【グルメレポート第17回:2017年4月3日「綱島駅前編5」】綱島駅の東口にくっつくように建っているビル1階にあるラーメン店の名は「綱島商店」。2012年1月にオープンした比較的新しい同店は、いわゆる“横浜家系”と呼ばれる濃厚スープの太い麺を提供するチェーン店ですが、注目はその急成長ぶりで、全国展開のきっかけとなったのが綱島での繁栄だったといいます。
綱島駅から歩いて3秒という駅構内のような位置に建つ細長い5階建てビル「ボナール・フジ」は、「おもちゃのふじた」だった場所といえば、古くからの綱島住民には分かりやすいかもしれません。現在は解体されてしまった「綱島駅ビル」を含めて東急電鉄の土地が占める東口の高架下で、ここだけが民間ビルのまま残っており、綱島駅の一部にさえ見えてきます。
そんな東口の“超一等地”で営んでいる綱島商店。ラーメンに詳しい人には、「町田商店系」ということで知られており、今も丼(どんぶり)には“町田商店”の名が刻まれたままです。

株式会社ギフト(旧「町田商店」)の公式サイト
2008年に東京都町田市で開業した「町田商店」ですが、今は株式会社ギフト(町田市原町田)と名を変え、横浜家系の店を中心に現在では全国に40店超を展開。昨年(2016年)は初めて海外に進出を果たし、シンガポールと米国ロサンゼルスでも家系ラーメン店を出店するなど、2016年10月期の売上は約45億5000万円に達し、過去5年間で売上を約13倍に伸ばしています。
近年は九州とんこつラーメンにも手を広げており、その端緒が同社7号店として日吉駅前の浜銀通りで2013年5月にオープンした「がッとん日吉店」。狭いエリアにラーメン14店がひしめく激戦の日吉駅前にあって、4年弱で人気店の一つに育てました。

「in-職hyper(いんしょくハイパー)」に掲載された田川翔社長のインタビュー記事は興味深い
同社が飛躍するきっかけとなったのは、4号店として出店した綱島商店で、10坪ほどの小さい店舗ながら、オープン最初の月から1000万円以上を売り上げていたといいます。
飲食業界に特化した求人情報サイト「in-職hyper(いんしょくハイパー)」に掲載されたギフト創業者で社長の田川翔さんのインタビュー記事には、起業の経緯とともに同社が成長を遂げるまでの興味深い内容が明かされています。
教師だった母親の期待に応えて、千葉県の進学校へは入ったものの、高校卒業後すぐに横浜家系ラーメン店へ修業に出てしまったという田川社長。資金を貯めて2008年に町田商店として独立を果たし、1年以上かけてスープを安定させたことで売上が伸び、2012年に4号店として出店した綱島商店が大ヒット。全体の売上は5億円に達し、「これだけの売上があれば、みんなを幸せにできるだろう」(in-職hyper「飲食の戦士たち」第523回)と感じ、さらなる成長へ向かう気が萎えてしまったと明かしています。
そんななか、綱島店に抜擢した店長が同社の方向性を変えるきっかけを作ります。当初はぱっとしない社員だったというものの、店長となった途端に見事な働きぶりを見せたことに驚いた同社長。「今までは、『いい給料を払えるようになる』こと。それが私の目標でした。しかし、商売はそれだけじゃない。もっと大事なことがあると、この時、気づかされたんです。それは、つまり成長できるステージがあるか、ないかです」(同)。
綱島店の店長によって覚醒した田川社長は、同店長を会社のナンバー3に引き上げ、再び成長戦略を描いて突っ走っていきます。現在は174名の社員と345名のアルバイト・パート社員を率い、国内外各地への出店を加速させるとともに、株式上場も視野に入れているといいます。
同社の飛躍に大きな役割を果たした綱島商店は、カウンターが中心の20席ほどの細長い小さな店舗ですが、11時から深夜3時まで開いており、いつ行っても元気いっぱいの店員が出迎えてくれます。昼に訪れた人が深夜に再訪して「お帰りなさい!」と大きな声で迎えられているアットホームさ。全国チェーン店ながら「横浜家系ラーメン○○商店」のように地域名を入れる形の店名も親しみやすさを感じさせている要素の一つかもしれません。
「醤油豚骨」と「塩豚骨」の2種が用意されたラーメン(並)は税込み650円。ランチ時間帯には「ライス小」がサービスされるのも濃厚ラーメンを食べるうえでは嬉しいところ。ラーメンは何もせずとも味わい深いのですが、にんにくや刻みショウガ、豆板醤(とうばんじゃん)、タマネギ、煎り胡麻など、やたら種類の多い卓上調味料を使って自分好みの味に仕上げることも可能です。「半熟味玉」(税込100円)や「白髪ねぎ」(同150円)などのトッピングも楽しめます。
スープまで飲み尽くすと「完まく券」なるカードが渡され、スタンプが10個たまるとラーメン1杯が無料というサービスもあり、カロリーを気にしながらも、ついスープまで全部平らげることに。
先月(2017年3月)、ラーメンチェーン「一風堂」を国内外で展開する「力の源ホールディングス」(福岡市)が東京証券取引場のマザーズ市場に株式を上場して話題を集めましたが、次は「横浜家系・ギフト」の番かもしれない、と綱島商店や日吉の「がッとん」で“完まく”してしまうたびにそんなことを感じます。
(※)売上や店舗、従業員数などの経営に関する数値は同社公式サイトより
- このコーナーは記者が個人的に訪れているなかで、「ここは!」というお店についての情報を紹介するとともに、個人としての所感を述べていく連載。バックナンバーはこちら。なお、日吉・綱島・高田以外の港北区内エリアの情報は「新横浜新聞~しんよこ新聞」をご覧ください
【参考リンク】
・横浜家系ラーメン綱島商店(食べログのページ)
・がッとん日吉店(食べログのページ)
・in-職hyper「飲食の戦士たち」第523回、株式会社ギフト代表取締役 田川翔氏