東急(東京横浜電鉄)開業から5年後、1931(昭和6)年に、日吉駅近くに生まれた薬局がありました。
東急東横線・地下鉄グリーンライン日吉駅西口から徒歩1分、日吉中央通りにある「日吉堂薬局」(日吉本町1)が、きょう(2021年)3月18日、創業から90周年を迎えています。
日吉の地に鉄道が敷かれたのは1926(大正15)2月。慶應義塾大学日吉キャンパス(日吉4)が開校したのは、用地を東京横浜電鉄から寄付された1930 (昭和5)年2月から4年後の1934(昭和9)年4月。
埼玉県児玉郡(当時)の造り酒屋に生まれた創業者の故・相沢繁さんは、東京薬学専門学校(現在の東京薬科大学、当時は東京新宿区)を卒業し薬剤師に。
「1931年の創業時は、日吉駅の周辺に、何も(お店が)なかったと聞いています」と、現在、同店を継ぐ4代目の相沢淳さん(株式会社日吉堂薬局社長、日吉本町1)は話します。
当時は、日吉台小学校(同)にも近い場所に約500平方メートル近い土地を取得し、薬局を開局していたといいますが、1945(昭和20)年4月の第二次世界大戦でのアメリカ軍による空襲で、薬局は同小学校とともに焼失するという悲劇に見舞われたといいます。
その後、日吉中央通りで和菓子店を営む先から、廃業に伴い「土地を交換」するかたちで現在地に移転。
早逝した創業者・繁さんの妻で故・芳(よし)さんが跡を継ぎ、2代目として経営していたと淳さんは説明します。
薬剤師の4代目・淳さん、「製薬会社」時代から家業を継ぐまで
日吉駅前の歴史とともに歩んできた日吉堂薬局。「かつては開局にあたっての距離制限などもあり、周辺には薬局はありませんでした」と淳さんは、開局からしばらくの期間の歴史を振り返ります。
「子どもの頃の記憶をたどると、『何でも屋』といった様相もあり、お正月三が日もお店を開けているなど、家族で旅行なんて、夢のまた夢。“お店をやっている家庭に生まれた”ことが嫌でたまりませんでした」と、幼少期、そして青春時代に至るまでの想いについても説明する淳さん。
それでも、「薬剤師になろう」と淳さんが決意したのは、高校時代の時。
祖父・繁さんと同じ東京薬科大学(東京都八王子市)に通うため、故郷・日吉を離れて東京都内へ移り住んだといいます。
薬剤師国家試験に合格し、晴れて薬剤師免許を取得したものの、「実家は継がないつもりでした」という淳さんは、大手製薬会社のエーザイ株式会社(東京都文京区)に就職。
病院などに薬に関する情報を提供するMR(Medical Representatives)職として17年間従事。愛知県名古屋市、福島県の拠点への赴任も経験するなど、多忙な日々を過ごします。
「多くの医師の先生方とも接し、医療現場でどういった薬が求められているのかを学ばされる日々でした」と淳さん。
より多くの薬に関する情報を学びながら、“薬のプロフェッショナル”として、今につながる「現場の医療に役立つ薬を提供する秘訣」を学ぶことができたと、MRとして活躍した当時について語ります。
しかし、父で昨年(2020年)2月に他界した、1994(平成6)年から事業を継承していた3代目の故・善雄(ぜんお)さん、2018(平成30)年に既に逝去した母の故・康子さんに、当時、家業について「私たちも、もうしんどくなって」と言われたこともあり、淳さんは会社を退職し、実家に戻ることを決意。
今から約18年前の2002(平成14)年に、善雄さん、康子さんとともに「株式会社日吉堂薬局」を設立した淳さんは、2014(平成26)年には社長に就任し4代目に。
まさに「故郷」のこの街・日吉で、社長、そして管理薬剤師としても活躍する現在までの歩みについて、しみじみと、また懐かしそうに言葉を選びながら振り返ります。
日吉の老舗「かかりつけ薬局」としてさらなる地域貢献を志す
「ふるさと」日吉に戻ってきた相沢さんが感じたのは、地域に根差した「かかりつけ薬局」の大切さ。
日吉堂薬局で勤務をスタートすると、「あら、淳ちゃん」と声をかけてくれる人も多く、「自分の子ども時代を知っている人たちがたくさんいるのがとても嬉しく、また安心感も感じました」と、少し恥ずかしそうに、当時のエピソードを振り返る淳さん。
現在、横浜市港北区薬剤師会の副会長も務めていることもあり、「規制の緩和などもあり、全国系などのドラッグストアが、これまでの個人経営の薬局より圧倒的に数が増えてきていることも気になっています。独立開業することも大変な時代と感じています」と、地域周辺での薬局を取り巻く環境が変わってきていることについても言及します。
地域を知る薬剤師として、日吉台小学校の学校薬剤師を務めるばかりでなく、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も考慮してのキャッシュレス決済や「オンライン」での調剤予約対応にも取り組んでいるといい、「ホームページの刷新やLINE公式アカウントの開設も計画中です」と、“地域のかかりつけ薬剤師”としてもより大切になると感じるITツールのより一層の活用にも視線を置いているといいます。
地元出身者としてより力を入れてきた「地域包括ケアシステム」における薬局の役割の強化を目指し、「国が求める、関連法規の定める『地域連携薬局』(2021年8月施行予定)も目指します」と淳さん。
地域の医師会や歯科医師会、訪問看護ステーションや介護事業所、地域ケアプラザなどとの連携や、こども「110番のみせ」としての地域貢献、災害時の「地域防災拠点」への薬の配達や、新型コロナ予防接種の対応にも協力する予定とのこと。
「薬の在庫も常時3千品目を用意し、毎月300カ所以上の処方箋もお預かりしています。薬に関するお困りごとなどがあれば、“お近くのかかりつけ薬局”としてぜひお立ち寄りください」と、淳さん、同薬局の薬剤師・スタッフは、90周年を迎えた“老舗薬局”としての使命、そしてその役割を、日々変わりゆくこの街で果たしていく考えです。
【参考リンク】
・日吉堂薬局のサイト(株式会社日吉堂薬局)※2021年4月以降にリニューアル予定
・写真が語る沿線(とうよこ沿線のサイト)※日吉堂薬局が創業した頃の昭和初期の日吉地区の写真を掲載