国の指針に残った「グリーンライン」の鶴見延伸、実現性と3つのルート | 横浜日吉新聞

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首都圏で鉄道新設や延伸など25プロジェクトが示された国の指針

首都圏で鉄道新設や延伸など25プロジェクトが示された国の指針(国交省の資料より)

【2016年4月時点の記事です】横浜市営地下鉄「グリーンライン」のJR鶴見駅への延伸計画実現へ一歩前進となるのでしょうか。一昨日(2016年4月7日)、国土交通省は首都圏での鉄道整備を検討する「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」と題した指針をまとめ、15年後の2030年までに整備や延伸を行う必要性が高い24の事業を示し、そのなかには日吉駅止まりとなっているグリーンラインを鶴見駅へ延伸する計画も、前回2000年に示された指針同様に盛り込まれていました。

この延伸計画は「横浜環状鉄道」と呼ばれる一部分として、現在は中山と日吉間で運転されているグリーンラインを、鶴見駅まで伸ばすとともに、中山駅から先も二俣川駅(相模鉄道)~東戸塚(JR)~上大岡(京急/ブルーライン)~根岸(JR)~元町・中華街(みなとみらい線)と延伸させることで、鶴見から日吉を経由して、中山、二俣川、元町・中華街と横浜の外周をぐるりとまわる“環状鉄道”にしてしまおうというプロジェクトです。

「横浜環状鉄道」は現在開業しているグリーンラインを鶴見~日吉~中山~二俣川~東戸塚~上大岡~根岸~元町・中華街とぐるりと結んでしまおうという鉄道プロジェクト

「横浜環状鉄道」は現在開業しているグリーンラインを鶴見~日吉~中山~二俣川~東戸塚~上大岡~根岸~元町・中華街とぐるりと結んでしまおうという鉄道プロジェクト(国交省の資料より)

国交省による指針では、この横浜環状鉄道については「横浜市内の主要地域間相互の環状方向のアクセス利便性の向上」につながる期待を示す一方、「事業性に課題がある」と指摘したうえで、「整備効果や事業性の高い区間を優先するなど整備方策についても検討が行われることを期待」すると述べています。

今回選ばれた24事業のなかには、羽田空港へのアクセスを改善する計画路線が多数盛り込まれていたこともあり、東京都内の計画がマスコミなどで大きく取り上げられています。

一方で同指針は、どの事業を優先するかの判断は行っておらず、「選択と集中を徹底しつつ計画的に推進することが求められる」とのみ指摘しています。すべてを実現させようという内容ではないため、今後は採算性や計画性の熟度、地元の熱意などが試されることになります

 「横浜環状鉄道」ではもっとも高い需要の区間

横浜市が考える鉄道計画一覧、現時点ではブルーラインの「あざみ野~新百合ヶ丘」間が優先度が高いとされている

横浜市が考える鉄道計画一覧、現時点ではブルーラインの延伸計画「あざみ野~新百合ヶ丘」間の優先度が高いとされている

果たして、日吉から鶴見への延伸計画の実現性はどのくらいあるのでしょうか

横浜市では、2014年2月にまとめた方針で「ブルーライン」(高速鉄道3号線)のあざみ野駅から先、すすき野付近を経由して新百合ヶ丘駅にいたる延伸計画を「優先度の高い路線」と評価しており、市内ではもっとも実現性が高いとみられます。

一方、横浜環状鉄道は「多額の費用を要することから、長期的に取り組む路線」として横浜市内のなかでも“二番手”の扱いです。そのうえで「グリーンラインやみなとみらい線の隣接区間から検討を進める」と表明しています。

市は横浜環状鉄道のなかで3カ所をあげて、利用客数や建設費の試算を行っており、その結果が下記です。

日吉~鶴見
・1日あたりの利用客:3万6000人~5万1000人
・建設費:1100億~1300億円

中山~二俣川
・1日あたりの利用客:2万9000人~3万4000人
・建設費:1400億~1500億

根岸~元町・中華街
・1日あたりの利用客:1万7000人~1万9000人
・建設費:1300億~1400億

試算の数字を見る限りでは、日吉~鶴見間が一歩抜きんでており、横浜環状鉄道の整備を考えるうえでは、もっとも実現性が高い区間といえます。

綱島駅と鶴見駅を結ぶ横浜市営の「13系統」は"ドル箱"路線となっている(綱島駅東口ターミナルで)

綱島駅と鶴見駅を結ぶ横浜市営の「13系統」は”ドル箱”路線となっている(綱島駅東口ターミナルで撮影)

需要の高さを物語るのがバス路線です。日吉と鶴見を結ぶバス路線はありませんが、綱島駅と鶴見駅の間は、横浜市営バスだけでなく、川崎鶴見臨港バスの2社が運行しており、市営は約60本、臨港は約120本とそれぞれルートは異なるものの、1日約180本もの便数が設けられています。朝6時から夜0時までで平均すると、1時間あたり10本ものバスが運転されるほど、乗客の多い区間です。

横浜市交通局が公開している2014年度の資料によると、綱島と鶴見を結ぶ「13系統」は年間9300万円超の黒字を出す“優良路線”で、横浜市営バス路線の6割近くが赤字ということを考えると、綱島~鶴見線は大きな貢献をしていることになります。それだけ利用客が多い重要路線なのです。

日吉6丁目か南加瀬を経由するルートが現実的か

慶應日吉キャンパス内に設けられているグリーンライン日吉駅の出入口

慶應日吉キャンパス内に設けられているグリーンライン日吉駅の出入口

まだ実現するかどうかさえ決まっていない日吉~鶴見間の延伸計画ですが、ニーズの高さからして「可能性としては決して低くない」ということがいえるのではないでしょうか。

5~10年以上先の話とはいえ、日吉住民がもっとも注視しなければならないのは、「鶴見までどんなルートを通るのか?」という点です。この部分はまったくの白紙状態ですが、延伸することになれば、日吉駅が起点となる以上、必ず日吉のどこかを通ることになります。

現在、グリーンラインの線路は慶應義塾大学日吉キャンパスの地下が終点となっています。駅前の中央通りの地下を走ってきた線路が、慶應のイチョウ並木の周辺で終わっているというイメージです。

イチョウ並木の下から鶴見駅までどのように進んでいけばいいのでしょうか。慶應日吉キャンパスの地下を通ることは間違いはなく、そのままほぼ真っ直ぐに「南加瀬」や「新川崎方面」へ向かうのか、それとも日吉キャンパスの地下でカーブして、「日吉5~6丁目方面」へ向かうのか――。鶴見へ向かう以上はこれらのルートとなるでしょう。(※なお、「日吉台地下壕」や「まむし谷」周辺の自然環境への影響や、周辺土地の収容という問題が起きる可能性はありますが、現時点では単なる“想像”に過ぎないため、横に置いておきます)

日吉駅からどうやって鶴見駅へ向かうのかの「想像図」(グーグルマップを加工)

日吉駅からどうやって鶴見駅へ向かうかの「想像図」(グーグルマップを加工利用)※クリックで拡大

現段階で「想像」してみたのが、図の3つのルートです。

(1)日吉5~6丁目・駒岡ルート

日吉キャンパス内でカーブして日吉5~6丁目方面へ向かい、日吉町内を縦断して鶴見川を越えるルートで、鶴見区の駒岡付近に至ります。日吉から直接、鶴見区内へ入るため「横浜市内」で完結できることになります。横浜市が公式な地図で示しているのは、これに近いルートを想定しているのではないかとみられます。

この場合、日吉駅から1.5km圏内にあたる日吉町内に駅を置く可能性も考えられます。旧アピタ日吉店などの跡地再開発地(野村不動産日吉複合開発計画=仮称)や綱島SST(サスティナブルスマートタウン)に比較的近い場所となるため、一定の需要は見込めそうです。

(2)一本橋・南加瀬ルート

日吉から鶴見駅を結ぶ際の路線イメージ(グーグルマップを加工)

日吉から鶴見駅を結ぶ際の路線イメージ(グーグルマップを加工利用)※クリックで拡大

日吉キャンパス内をほぼ真っ直ぐに横断し、一本橋周辺を経て川崎市幸区の南加瀬へ向かいます。その後は、県道14号「鶴見溝ノ口線」沿いに鶴見駅へ向かう「順当」といえるルートです。主要道路の地下を走ることになるため、土地の買収が少ないこともメリットとなりそうです。

ただ、横浜市営地下鉄が川崎市内へいったん入ることになるため、“縄張り意識”の強い行政が連携できるのかが課題です。このルートでは、南加瀬周辺に駅を置く可能性が高いと考えられ、鉄道空白地帯の解消という点で大きく貢献ができます。

(3)新川崎ルート

新川崎駅へ立ち寄った後、鶴見へ向かうというルートですが、人口急増中で需要がありそうな新川崎へ行ったはいいものの、そこからどのように鶴見まで行けばいいのか、適切なルートの想像がつきません

新川崎駅に乗り入れるのではなく、再開発中の操車場跡地周辺(新鶴見操車場)に駅を作り、横須賀線と上手く合流して地下を走りながら鶴見へ行くことも考えらえますが、南武線との競合となりますし、ほぼ「川崎市営地下鉄グリーンライン」になってしまいますので、川崎市の本気度が重要となるのではないでしょうか。

――以上、今の時点では「まったくの仮定のルート」とはなりますが、鶴見駅までの延伸は、今回の国の指針にも示され、横浜市も検討を行ってきたという点は事実です。

5年や10年後、もしかしたら現在の「相鉄・東急直通線」のように、日吉の街が大きく盛り上がっているかもしれません

<注意とお願い>
ルート図などはあくまで想像です。将来の路線を考える際の「ヒント」としてのみお読みください。現時点では延伸計画自体を行うかどうかさえ決まっていない状況ですので、賢明な読者のみなさまは、ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。

【関連記事】

横浜市が鉄道計画ページを刷新、注目度の高い「横浜環状鉄道」情報も集約(新横浜新聞~しんよこ新聞、2021年10月7日)リンク追記

「日吉駅~鶴見駅」間の事業化検討を明記、京浜臨海部の再編整備プランに(2018年10月1日、マスタープラン内で事業化への検討が明記された)リンク追記

東横線並みの混雑も記録したグリーンライン、6両編成化は避けられない課題(2016年3月8日)

【参考リンク】

横浜市における鉄道計画(2014年2月時点での横浜市の考え方)

「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(案)」に関するパブリックコメントの募集について(2016年4月14日まで国の指針に対する意見を述べることが可能です)

第20回東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会配付資料(国土交通省、2016年4月7日、今回の指針の本文や資料などが公開されています)


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