【独自研究:市長選候補(6)】学術界から政治へ、背負った期待(山中氏) | 横浜日吉新聞

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【市長候補の独自研究・第6回】8人もの候補者が乱立する横浜市長選(2021年8月22日投開票)。なんとなく名前は分かるけど、詳しい人となりはよく分からないという候補者一人ひとりの歩みや政策を独自に研究し、公式プロフィールに載っていない内容も含め、港北区在住のライター・田山勇一氏がまとめました。告示順に第6回は山中竹春氏(前横浜市大教授)の紹介です。

  • 本連載の元となる記事「<横浜市長選>実は名前程度しか分からない? 候補者8人の徹底研究を試みる」はこちらに掲載している
  • 誰もが情報を共有できるよう情報元はインターネット上に公開されているホームページやSNS、動画などの内容に限定した。市販されている書籍の内容も一部あり、その場合は出典元を記載した。また、街頭などリアルの場で見聞きしたことはその旨を記した。
  • 街頭で配っていたり、新聞に折り込まれたりしたチラシの類は情報源から外した
  • 候補者の選挙ポスターはコロナ禍で外出しなくても見られるよう、掲示板から接写して転載した
  • <筆者の感想・メモ>の部分など、本ページは筆者(ライター・田山)個人の見解と感想によって構成したもので、「横浜日吉新聞」や「新横浜新聞~しんよこ新聞」を代表するものではない(田山勇一)

山中竹春氏(前横浜市立大教授)

山中竹春氏の選挙ポスター、候補者番号(6)

【各種公開情報による経歴】1972(昭和47)年生まれ、48歳早稲田大学政治経済学部卒業、同大大学院理工学研究科修了。2007年、九州大学医学部附属病院助手。アメリカ国立衛生研究所(NIH) 研究員。2013年、国立がん研究センター部長。2014年、横浜市立大学医学部教授。専門は医療データサイエンス、2021年、市長選の出馬表明にともない横浜市立大を退職

<公式経歴以外の事項>

  • 早大の「政治経済学部」を卒業したこと以外には政治分野との関りが見られない経歴で、これまで一貫して医療分野を中心とした学術界に身を置いている
  • 横浜市立大のデータサイエンス研究科の教員紹介ページによると、文系学部から大学院で理系に移った理由として、「誤解を恐れずに申し上げれば、当方にとっては『データの出所が経済か医療か』だけの違いであり、『データに語らせて、その結果に基づき意思決定していく』データサイエンス的アプローチは共通だと考えていますし、そこには文系も理系もないのではないかと思っています」と説明している
  • 先ほどの紹介ページによると、早大大学院時代に数理のトレーニングを積み、縁あって九州大学医学部附属病院に就職したことを機に医療分野のデータサイエンスに取り組み始めたという
  • 2014年に横浜市大に転じてからは、横浜市(行政)と2016年に医療局と医療ビッグデータを使ってがんに関する医療実態の把握をしたり、2017年には消防局と救急需要を予測したりといった協業を行ってきた

<主な支持者(推定)>

  • IR(カジノ)に強い拒否感を持つ市民(住民投票を求める署名を行った市民など)
  • 市内の立憲民主党や日本共産党の支持層(市内選出の多くの市議、県議、国会議員も)

<主な政策・訴え>

  • 3つのゼロを目指す】「敬老パス」の自己負担(75歳以上)、子どもの医療費(0歳から中学生)、出産費用(基礎的費用)
  • 【IR】カジノ誘致を即刻撤回、断固阻止し、山下ふ頭の開発案「ハーバーリゾート構想」(国際展示場、滞在型ホテル、コンサート会場、エンタメ施設、給食センター、ワクチンなど医療品配給センター、水素エネルギーセンター、新物流拠点など)を実現
  • 【新型コロナ対策】政令指定都市トップレベルのスピードでワクチン接種を推進(データに基づくワクチン接種戦略の実施、24時間体制の接種体制の整備、在宅療養者向けの巡回接種など)
  • 【新型コロナ対策】検査の抜本的拡充(PCR検査/抗原検査重点拠点の設置、高齢者施設・病院・学校・保育園等への集中検査、下水道検査による感染集積地の特定と徹底検査・隔離)
  • 【子育て】出産、不妊・不育治療への支援の強化
  • 【子育て】待機児童・保留児童の解消、保育士の待遇改善、病児保育の充実、第2子以降の保育料の負担軽減
  • 【子育て】中学校給食は選択制をやめて全員が食べる方式(全員喫食)にし、給食費負担軽減
  • 【子育て】中学卒業まで所得制限なく医療費を補助
  • 【教育】習熟度向上のために科学的データに基づいた学力分析・学力向上プログラムの策定
  • 【教育】教員の増員、待遇改善等で働きやすい職場づくり・教員のレベルアップ
  • 【教育】英語教育の拡充(小学生低学年の教育プランの策定等)
  • 【教育】GIGAスクールを徹底して推進し、デジタル・AI時代を見据えた教育の充実
  • 【教育】いじめの防止・スクールソーシャルワーカーの配置拡充
  • 【教育】教育予算の拡充による教育内容の充実
  • 【教育】生活困難世帯への学習・就学支援の拡充により教育格差の解消(誰ひとり取り残さない教育)
  • 【教育】図書館予算の拡充と、新たな図書館の整備
  • 【教育】北綱島特別支援学校を分校から本校に戻す
  • 【医療・介護】介護職員の待遇改善、キャリア形成支援
  • 【医療・介護】医療情報の一元化による効果的な医療サービスの提供
  • 【医療・介護】二人主治医制(循環器病/糖尿病等専門医+かかりつけ医)の導入
  • 【医療・介護】買い物など地域での移動の課題を解消するため、コミュニティバス(ミニバス)や乗合タクシーなど、実証実験の結果も踏まえて様々な手段を検討し、地域交通を充実
  • 【SDGs】再生可能エネルギー、脱ガソリン車の加速化支援、蓄電池の普及、スマートメーター(電子式電力計)の普及促進に伴うエネルギーマネジメントの実現
  • 【SDGs】SDGsの達成に貢献するベンチャー企業の誘致・起業育成
  • 【女性活躍】市政への女性の積極登用(審議会委員へのクオータ制の導入など)
  • 【女性活躍】パパの育児休暇取得率の向上、家事・育児促進事業(パパと子どものコミュニケーション推進事業など)
  • 【市民参加】デジタル技術の活用と現場を重視した市民の声を直接聞く仕組みを創設
  • 【市民参加】民間の視点を取り入れた官民合同会議の設置による行財政評価
  • 【市民参加】区毎の地域特性に応じた区政運営を可能にするため、財源と職員の区配を拡充
  • 【市民参加】自治会、民生委員・児童委員、青少年指導員、スポーツ推進員などの支援を強化
  • 【デジタル化】市内中小企業のデジタル人材の育成・雇用支援
  • 【デジタル化】高齢者にやさしいデジタルサービス(音声、顔画像認識技術の活用)の創設
  • 【防災・減災】豪雨災害の激甚化など、風水害対策の充実のため、盛土の調査点検や崖地対策の速やかな実施
  • 【財政】現職市長が進める「新たな劇場整備(バレエ・オペラ劇場)」(615億円の税金投入)の中止

<筆者の感想・メモ>

  • 立憲民主党が主導し、IR反対を訴える候補者として擁立。政治分野は素人ながら、一貫して学術界に身を置いており、政治業界で言うところの(政党が擁立しやすい)“きれいな経歴”といえそう。ただ、横浜市出身ではないためか、大学以前の経歴を公式に明かしていないのは若干不自然か(特に問題のある経歴に見えないが。他県生まれというのを言いたくない?)
  • 山中氏が大学で働いていた際に“パワハラがあった”などとする記事を掲載した週刊誌に対し、同氏側は公式サイト上で取材の経緯や回答内容を公開し、事実無根の内容であると抗議している
  • 敵対する候補者が互いにスキャンダルや弱みを探してメディアなどへ流布するのは、政治の世界では常道とみられる面があり(こういう“永田町的”なところが政治不信を招くのだが)、当選の見込みの薄い候補者ならスキャンダルや弱みを探さないし、探す必要もないだろうから、山中氏の知名度がかなり浸透しつつある証左か。なお、政権与党側の候補者についても“怪文章”が出回っていると報じられている
  • 政策は野党側の「挑戦者」としてかなり多くの内容を盛り込んだ感がある。中学生までの医療費ゼロや新たな図書館整備など市民にとって嬉しい政策は多いが、市の財源が限られているなか、どのように実現していくかが課題か
  • 定数86人の横浜市会(市議会)で、与党的な立場になるのは「立憲・国民フォーラム」(20人)と日本共産党(9人)で過半数には届かない。議会をどう突破するかも考える必要がありそう
  • 現市長も最初は民主党(当時)が擁立したのに、いつの間にか自民党と公明党(両党で議会の過半数を占める)の候補者に変わっていた経緯もある
  • 新型コロナ対策の政策では、「24時間体制の接種体制の整備」「在宅療養者向けの巡回接種」などは具体性を感じた。コロナ対策は県や国が多くを担っているが、横浜市として独自に打てる手であり、現実味のある政策ではないか
  • 中学校給食は、立憲民主党系の会派が“一概にハマ弁をやめるべきとまでは言えない”などとして、現在の冷たいデリバリー型弁当給食を容認(議案に賛成)してきた経緯がある。小学校のように自校(または給食センター)で温かい全員給食を実現しようという考えはないのか
  • 北綱島特別支援学校を分校から本校に戻す」ことは港北区民の一人として大賛成(児童・生徒が増えているのに北綱島を「分校」としたことに何の意味があるのか)
  • <ネット上には無い情報>駅での街宣や広報展開を見ていると、新人(前衆院議員)と現職に割れてしまい党として一致団結した選挙戦が難しくなってしまった与党側の候補に比べ、立憲民主党が組織的に支え、共産党も後方支援する候補としてどこか勢いを感じ、候補者自身も選挙初挑戦ながら街などでの活動が板についてきたようにも見えた(選挙戦序盤には、声を出しすぎて出づらくなったこともあったようだが)。あとは票に結び付くかどうか

<公開情報一覧>

横浜市長選・候補者8人の独自研究

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