横浜市のホームページに「市民の声」というコーナーがあるのはご存知でしょうか。市民から寄せられたさまざまな意見や要望、提案、苦情に対し、横浜市側からしかるべき回答を行うもので、毎月数百件のやり取りが公開されています。
これらのなかには、その通り!と思える提案や意見がある一方で、一体これはどういう意図があるのか、と考えてしまう内容もあります。そんな一つひとつを読んでいくと、日吉や綱島、高田または港北区の“世論”をはじめ、街で何が起こっているのかの一端が見えてきます。いくつかご紹介してみます。
なお、質問内容と回答が長い場合は、趣旨のみを記載しました。市が発表している全文はリンク先(日付の部分をクリック)をご覧ください。
なぜ区に1館?箕輪町の再開発地に図書館併設を
【住民】なぜ横浜市は各区に1館しか図書館がないのか。箕輪町の再開発地(アピタ跡地などの「野村不動産日吉複合開発計画(仮)」)に図書館の併設を希望します(2015年12月)
【横浜市】現状ではお金がないため難しい。
地元民としては拍手をおくりたくなる意見ですが、図書館に関する要望は多数寄せられています。一例をあげると、「都内では最新のコンセプトをベースにしたすばらしい公共図書館が続々とできている。大倉山に図書館を新設してください」という内容です。もちろん市の回答は「お金がない」。
こうした状況に対し、「図書館の新設が困難である理由に納得できません」と題して8項目の質問を投げかけた人もいます。
これに対する回答によると、2012年度のデータで約3兆2905億円にのぼる横浜市の予算のなかで、図書館にかけている予算はわずか約15億円(うち資料費は約2億円)だそうです。
回答欄に示されていた資料(PDF)を読んでみますと、図書館運営にかかる図書館費は横浜市民1人当たり425.9円で全国に20ある「政令都市」中(東京都は入っていません)で下から5番目(最下位は新潟市の217.3円、トップは浜松市の905.5円)ですが、資料費(図書購入費)は56.5円でワースト2(最下位は札幌市の55.3円、トップは熊本市の314.5円)。市民1人あたりの蔵書数は1.1冊で、こちらは見事に最下位ということになっていました。このあたり、回答を担当した図書館担当者の”声なき声”が読み取れます。
みなとみらいに多くの予算を割かず日吉に
次の質問と回答は、保存期間が過ぎたのか市のデータベースから消されていましたので、見つけた時のまま掲載します。
【住民】日吉駅前の歩きたばことポイ捨てはひどい状況です。日吉駅前の住宅地は市内で1、2を競う高級住宅です。みなとみらいや湾岸地域に多くの予算を割かずに、高い税金を払っている人が住んでいる高級住宅地を未来都市として輝かせてください(2015年2月)
【横浜市】今後に向けて、地元自治会町内会や資源循環局とも調整し、可能な限りの対応をしてまいります。
「みなとみらいや湾岸にばかり税金使うなら、日吉に使え」。この部分で思わずうなずいてしまいました。みなとみらいに超高層ビル市庁舎を建てるお金があるのなら、市内全体の図書館にお金を割いてくださいよ、とも思ってしまいます。
日吉駅前のタバコ問題に関しては、「ポイ捨てがひどいので日吉駅でも灰皿の設置などを行うべき」との声もありますが、横浜市としては「喫煙者を誘引したら、また苦情が来る」といった趣旨から否定的です。
そんな一例として、港北区役所の片隅の目立たない場所に小さな古い灰皿が一つ置いてあるのですが、それに対しても定期的に苦情(一例)が寄せられている現状がありますので、やむを得ないのかもしれません。市はその後、日吉駅前に横断幕を設置して啓発するという対策を行っています。
新綱島駅周辺のまちづくりは時期尚早では
【住民】新綱島駅は、東急東横線の綱島駅と近く、まちづくりが望めません。新綱島のまちづくりの検討は時期尚早ではないか(2015年9月)
【横浜市】まちづくりは、地権者の機運をとらえる必要があり、地権者の合意がとれた今がその時期なので行うことになった。ご理解ください。
綱島駅周辺の環境に関しては「何とかしてほしい」という声は多々寄せられています(例1/例2/例3)が、「まだ早い」という言うのはめずらしい意見です。おそらく「綱島東口周辺の問題が片付いていないのに、先に新綱島をやるのは違うのではないか」というのが質問の趣旨だと思われます。
ただ、地権者の多い東口の開発を待っていたら、新綱島の開発がいつになるか分からない現状があるので、横浜市としてはできる部分から手を付けていき、徐々に東口の改善に迫っていく、という方針のようです。
一方、綱島街道を含めて、綱島周辺の狭い道路に関しても「何とかしてほしい」との声が目立っていました。(例1/例2)
急な坂が多い高田町にコミュニティバスを
【住民】高田町は急な坂が多いため、高齢者や子育て中の方は苦労しています。地域にコミュニティバスがあれば助かります(2015年11月)
【横浜市】横浜市では運行経費の赤字分を補填するコミュニティバス運行は行っていないが、地域が主体となり、新たな交通サービスの実現に向けて取り組む場合はサポートする用意があります。
急な坂が多い高田ならではの意見です。高田町内は広い割にはバスが少なく、日吉駅へ向かう路線が日中1時間に2本運転されているだけです。急坂となっている所ほど道路が狭く、実際にバスを運行するのは難しいのかもしれません。
たとえば、日吉駅から井田病院やさくらが丘へ向かうバスがあり、ここは狭い急な坂道を通るために小さなバスで運行して好評を得ていますが、これは非常にめずらしいケースです。川崎市議会でも「うらやましい。川崎市バスでもできないのか」といった声が出ているほどです。
行政が主導する小型のコミュニティバスは全国さまざまな街で運行されていますが、既存路線バスの客を奪うくらいに大盛況だというのは日本中探しても東京中心部くらいと言われていますので、「財政難」の横浜市としては自らコミュニティバスを主導することに消極的なのでしょう。日吉周辺でさえ、スーパーが撤退して高齢者を中心に“買物難民”になりかねない状況ですので、超高齢化社会へ向けて不安なところでもあります。
隣の家でゴルフクラブを振り回す音がうるさい
【住民】隣の人が狭い庭でゴルフクラブを振り回しうるさい。ゴルフ場でやってくださいと、役所から通告してください(2016年3月)
【横浜市】個人住宅から発生する生活騒音については、法的な規制がないので、直接または町内会などを通じて話し合いをお願いしたい。なお、騒音測定器の貸出しは行っているので、希望する場合はご連絡ください。
もしかしたら、「近所でもあるある!」な声かもしれません。ちなみに昼間50~70、夜間40~55デシベル(dB)を超えるような音は生活騒音であり、配慮すべきとの横浜市の指針がありますが、強制力や罰則はありません。(生活騒音防止に関する配慮すべき指針<pdf>)
日吉駅の多機能トイレ内で飲食する人がいる!
【住民】地下鉄グリーンライン日吉駅の多機能トイレに「残飯を捨てないように」という張り紙があった。監視カメラを付けることを検討し、対象者以外は使用禁止にしてほしい(2015年8月)
【横浜市】トイレ内で飲食をしているお客様がいたことから掲出しており、そのような行為を見かけた際には必ず注意している。引き続きマナー啓発に努めます。
トイレ内で飲食する・・・なんとも衝撃的な話ですが、実際に起こっているから市交通局でも貼り紙を行っているようです。
ただ、横浜市営地下鉄も東急電鉄も「テロ対策のため」として、ごみ箱を撤去したまま長い月日が経っています。一番狙われやすいはずのJRや東京メトロなどは置いているのに、横浜市営や東急が置かない理由は、経費節減なのかと勘ぐりたくなります。
だからと言ってごみをトイレに捨てるのは言語道断です。
横浜で「夕焼け小焼け」が聴こえない理由
【住民】東日本大震災時、他都市による津波警報がスピーカーから聞こえたが、横浜市では、そのようなスピーカー放送のための運用はしているのか。下田町は河川に近い地域ですが、屋外スピーカーを整備していますか。防災情報を伝達する屋外スピーカーを全域に整備してください(2015年10月)
【横浜市】津波で浸水が予測される区域には屋外スピーカーを利用した津波警報伝達システムを整備しているが、下田町は浸水が予測される区域ではないため設置していない。横浜市は地形は起伏が激しく、電波や音声が伝わりにくいため効率的な設備の配置が難しいことや、住宅の密閉化が進み屋外の放送が聞こえない可能性が高いなどから屋外スピーカーは全域に設置していません。
夕方になると、多くの都市では防災無線のスピーカーから「夕焼け小焼け」の音楽が流れることがありますが、横浜市では流れてこない理由はこんなところにあります。
この「市町村行政防災無線」の導入率は全国の自治体で77.1%(2013年)となっており、神奈川県内でも93.9%にのぼっていますが、横浜市は独自の理由から導入していません。地形はともかく、住宅の密閉化が進んでいて聴こえづらいのは、都内を含め他都市も同じだと思うのですが……。
ここでは図書館の時にあげられたような「お金がない(財政難である)」という“横浜市お馴染み”の理由はあげられていませんが、日本最大の370万自治体であるため、一気に全域で導入をするのが難しいのかもしれません。このあたり、中学校の給食未実施につながるものを感じます。「人口が多い割にはお金が足りない」ということなのでしょう。
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以上、横浜市に寄せられた「市民の声」から日吉や綱島、高田に関係の深い内容の一部をご紹介しました。こうした声と回答をきちんと公開しているという面では、情報公開に積極的な「横浜市らしさ」といえます。今後も定期的にこちらで紹介していきます。
【関連記事】
・日本一の人口持つ“仮想自治体”港北区、政治への反映欠如が行政サービス低下に?(2015年12月25日)
・日吉と綱島の風景が一変する5つの巨大再開発、2016年5月の最新動向をまとめました(2016年5月22日)
【参考リンク】
・「市民の声」の公表(横浜市)