東急線が羽田空港へ向かう第一歩を踏み出します。
東急電鉄などは今月(2025年)1月17日、東急多摩川線(多摩川~蒲田)から京浜急行の京急蒲田駅の付近まで新たに連絡線を整備するため、「都市鉄道等利便増進法」に基づく営業構想の認定を国土交通省に申請したと発表しました。
この営業構想は「新空港線」や「蒲蒲(かまかま)線」と呼ばれている新路線のことで、地下に線路を新設して京急蒲田駅付近まで至り、将来的には京急空港線(京急蒲田~羽田空港)と接続して相互乗り入れをしようというもの。
東急の蒲田駅(JR蒲田駅に隣接)と京急蒲田駅は、800メートルほど離れており、現状では乗り換えに徒歩で10分以上を要する状態です。
街道に沿って敷かれた京急電鉄が1901(明治34)年に駅を先に設け、街道から離して国が開通させていた東海道本線(JR)が近くに蒲田駅を新設。そこへ東急(池上線・多摩川線=旧目蒲線)が乗り入れてJR・東急の駅付近が発展した経緯がありました。
地元の東京都大田区は、この区間が鉄道でつながって東急線と京急空港線の相互乗り入れが実現すれば、羽田空港から多摩川、田園調布まで区の東西で移動の利便性が向上し、羽田空港から渋谷方面へのアクセスも確保できることから、40年近くにわたって両駅を鉄道で結ぶ可能性を探ってきました。

蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶことは大田区の悲願となっており、2022年7月には区報の臨時号も発行。新空港線(蒲蒲線)が開通すると、JR(京浜東北線)・東急(多摩川線・池上線)、京急(本線・空港線)が区内でつながり、羽田空港から田園調布まで区内の各駅へ行き来がしやすくなる(区内にある都営浅草線の西馬込駅、馬込駅を除く)
2022年6月には地方(都と区)が負担する事業費の割合を「都3割・区7割」とすることで合意し、同年10月には線路や駅の整備主体となる第三セクター「羽田エアポートライン株式会社」を区が61%、東急電鉄が39%を出資する形で設立しています。
今回、東急電鉄と羽田エアポートラインが認定を申請した「都市鉄道等利便増進法」は、今ある鉄道施設を活用しながら「速達性の向上」と「駅施設の利用円滑化」を促すための法律。第一号案件として認定されたのが神奈川東部方面線(「相鉄・JR直通線」「相鉄・東急直通線(新横浜線)」)でした。
同法の対象に認定されると、整備費の負担割合が国、地方(都・区)、整備主体(羽田エアポートライン)と3分の1ずつという形となり、整備主体と実際に列車を運行する営業主体(東急電鉄)も分けられることになります。
東急と京急で異なる「線路の幅」
今回の構想は、東急多摩川線・矢口渡駅の先から地下線を設け、新たな東急蒲田駅を地下に設置したうえで、さらにトンネルを掘り進め、京急蒲田駅付近に地下駅を設けようというもの。
申請は「1期整備」という位置付けで、将来的に予定する「2期整備」ではさらにトンネルを延伸し、京急空港線の大鳥居駅で相互乗り入れすることを模索しています。

新空港線(蒲蒲線)の断面図、まずは第1期の東急多摩川線・矢口渡駅の先~京急蒲田駅付近までを事業化し、その次の段階で京急空港線との接続を検討する方針(令和4年度大田区新空港線「蒲蒲線」整備促進区民協議会の資料より)
東急多摩川線は2000年まで「目蒲線」の名で「目黒~田園調布~多摩川園(現多摩川)~蒲田」のルートで運行しており、現在も田園調布駅付近で東急目黒線などと線路がつながっているため、都心方面からの直通運転は可能。東急電鉄は、一部列車について多摩川駅から東横線に乗り入れを想定しているとのことです。

かつての「目蒲線」(目黒~多摩川~蒲田)は2000年に目黒線(目黒~多摩川~武蔵小杉、のちに日吉まで延伸)と多摩川線(多摩川~蒲田)に分割されて運行しているが、線路自体はつながっている(多摩川駅、2025年1月)
一方、東急線と京急線は線路の幅が異なっているため、現状では羽田空港方面で相互の直通運転が難しいという大きな課題が横たわっており、異なる幅の線路を走行できる「フリーゲージトレイン」の導入などを検討している状態です。
また、東急多摩川線の蒲田駅が地下化されることでJR線と乗り換え距離が長くなるほか、「広域住民にはアクセスが良くなり喜ばれても、大田区内は通過するだけの危険性がある」「新空港線を作るよりも多摩川線の各駅の周辺の整備を行ったほうが大田区民にとっては有意義」(「大田区鉄道沿線まちづくり構想」パブリックコメント)といった声も聞かれます。

新空港線(蒲蒲線)の東急多摩川線・矢口渡駅の先~京急蒲田駅付近間の整備イメージ、地下に駅を設けるため、乗り換えに上下移動が増えることが予想される(令和4年度大田区新空港線「蒲蒲線」整備促進区民協議会の資料より)
羽田エアポートラインによると、現時点で今回(東急多摩川線・矢口渡駅の先~京急蒲田駅付近まで、約1.7キロ)の事業費は約1250億円。整備期間は15年以上先の2041年度末までを予定しているといい、東急の電車がその先の羽田空港へ到達できるのはまだ長い時間がかかりそうです。
【関連記事】
・「鉄道計画」に関する記事一覧(横浜日吉新聞、「品川地下鉄」や「横浜環状鉄道」など)
【参考リンク】
・東急電鉄「新空港線整備に向けて営業構想の認定を申請」(2025年1月17日、「都市鉄道等利便増進法」に基づく申請)
・羽田エアポートライン株式会社(大田区と東急電鉄による第三セクター、新空港線の整備主体となる予定)
・新空港線(蒲蒲線)整備促進事業に関するよくある質問(Q&A)(大田区、計18の疑問に区が回答している)