日吉に重症心身障がい児の「居場所」初開設、共感呼びネットで資金調達も

横浜日吉新聞
港北区初の重症心身障がい児のデイサービスとして日吉にオープンした「わくわくさん日吉の扉」。嘱託医 (非常勤医師)である野のすみれクリニック・院長の鈴木明子さん(写真前列中央)ら、多くの人々の「共感」を得られ施設運営がスタート(写真:あやちゃん家提供)

港北区初の重症心身障がい児のデイサービスとして日吉にオープンした「わくわくさん日吉の扉」。嘱託医 (非常勤医師)である野のすみれクリニック・院長の鈴木明子さん(写真前列中央)ら、多くの人々の「共感」を得られ施設運営がスタート(写真:あやちゃん家提供)

港北区で初の重症心身障がい児専門の「放課後等デイサービス」が日吉にオープンしました。先月(2017年5月)31日に開所式を行い、先週6月2日に開所した「わくわくさん日吉の扉」(日吉7)がその施設。運営する株式会社あやちゃん家(綱島東5)代表取締役の山下容子さんがこの施設の立ち上げに奔走する姿が、港北区内外の多くの人々の共感を集め、クラウドファンディング(インターネット経由で資金などを募ること)で福祉車両購入のための資金も目標金額の倍以上となる百万円超を集めるなど、多く子育て・福祉関係者からも注目を集めています。

「放課後等デイサービス」とは、障がい児が放課後を過ごしたり、治療と教育を合わせた「療育(りょういく)」を受けられたりする施設のことで、2012年から民間企業障害者自立支援法と児童福祉法が改正され、多くの民間企業や一般社団法人がこの施設の運営に参画、港北区でも同事業を行う施設が18拠点(2017年4月現在)運営されています。

医療技術の進歩等を背景として、医療的ケアが必要な障害児(医療的ケア児)が増加していると国も支援体制づくりの構築を訴える(厚生労働省のサイト、リンク先は[PDF]資料)

医療技術の進歩等を背景として、医療的ケアが必要な障害児(医療的ケア児)が増加していると国も支援体制づくりの構築を訴える(厚生労働省のサイト、リンク先[PDF]資料)

国(厚生労働省)も、医療技術の進歩等を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期間入院した後、引き続き人工呼吸器などを使用したり、たんの吸引が必要になったりといった医療的ケアが必要な障がい児(医療的ケア児)が増加しているとしています。

そのため、地方公共団体にも、2016年5月成立(同6月公布)の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」にて、「医療的ケア児」が必要な支援を円滑に受けることができるよう、「保健、医療、福祉等の各関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制整備に関する努力義務」を規定(児童福祉法第56条の6)。「医療的ケア児の支援に関する保健、医療、福祉、教育等の連携の一層の推進について」との通知を同6月に地方公共団体などに行い、連携体制の構築を推進しています。

子どもの放課後の居場所として、「療育(りょういく)」を受けられる場所として、「医療的ケア」が必要な子どもたちが過ごせる施設が足りない中、立ち上がった山下容子さんと、山下さんの想いに「共感」する人々が集う綱島、そして日吉にも新たに開設された放課後等デイサービス「わくわくさん」の挑戦に着目、詳しく話を聞きました。

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港北区初「医療的ケア」行う施設立ち上げは“わが子への想い”から

山下容子さんは神奈川区白楽育ち。高校卒業後、親戚が住んでいた縁もあり長崎の看護学校へ。東京へ戻り、都立病院で看護師として20年来勤務しますが、「この頃からの仲間も実は今もつながっていて、運営メンバーとして活躍してくれているんです」と山下さん。

「わくわくさん日吉の扉」開所式であいさつをする株式会社あやちゃん家・代表取締役の山下容子さん。設立に至る経緯と、多くの人の支援を得られたことへの感謝を熱く語る

「わくわくさん日吉の扉」開所式であいさつをする株式会社あやちゃん家・代表取締役の山下容子さん。設立に至る経緯と、多くの人の支援を得られたことへの感謝を熱く語る

結婚をし現在は樽町に在住していますが、生まれた子どもがダウン症と診断され、子どもの放課後の居場所探しをする際に、自身が看護師であったこともあり「医療的ケアもできる障がい児を預かれる放課後デイサービスを作りたい」と思い至ったといいます。

全くゼロからのスタートで「右も左も分からない状況」(山下さん)の中、港北区や横浜市のアドバイスもあり、運営法人(株式会社あやちゃん家)を新たに設立。

2014年11月に先に開設した「わくわくさん綱島東の扉」(綱島東5)では、医療ケアのできる放課後等デイサービスがこれまで港北区にはなかったことから、医療的ケアを必要としている児童を積極的に受け入れ、気管切開からの吸引や胃ろう(栄養を取るために腹部と胃を直接つなぐ小さな穴)、胃管からの注入・導尿・痙攣(けいれん)時の座薬挿入などを行ってきました。

株式会社あやちゃん家のサイト(リンク先は同ページ)。ブログやFacebookページなど、情報が細やかに更新されている

株式会社あやちゃん家のサイト(リンク先は同ページ)。ブログやFacebookページなど、情報が細やかに更新されている

この綱島東の施設では現在40名が登録。障がいの内容は、ダウン症の児童が15人、発達障がい児が15人、そして今回日吉に移転することになる重症心身障がい児が10人。日吉の定員は1日あたりでは5人までとのことで、口コミなどにて評判が伝わったのか既に満員。綱島でも「医療的ケア」が必要な児童が増えているという時代背景、また人口が急増している地域ということもあり、利用を待たせるケースが多い状況だといいます。

わが子が過ごす場所をと、「看護師」としての経験を活かしながら、新たなるこの事業にと賭けた山下さんの下には、とりわけ「医療的ケアができる施設が足りない」ことを理解する多くの支援スタッフが現れ、約34万人もの港北区で、こういった施設がないことへの新たなチャレンジを日々続けることができています、と山下さんは心強い仲間たちの存在を強調します。

“移動時間は最大15分”、理想的な場所・日吉での「共感」と支援

今回、これまで受け入れてきた知的障がい児、重症心身障がい児、医療的ケアが必要な障がい児などの中でも、日吉に新たに「重症心身障がい児」専門の施設として分離・開設したのは、「元々の事業計画に盛り込んでいたものでした」と山下さん。

日吉では広い駐車場を確保。クラウドファンディングで得られた資金を一部充てて購入した福祉車両には新しい施設のシールも添付された

日吉では広い駐車場を確保。クラウドファンディングで得られた資金を一部充てて購入した福祉車両には新しい施設のシールも添付された

これまでの綱島東の施設では、曜日分けで受け入れる、福祉車両が乗り入れできるスペースの確保が難しいなどの制約があり、問い合わせや入所希望が殺到する中、本格的な医療的ケアによる児童の受け入れを拡大できず、より専門的に「医療ケア」を行える施設を新設する必要性を感じていたとのこと。

新たに開設する場所探しには大変苦労したとのことで、「農地含め近隣の場所をくまなく探してみたのですが、今回の日吉の施設は1階、駐車場もゆったりとしたスペースがあり、何より物件のオーナーの理解があり、この地に開設できたんです。ここは綱島東の施設からも徒歩5分しかかからず、また、子どもたちの多くが通う北綱島特別支援学校(綱島西5)、中原養護学校(中原区井田3)からも車で10~15分圏内にあるんです。子どもたちの体調の急変にも対応しやすく、この場所で開設できることはとても良い条件」と山下さんは、当初の計画通りにはなかなか開設が進まなかったものの、この地でオープンできたことに心から感謝していると熱く語ります。

災害時に停電となったら、人工呼吸器やたんの吸引機が使用できなくなってしまうことから、自家発電機を設置。動力となる危険物のガソリンを近隣のガソリンスタンドで備蓄してもらうことに

災害時に停電となったら、人工呼吸器やたんの吸引機が使用できなくなってしまうことから、自家発電機を設置。動力となる危険物のガソリンを近隣のガソリンスタンドで備蓄してもらうことに

山下さんを支援するメンバーも多彩で、山下さんの子どももお世話になっているという野のすみれクリニック(大曽根)の鈴木明子さんが嘱託医 (非常勤医師)として就任。

「日吉の扉」の管理者には、山下さんが都立病院時代に勤務しつながっていたという看護師の鈴木久美さんが、綱島東での勤務から移り大役を担うとのことで、「管理者、児童発達支援管理責任者(管理者と兼任可)、看護師、機能訓練士(理学療法士・作業療法士など)​、そして保育士または児童指導員と、最低でも4名が揃わなければサービスを提供できないという条件もクリアしました。子供たちの障がいの程度や身体の調子にあわせて、ゆったりとした放課後支援を実施したいと思っています」と、鈴木久美さん自身、脳性麻痺(まひ)の妹と過ごしてきたという過去を振り返り、「山下さんの熱い想いに応えられたら」と、これまで勤務してきた特別支援学校などでの看護師としての経験をフルに活かし、この事業を行いたいと、「日吉の扉」オープンへの決意を語ります。

家族ぐるみで参加を、クラウドファンディングでも「多くの成果」

初めてクラウドファインディングにも挑戦(レディーフォーのサイトより)

初めてクラウドファインディングにも挑戦(レディーフォーのサイトより)

「わくわくさん」では、鈴木久美さんと同様に、家族に重症心身障がい児がいるスタッフはじめ、自分の子どもが「通っている」保護者も、スタッフやボランティアとして大きな支援者となっていると山下さん。保護者にとっても、同じ場所で“仕事”や“お手伝い”をしながらわが子や通う子どもたちの様子に接することも出来、ホームページの作成・更新も敢えて保護者に担当してもらうことで事業運営についてもより一層の透明度を増していると語ります。

ユニフォームも山下さんの実家の会社(有限会社ヨコスカユニフォーム=神奈川区反町)で作成しているといい、山下さんの夫も現在同施設で勤務。まさに家族ぐるみで子どもたちにとっての居場所づくりに奔走する山下さんが目指す「あやちゃん家」の目標は、「まずは“心が元気”であること。次に、何でもよいので“これをやろう”というものをあきらめない。さらに、仲間がいる。この3点で、より良い施設を作っていけたらと思っています」と想いを語る山下さん。

シャワーストレッチャーもクラウドファンディングの一部資金を使用し購入することができた

シャワーストレッチャーもクラウドファンディングの一部資金を使用し購入することができた

「重症心身障がい児のデイサービスを開設したい」との想いを託し、今年3月から4月にかけて初めてチャレンジしたというクラウドファンディング(READYFOR株式会社)でも、72人もの「共感」を得られ、総額101万6千円の資金を調達。

クラウドファンディングの資金を一部使用し、車いすが4台乗ることができる福祉車両や、重症心身障がいがある子どもたちを「自宅でお風呂に入れるのは保護者にとっては本当に大変な作業になるので」と、放課後の時間帯にお風呂に入るためのシャワーストレッチャーを新たに購入。都市型で一般には「狭い」といわれる施設の中でも「このお風呂は素晴らしい」との声も寄せられるなど、放課後等デイサービスに関係する業界関係者の中でも注目を集めているといいます。

子どもたちを育む「可能性を開く扉」の行方に注目

開所式で振る舞われたスタッフの手作りケーキ。保護者らのスタッフやボランティアとしての参加も促し、より透明度が高い、また活気ある施設を目指す

開所式で振る舞われたスタッフの手作りケーキ。保護者らのスタッフやボランティアとしての参加も促し、より透明度が高い、また活気ある施設を目指す

「わくわくさん」という名前とロゴについても、「子どもたちの可能性を、“わくわく”という<可能性の扉>に込めました。子供には“可能性を秘めた力”があると私は信じています。ここの“扉”をくぐり、<可能性の扉>をたくさんノックして、子供たちが成人した時に大きな力となりますように。子どもたちが成長し、中学、高校生となって、成人していくその後も、長くこの地域に暮らし、日々過ごしていける街にしたい。そのためにも、より多くの方に<わくわくさん>を知っていただければ」と、港北区で初となる施設へのより一層の支援と理解を求めたいという山下さんたちの挑戦。

自分で靴を履くこともできず、大半は寝たきりで「天井を眺めている」という子どもたちのためにも、天井は空のデザイン、下駄箱も設置するなど、より「わくわく」する場所にと想いを込めて運営したいという

自分で靴を履くこともできず、大半は寝たきりで「天井を眺めている」という子どもたちのためにも、天井は空のデザイン、下駄箱も設置するなど、より「わくわく」する場所にと想いを込めて運営したいという

「この街で、誰もが、ずっと笑顔で」わくわく過ごすことができる街・自治体として、港北区や横浜市がどんなかたちでこの「わくわくさん」などの重症心身障がい児が過ごせる施設の支援を行っていくのか。近隣住民や支援者との歩みはこれから先どんな「扉」を開き、こどもたちの可能性を広げていくのか。

全ての子どもたちが等しく「生きる」権利、その中でも、重度の心身障がいを持つ子どもたちが、この社会、この地域でどのように過ごし、また社会に参加していくのか。

綱島で生まれ、日吉にも広がった「わくわくさん」メンバーの新しい、そして熱き挑戦は、これからも多く子育て関係者や医療・福祉、そして教育関係者らからのより一層の注目を集めそうです。

【関連記事】

障がい児の居場所が足りない、日吉・綱島でも開設相次ぐ民間サポート施設(2016年5月9日)

北綱島特別支援学校は「分教室」後に閉校、市教委が“再編整備”の特設ページ(2017年4月18日)

【参考リンク】

株式会社あやちゃん家の公式サイト

障害児通所支援事業(児童発達支援・放課後等デイサービス)について(横浜市こども青少年局)

港福一夜城プロジェクト#2「障がい児者が地域で暮らす意味を考える」(横浜市社会福祉協議会)[PDF]※代表者らのプロフィール掲載あり


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