慶應の体育会学生らに“感謝” の想い、日吉で28年親しまれた関西うどん「松や」が閉店 | 横浜日吉新聞

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日吉駅前の商店街で、数少ない「関西うどん」の名店が惜しまれて閉店しました。今月(2017年)12月17日で、28年間余りの歴史を閉じた、関西うどん・そば処「松や」。今月に入ってから店内で閉店を告知してからは、連日多くの常連客が殺到、店前に列ができた時もあるほどに、名残を惜しむ人々で賑わいました。

関西うどん・そば処「松や」を日吉駅近で28年間経営してきた松田さん夫妻。日吉での経営は苦労の連続だったという(2017年12月18日撮影)

関西うどん・そば処「松や」を日吉駅近で28年間経営してきた松田さん夫妻。日吉での経営は苦労の連続だったという(2017年12月18日撮影)

「閉店後なら」と、日吉で店を構えた当時、またそれ以前の、蒲田で起業した当時について語ってくれた店主の松田昭雄さん(川崎市在住)。日吉に来てから「半年で、蒲田から一緒に来てくれた職人が辞めてしまったんです」と、苦労の連続だったという起業してからの両店での半世紀もの年月、そのうちの日吉での28年間も振り返ります。

松田さんは、実は慶應義塾大学体育会野球部のOB。「お世話になった学生の皆さんに恩返しもしたく、店を辞めてからは、今まで以上に、アメフト、ラグビー、そして野球など、学生たちの試合を見に行こうかな」と笑顔で語ります。

「日吉で商売をするのは難しい」と感じた日々、そして体育会の学生たちが「店のピンチを救ってくれた」こと。遠い日々を懐かしむ松田さんの言葉には、この街「日吉」の学生街らしいエピソード、そして数々の想い出が込められていました。

会社員を「3年で」リタイア、2週間の修業後に“蒲田”で開業

松田さんは東京都大田区育ち。慶應義塾大学商学部に入学、学生時代は野球部で汗を流し、卒業後は貿易会社へ就職。しかし「経営者の息子さんと大喧嘩をして、会社を飛び出してしまいました」と、3年間の“サラリーマン”時代に決別。父親の知り合いの新宿のうどん店で、「わずか2週間でしたが」“修業”したといいます。

閉店を知らせる案内が、12月からレジ付近に掲示されていた。松田さんは慶應義塾大学卒。経営を支えてくれた同窓生、後輩たちへの想いを、閉店のメッセージに添えていた

閉店を知らせる案内が、12月からレジ付近に掲示されていた。松田さんは慶應義塾大学卒。経営を支えてくれた同窓生、後輩たちへの想いを、閉店のメッセージに添えていた

「幸い、職人さんも引き抜くことが出来て」蒲田で起業。東急線も乗り入れていた東急プラザ別館、今の「くいだおれ横丁」で、今から約半世紀前の1960年代後半に、うどん・そばを扱う「松月庵」を開業します。

海老の調理の仕方も、隣のとんかつ屋さんに教えてもらうほどの、素人スタートでした」と当時を笑って振り返る松田さん。高度成長期という時代背景もあり、はじめこそ苦労をしたものの、「やればやるほど売り上げがあがりました」と、結果、順調に売り上げを伸ばすことができた当時を懐かしみます。

しかしながら「独立を支援してくれた父が亡くなってしまって」これまでの店を実兄に託し、新天地を探すことに。「様々、物件を探していたのですが、“学生時代から縁があった”こともあり、日吉での開業を決意したんです」と、当時既に“懐かしかった”というこの地を選んだ理由を説明します。

姉の占いで「松や」と命名。手打ち「関西うどん」は試行錯誤で完成へ

「姉が占ってくれて」命名したという「松や」は、1990(平成2)年4月に晴れてオープン。ところが、またもや開店後に試練が。蒲田時代から共に店を支えてくれた職人が、半年後の10月に退職してしまったというのです。

「関西うどん」を提供するきっかけは両親が兵庫県出身だったこと。日吉に来てから、より良い味を提供したいとうどんの手打ちをはじめたという(2017年12月11日撮影)

「関西うどん」を提供するきっかけは両親が兵庫県出身だったこと。日吉に来てから、より良い味を提供したいとうどんの手打ちをはじめたという(2017年12月11日撮影)

いよいよ1人になってしまったと感じた松田さん。「どうすればよいか」と悩み、迷った上、選択したのは、父も母も兵庫県出身ということもあり、思いついた「うどんを手打ちする」という道。

「蒲田では、製麺所に麺は発注していたのですが、ここ日吉では、麺も手打ちで行うことにしたんです」と、店名にも「関西うどん」と、両親のふるさとの地名を冠することに恥じない手打ち麺を作ろうと決意。

また、妻の親戚が蕎麦(そば)店を経営していたこともあり、“自分も挑戦しよう”と、試行錯誤を繰り返し、日々改良を加えながら、松田さんならではの「手打ちうどん」を完成させていったといいます。

「それはもう、はじめはひどいものでした」と、その道のりを振り返り、またも笑顔で語ります。

日吉で商売をする“難しさ”救ったのは「慶應の体育会系」学生たち

「松や」がオープンした頃は、「こんなにも日吉の駅近くは発展していませんでした。今でこそ、こんなにも人で賑わっていますが」と、当時を振り返る松田さんが強調するのは、「日吉で商売をする難しさ」。「学生がいなくなると、街は閑散としてしまう。夏休み、冬休み、そして長い春休みがあると、今も人が減ってしまうでしょう」と、高度成長期、サラリーマンや工場労働者らで賑わった蒲田と比べると、断然に商売が難しい土地と感じたといいます。

さらには「その割には家賃も高い。物件を持っている人なら別でしょうが、賃貸で起業するにはとても大変な場所なのです。今では、うどん店やそば店が、個人商店で開業するところもないでしょう。日吉の街が大手チェーンの飲食店ばかりになってきているのも、そういった事情があるのではないでしょうか。私たちも、それはもう、本当に商売が大変になってしまって」と、“とにかく大変だった”という「松や」での28年間を振り返ります。

体育会の学生たちは、「どんどんご飯ものと麺類のセットを注文してくれた」と、大盛りサービスを厭(いと)わず始めたことが経営改善につながったと松田さん(2017年12月11日撮影)

体育会の学生たちは、「どんどんご飯ものと麺類のセットを注文してくれた」と、大盛りサービスを厭(いと)わず始めたことが経営改善につながったと松田さん(2017年12月11日撮影)

最も大変だったという5、6年前のこと。学生が街から消える長期休業期間中に、突然やってきた慶應義塾大学の体育会アメリカンフットボール(アメフト)部の学生たち。

「ある日、大きな体の4人組に、“大盛りでお願いします”と言われたんです。つい『君たちには、サービスするから』と、大盛り無料で対応してしまったんです。それがあっという間に、体育会系の皆さんに広まってしまって。もう、後には引けない、と」と、麺類と、ご飯ものを“両方”頼んでくれる学生たちに驚き、“利益うんぬんより、とにかくいっぱい食べてもらいたい”という思いになってしまったという松田さん。

「けれど、これが結果的には、店の命運を分けることになりました。どんなに静かな日でも、体育会系の学生さんたちが、いつも店を埋めてくれるようになったんです」と、正に「学生街で、学生が不在なのに、学生に救われた」日吉ならではの出来事が、店の“繁盛”という結果に結びついたというのです。

これも、大学や高校自体は長期休暇中でも、体育会が日々活動を行う場である日吉ならではといえそうです。

閉店を決断、地域の常連客にも愛され、最後は「花束の山」が

そんな「松や」の閉店を決断したのは、今年の春頃だったと松田さん。

「もう自分も76歳になりました。元気なうちにリタイアし、これまで出来なかった旅も妻と2人でゆっくりしたいと思ったんです。朝から晩まで、毎日大変でした。妻とどこかに旅するというようなことも、全く出来なかったので。早く決断しなければと思っていました」と、店を閉じることになったのは“年齢”、そして“今年いっぱいまで”と、最終的に決めた理由を説明します

既に懐かしい景色となってしまった、関西うどん・そば処「松や」の外観(2017年12月11日撮影)

既に懐かしい景色となってしまった、関西うどん・そば処「松や」の外観(2017年12月11日撮影)

「こんなに毎日立ち仕事でも、全く体は悪くないんですよ」と笑う松田さん。「日吉では、2人職人を雇うということはとても大変なこと。“親父店主”でなくてはね。これまであった蕎麦店、寿司店もずいぶんなくなってしまった。子どもたちにも、この厳しいお店を継がせるのはね」と、同店を誰かに継承する難しさも日々感じていたとのこと。

学生だけでもダメなんです。一般の人にも支持されなくては」と、学生に救われながらも、地域の常連客に愛された同店らしく、閉店の告知後は常連客を中心にひっきりなしに人が訪れ、「最終日には、花束の山ができていました」と、再び笑顔を見せる松田さん。

同店の「家庭的な」優しさあふれる雰囲気からか、学生や地元の常連客の心をしっかりとつかんだ松田さんたちへの「さよなら」を涙で告げた人もいたという閉店の日。

「これからは家庭を第一に生きていきたい」と語る松田さんに、お世話になったという体育会の試合会場や、旅先でくつろぐことができる日々が無事訪れることを祈りながらも、「松や」ならではの味わいや店の風情を懐かしみ、閉店を惜しむ思いが、おそらく常連客の心の中に“いつまでも”続いていくことは間違いなさそうです。

(※)本記事の記載内容につきましては、複数の読者の方より情報提供をいただいたことがきっかけとなり、取材を行いました。ありがとうございます。

【参考リンク】

松や-日吉(うどん)(食べログサイト)


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