【独自研究:市長選候補(3)】覚悟の出馬、素直な思い伝わるか(小此木氏) | 横浜日吉新聞

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【市長候補の独自研究・第3回】8人もの候補者が乱立する横浜市長選(2021年8月22日投開票)。なんとなく名前は分かるけど、詳しい人となりはよく分からないという候補者一人ひとりの歩みや政策を独自に研究し、公式プロフィールに載っていない内容も含め、港北区在住のライター・田山勇一氏がまとめました。告示順に第3回は小此木(おこのぎ)八郎氏(前衆院議員)の紹介です。

  • 本連載の元となる記事「<横浜市長選>実は名前程度しか分からない? 候補者8人の徹底研究を試みる」はこちらに掲載している
  • 誰もが情報を共有できるよう情報元はインターネット上に公開されているホームページやSNS、動画などの内容に限定した。市販されている書籍の内容も一部あり、その場合は出典元を記載した。また、街頭などリアルの場で見聞きしたことはその旨を記した。
  • 街頭で配っていたり、新聞に折り込まれたりしたチラシの類は情報源から外した
  • 候補者の選挙ポスターはコロナ禍で外出しなくても見られるよう、掲示板から接写して転載した
  • <筆者の感想・メモ>の部分など、本ページは筆者(ライター・田山)個人の見解と感想によって構成したもので、「横浜日吉新聞」や「新横浜新聞~しんよこ新聞」を代表するものではない(田山勇一)

小此木(おこのぎ)八郎氏(前衆議院議員・前国務大臣)

小此木八郎氏の選挙ポスター、候補者番号(3)

【各種公開情報による経歴】1965(昭和40)年6月、中区生まれ、56歳。玉川大学文学部卒。小此木彦三郎衆院議員(建設大臣)秘書、渡辺美智雄副総理・外務大臣秘書官を経て、1993(平成5)年に旧神奈川1区から衆院議員初当選(自民党)。
1996年から小選挙区制の導入で神奈川3区(鶴見区・神奈川区)へ移る。通算8回当選。2009(平成21)年の衆院選では次点で落選し、2012(平成24)年衆院選で再び当選。2017(平成29)年に安倍晋三内閣時の国家公安委員長(国務大臣)、2020年から菅義偉内閣時の国家公安委員長(国務大臣)。自民党神奈川県連の前会長

<公式経歴以外の事項>

  • 1993年の初当選は、中選挙区時代の「旧神奈川1区」(中区・西区・港北区・神奈川区・鶴見区・緑区)で、1991年に死去した父親の小此木彦三郎氏の地盤を継いだ形だった
  • 小選挙区となって最初の1996年衆院選は、神奈川3区(鶴見区・神奈川区)に移ったが、選挙区では敗れ比例区(南関東)での当選となった
  • “民主党旋風”が起きた2009年の選挙では、比例区でも復活できず落選。この選挙で自民党は惨敗し、隣の選挙区(神奈川2区=西区・南区・港南区)の菅義偉氏でさえ民主党候補者に500票超差まで追い詰められ薄氷の当選だった
  • 2015年の産経新聞の報道によると、かつて石破茂元幹事長に近い議員グループの「重鎮」と評されたが、石破氏が結成した“派閥”には加わらなかった
  • 国会議員バンド(音楽ユニット)「Gi!nz(ギインズ)」のボーカル担当だが、現在は一時休止しているという

<主な支持者(推定)>

  • 鶴見区・神奈川区を中心とした衆院選挙区時代の支持者
  • 市内の自民党支持層(横浜市議36人のうち30人が支持、市内選出の多くの県議、国会議員も)
  • 市内の公明党支持層(市議らが小此木氏への支持を呼び掛けている)

<主な政策・訴え>

  • 【コロナ対策】新型コロナウイルス対策を最優先に行う。これまで以上に国や県と協力し、より迅速で着実なワクチン接種を行う
  • 【コロナ対策】新型コロナウイルス禍により、支援を必要としている全ての市民に寄り添い支えていく
  • 【コロナ対策】医療従事者の方々との更なる連携や協力体制を進め、今後あらゆるパンデミックに負けない地域医療体制、地域力の強化を図る
  • 【IR】今後の観光需要の回復も予測が難しく、横浜市では地域や市民の理解が十分に得られていないことから、IR(統合型リゾート)の誘致は完全に取り止める
  • 【大都市制度】これまでの衆院議員や国務大臣の経験を生かし、国任せではなく、地域の課題を国へ直言し、地域の声を届け、様々な課題の解決を実現していく。多様な大都市制度の早期実現を目指す
  • 【災害対策】老朽化した道路や橋、氾濫の恐れがある河川や港、がけ崩れの恐れがある急傾斜など、強靱化が必要なインフラの整備や改修を早急に進めるなど、真に災害に強い都市、防災最先端都市を目指す
  • 【成長戦略】横浜版の「成長戦略・規制改革推進会議」を新設し、前例にとらわれない新たな成長戦略を策定する。一例をあげれば、ワクチンや新しい薬の開発や、自動運転技術やドローン技術の実証実験などだ
  • 【医療】子どもの医療費はできる限り無償化する
  • 【教育】北綱島特別支援学校を元の学校に戻し、特別支援学校の体制を強化する
  • 【企業誘致】国に新設される「デジタル庁」の将来的な横浜誘致やデジタル関連産業の集積を図る
  • 【環境問題】策定する横浜版成長戦略とも絡め、脱炭素イノベーションを強力に推進し、本気で脱炭素都市・横浜の実現を目指す
  • 【その他】今、優先すべきは新たな劇場整備ではない
  • 【その他】「区民文化センター」を全区に設置する
  • 【その他】「地域のつながり」を深め、「街並み」を大切にする横浜を目指す。都市農業が作り出す「風景」も横浜の大切な「街並み」のひとつだ

<筆者の感想・メモ>

  • 菅内閣の閣僚であり、神奈川県の自民党代表という立場でもあるなか、それらを投げうって立候補を表明した。ホームページやSNSの記載内容だけでは、立候補やIR取り止めに至る経緯がいまいち分かりづらい
  • 地元のtvkが「告示第一声」を収録した15分超の映像をサイト上に公開しており、そのなかでは、以下のような経緯が語られていた

<8月8日の小此木八郎氏による第一声の概要>

▼ 街頭で(市民と)話をすると、4割は本当に(IRを)止めるのか、と疑いの目で見ている。「どうせ菅さんと結託して、当選してほとぼりが冷めたらもう一回やり直すんだろ? 前の人がそうだったじゃないの」、これが有権者の正直な思いではないか
自分はIRを合理的な観光政策として推進してきたが、しかし市民からは異や不安を感じてきた
横浜市長選については、今年1月から菅総理に正直な思いを話してきたが、この時点で自分が出馬するとは思いもしなかった。しかし5月中旬になるまで新しい候補者が見つからなかった。5月24日の朝に(自ら出馬を)決意して、その日の夜に菅総理に自らの思いをぶつけた
IRを進めてきた張本人が閣僚の一人として止めるというのだから、決裂を覚悟して総理に言った。もともと(総理は)愛想の良い人ではないので、さらに顔がこわばって怖い顔だったが、分かっていただけた
“ハマのドン”とメディアが作った言葉で呼ばれている(山下ふ頭との関係の深い)藤木幸夫会長は、私から言えば横浜とミナトを愛して汗をかいてきた“ミナトのおじさん”だ。(藤木氏がIRについて)山下ふ頭以外ならどこでも良いとおっしゃっているが、私は違う。横浜ではIRをさせない、横浜ではIR政策は採用しない
藤木さんと菅さんの話をすればメディアは喜ぶが、こんなに面倒な話はないし、この話だけは横浜市民に何の関係もないといって過言ではない。本当に大事なのは、IR取り止めを実現して、その後の横浜の姿をどう作るかだ
覚悟の一つとして、この選挙に失敗すればもう政界には戻らないと決めている。心のなかはすっきりしている
28年も政治家やっていれば「しがらみ」は多い、もし誰かに相談すれば「よしておけ」と言われるだろう。誰にも相談できなかった。女房にも言えなかった。今、ゆっくり説明しているところだ

  • 筆者個人的には「告示第一声」を小此木氏の正直な思いや決意として受け止めることができたが、現政権や政治(政治家)自体に不信を持つ人には、ストレートに受け取れないかもしれない
  • 自民党の横浜市議らも候補者の覚悟に共感したから、36人中30人が支持するに至ったのではないか(当然「勝ち馬」に乗ろうとする人もいるだろうが)
  • なお、横浜市内の自民党は、林文子現市長を支持する市議(6人)もいることから、「自主投票」を決めており、市議らは政治家個人の行動としてを支援していることになっている
  • 政権与党(林市政でも自民党は与党)ということもあり、現実を分かりすぎているためか、政策自体にはあまりインパクトは感じられなかった
  • 横浜版「成長戦略・規制改革推進会議」(脱炭素イノベーションの推進含む)の新設や、国に新設される「デジタル庁」の将来的な横浜誘致などは小此木氏ならではといえそう
  • 北綱島特別支援学校を元の学校に戻し、特別支援学校の体制を強化する」ことは港北区民の一人として大賛成(児童・生徒が増えているのに北綱島を「分校」としたことに何の意味があるのか)
  • 有力候補ではあるが、現政権の一員だった人であり、政権与党にいる議員も多くも支持していることで、選挙では政権批判をもろに受けてしまいかねない懸念がある
  • 政権とのパイプは重要ではあるが、国政と市政は違うものだから、横浜市政に政権のしがらみを持ち込ませない運営も重要ではないか
  • <ネット上には無い情報>候補者の思いを伝える録音音声(2分超)を無作為(だと思われる)の電話番号に自動発信する活動を行っていたが、電話では声がより低く聞こえ(候補者を知らない人なら少し怖いかも)、声だけ聴くとすごく年を取っている人のように想像してしまった(実際は56歳)。コロナ禍なので、こうした“プッシュ型活動”もやむを得ないのかもしれないが、候補者の雰囲気を詳細に伝えるため動画発信にも注力したほうが良いように思えた

<公開情報一覧>

横浜市長選・候補者8人の独自研究

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