日吉のイメージを象徴するとも言われる老舗文具店が縮小移転します。日吉中央通りで1947(昭和22)年に創業した「井口文華堂」(日吉本町1)が、来月(2018年3月)中にも同通りに面した現在の店舗を閉鎖、隣接する裏手のスペースに移り、4月上旬にも再オープンを予定しています。
このため、現店舗内にある一部を除いた商品を50%引きで販売する「在庫セール」をきょう2月26日(月)から実施、「3月末日まで販売する予定のたばこ以外の商品は、3月中旬にも販売を終了する予定」だといいます。
新店舗では、現在も扱うたばこ商品や、京都発祥の和紙や和文具を扱う「鳩居堂(きゅうきょどう)」、高品質の紙製品を謳(うた)うG.Cプレス(東京・銀座)、イタリア・トスカーナ地方のカルトス社から直輸入しているレターセットやペーパー商品などの販売を行う予定とのことです。
新店舗の入口が、中央通りから少し入ったTSUTAYA(ツタヤ) 日吉中央通り店(日吉本町1)側の左手奥となり、2階での営業となることから、「目立たないところで、わかりにくい場所が店舗入口となりますが、これからも引き続き来店いただけたら」と、同店では移転後の来店も呼び掛けています。
中央通りに面した創業の地から移転、「飛ぶように文具が売れた」時代も
戦後間もない日吉の街の歴史を支えた貴重な店舗として知られる同店は、創業者の故・井口茂さんが現在地で「和洋」の紙や文房具、事務用品、たばこを扱う「文華堂紙店」として事業を開始。現在の経営者の牧新生さん(有限会社井口文華堂・代表取締役)が1970年代の始め頃から経営に参画し、茂さんの娘の節子さんらと共に同店の歴史を創ってきました。
1980年頃になると空前のサンリオ・ブームが到来。地元不動産店に貸していた2階スペースを提供してもらえることになり、店舗を拡張。「飛ぶようにサンリオ・グッズが売れたんです。箱を開けたら、周りにお客様が集まる、そんな状況でした」と、サンリオの本社にまで出向いたこともあったと節子さんは当時を懐かしみます。
日吉駅上に日吉東急百貨店(現在の日吉東急アベニュー)が1995年にオープンした影響で、多くの店舗が打撃を受けたといわれる駅前商店街ですが、井口文華堂は逆に「店舗を増床し、逆に攻めの姿勢で経営しました。文具も飛ぶように売れた時期があったんですよ」と、“逆風に負けない”日吉になくてはならない文具店としての地位も強固にしていきました。
以降も、一般的な文具・事務用品のほか、高級和紙や輸入文具、手帳やレターセット、和文具、外国産や加熱式のたばこなど、「日吉の街」を象徴するかのような、通常では“手に入りにくい”こだわりの商品を揃(そろ)え、店舗レイアウトや内外装も木目調や煉瓦(れんが)作りにアレンジするなど、あたかもヨーロッパの郊外の家にいるかのような風情を演出してきた同店。
多彩な商品数と佇(たたず)まいは、学生をはじめ、地域の人にも根強い支持を集めてきました。
しかし、「時代の流れで、事業を縮小することになりました」と節子さん。アマゾンなどのネット通販の隆盛や、日吉東急でも文具類を扱う店が増えたという影響のほか、「同世代の友人たちからは、“まだ働いているの?”と言われるんですよ」と、自身らの年齢的な問題も背景にはあると語ります。
日吉駅前では、昨年(2017)年12月に「喫茶まりも」(日吉2)が、また今月15日にも同じくサンロードの喫茶店「コロラド日吉店」(同)が閉店するなど、老舗店の閉店が相次ぎ、今月末には、浜銀通り近くのレストラン「マリーン」(日吉2)が営業を終えるなど、特に慶應義塾の学生らに長年親しまれてきた店の数々が歴史の幕引きを行っています。
「インターネットとの販売競争には勝てませんでした」と社長の牧さん。そうした時代背景と、新たな業態を求める消費者ニーズの多様化は、中小商店の経営をより厳しくしています。
老舗の閉店や縮小があまりに相次いでいる日吉駅前。「日吉の街ぐるみ」で、中小企業経営者への事業の継承に対する支援や、一層の商業活性化に向けた対策強化が必要です。
【2018年2月27日追記】
【関連記事】
・老舗の閉店続く日吉駅前、浜銀通り近くのレストラン「マリーン」も2月末まで(2018年2月14日)
・<閉店が相次ぐ日吉駅前>肉バル・薬局・花店・喫茶店・高級レストランまで10店以上(2018年2月2日)
【参考リンク】
・ひよしたうん~井口文華堂(日吉商店街WEBSITE~日吉商店街協同組合)
・写真が語る沿線~日吉駅西口の変遷「昭和25年新潟の家屋を移築した店」(とうよこ沿線のサイト)※創業者・井口茂さんが提供したという写真を掲載