死んだ後も苦労する横浜市の北部住民、「火葬場」の不足解決へ新建設 | 横浜日吉新聞

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【コラム】通夜や葬式は行えたとしても、なかなか火葬ができない、横浜市北部ではそんな状況となりつつあります。しかも、市北部の市民向けに設けられている市営の「北部斎場」は、“ほぼ旭区や町田市”といえる緑区内。日吉・綱島・高田周辺からは車で40分以上を要するケースが多く、火葬までの待ち日数が増加していることに加え、葬儀時の心理的な負担も少なくはありません。

人が亡くなった後の「通夜、葬儀、火葬」という流れのなかで、ネックとなっているのが最後の「火葬」の部分です。

港北区など6区を「北部エリア」とすれば、市営と民営含め火葬場は2カ所あるが、市営の待ち日数は増加する一方だという。また民営の西寺尾は10炉あるうち実際に稼働しているのは7~8炉と言われている(横浜市の資料を一部加工)

横浜市内では大正時代からある「久保山斎場」(西区久保山=最寄りはJR保土ヶ谷駅や京急南太田駅)をはじめ、昭和後期に設けられた「戸塚斎場」(戸塚区鳥が丘)や「南部斎場」(金沢区みず木町)と市営火葬場が市中心部や南側に偏っていたなか、1997(平成9)年になってようやく市北部に「北部斎場」(緑区長津田町)が設けられています。

確かに「北部」の緑区にあるが……

「北部斎場」は4つの市営火葬場では最大の規模を持つ施設。場所も確かに“北部”エリアの緑区内にはありますが、東名高速道路の「横浜町田インターチェンジ」に近く、目の前は東京都町田市や横浜市保土ヶ谷区といった位置で、港北区民にとっては遠い場所に置かれています。

「北部斎場」は町田市や保土ヶ谷区に近い緑区にある

一方、北部エリアには、妙蓮寺駅から近い神奈川区松見町2丁目の同地に本社を置く民間事業者が「西寺尾火葬場」を大正時代から運営しており、併設の西寺尾会堂(葬儀場)を含めて北部住民の利用も目立ちます。

市も民間と市営の火葬料格差を埋めるため、民間火葬場を利用した市民へは料金補助も行っています。

民営の「西寺尾火葬場」への最寄りは妙蓮寺駅、住宅街に位置している

地元の神奈川区民に加え、港北区民にとっても重要な民間火葬場ですが、火葬数の規模は北部斎場の3分の1程度にとどまります。同火葬場は丘の上の閑静な住宅街に囲まれた環境下にあり、これ以上の拡張や設備の増強は難しく、今以上の火葬ニーズに応えることは困難とみられています。

また、川崎市にも2カ所の市営火葬場があり、横浜市北部エリアからも比較的近い川崎区の臨海部には「かわさき南部斎苑」(川崎区夜光=最寄りはJR浜川崎駅や京急小島新田駅)も置かれていますが、川崎も火葬場不足に悩んでおり、市民以外の利用料金を10倍近く高く設定するなど、“市民の火葬だけで手いっぱい”というのが現状です。

月曜に亡くなると火葬は最短で土曜

市の死亡者は今後も増え続けると予測(横浜市の資料より)

高齢化で死亡数が増えて人口減少が加速する「多死社会」を迎えるなか、横浜市内でも火葬数は右肩上がりで増えており、市のデータでは市営火葬場の待ち日数が2020年度は平均で「4.56日」に達しているといいます。

これは、法律で死亡から24時間以内は火葬できない決まりがあるため、死亡日の翌日から起算して平均で4.56日を待つことになるというデータです。

横浜市内に4つある市営斎場の平均待ち日数は年々増加(同)

たとえば「月曜日」に亡くなると、火曜日から数えて早くても4日後の「土曜日」以降にしか火葬ができない計算となります。

その間、葬祭事業者などに遺体を安置してもらう必要が出てくるため、葬儀費用の高騰にもつながってしまいかねません。

鶴見区の工業地帯に新火葬場を計画

こうした状況に対し、横浜市は火葬場空白地帯となっている“市東部”の鶴見区内新たな火葬場を建設することを決意。今年(2022年)1月には「都市計画審議会」で決定され、建設へ向けた手続きはほぼ完了している状態です。

京急・生麦駅から直線距離で約1.2キロの場所に「東部斎場(仮称)」を新設する計画(市の資料より)

場所は京急の生麦駅から直線距離で約1.2キロ、昭和初期に埋め立てられた鶴見区大黒町の工業地帯で、付近には大手企業の物流倉庫がひしめき、橋を渡った神奈川区側には日産自動車の横浜工場も置かれているエリア。周辺に居住する住民は見られません。

横浜市は同エリアに「鶴見区スポーツ広場」と名付けたグラウンドを持っており、かつて目の前を走っていた鉄道貨物線の線路跡を含め、神奈川産業道路(新興通り=県道6号)沿いに約1万1000平方メートルの建設用地を確保。

神奈川産業道路沿いは物流倉庫が多く、左側の建設予定地には貨物線の跡も残る(2月25日)

ここに火葬炉16炉を備えた「地下1階・地上4階」の建物を建設し、50人収容の葬儀式場2室と同20人用を1室、40人用の待合室16室、約10体の霊安室などを設け、地下には150台以上を収容可能な駐車場も設置する計画です。

「東部斎場」は2025年度に完成予定

北部斎場と同規模の設備を持つこの「東部方面斎場(仮称)」は、2025年度(2025年4月~2026年3月)に完成予定とし、すでに設計を担当する事業者も決定し、来年度には建築工事に入る方針です。

かつてこのあたりには「新興貨物駅」や、米軍施設跡を使った広大な「スポーツ広場」があり、現在は1面だけ残っているグラウンドと貨物線跡を建設用地に活用することになった(2月25日)

東部方面斎場へは、日吉駅から車で30~40分綱島駅からは25~35分と近くはありませんが、北部斎場へは両駅から車で40~60分(渋滞や高速道路利用の有無で異なる)を要することを考えれば大きな改善といえそう。

何より、現在の「北部」と「西寺尾」に加え、第三の選択肢が鶴見区内に加わることで、火葬の待ち日数を減らすことが期待されます。公共施設の不足が何かと目立つ市北部エリアだけに、人生の最後くらいは不安を無くしたいものです

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故人見送る「地域密着」の心とは、12周年迎えた経営者が語る日吉・綱島・高田の葬儀事情(2018年6月6日、地元葬儀者が語る事情)

【参考リンク】

横浜市「東部方面斎場(仮称)の整備について」(総合情報ページ)

横浜市「市営斎場のご案内」(市営火葬場の案内)


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