに逆転現象」子どもたちを支配した軍国主義は教室だけでなく少年向け雑誌にまで【報道特集】(TBS NEWS DIG)