日吉の日常で知った情報や出来事をみなさんと共有する「ひよしコラム」の3回目です。昨日(2015年11月6日)、慶應義塾大学理工学部(日吉3)の大学院生が今年4月に小型の無人飛行物体「ドローン」を誤って東海道新幹線の線路脇に落下させ、回収のために新幹線が一時徐行運転していたことが明らかになり、NHKを含めた各メディアが一斉に報じ、大きなニュースとなっています。
11月6日(金)付けの神奈川新聞(朝刊)が社会面で「新幹線敷地 ドローン落下/JRや港北署、公開せず」との記事を大きく掲載したのを皮切りに、同日昼のHNKニュースでも「大学院生のドローンが新幹線線路脇に落下」と報道し、新聞各紙が続きました。
これに先立つ11月2日(月)にはWebニュースサイトの「J CAST(Jキャスト)ニュース」が「東海道新幹線線路に『ドローン落下』という新事実/横浜の慶大キャンパスから飛来、2時間後に回収で学内で大問題」との独自記事を早々と報じています。
矢上キャンパスの下を走る新幹線高架に落下
これら3メディアの記事を総合すると、今回の騒動は次のような内容です。
ゴールデンウィーク最中の平日となった2015年4月30日(木)の15時50分ごろ、慶應大学理工学部の「大学院生が買ったばかりのドローン」(NHK)を理工学部の校舎がある矢上キャンパス内のグラウンドにて、「研究関連で」(神奈川新聞)飛ばしていたところ、高度を上げすぎて見失ってしまい、東海道新幹線の「上下線の線路の真ん中」(Jキャストニュース)あたりに落下させてしまいました。
慶應大学の事務局はすぐにJR東海に連絡。同社は新幹線を一時徐行させるなど、安全性を確保したうえでこれを回収し、列車の遅れはなかった(Jキャストニュース)といいます。また、事件性もなかったとしてJR東海も港北警察署もこの件を公開しなかった(神奈川新聞)とされています。
このトラブルを受け、慶應大学はただちに矢上キャンパス内での許可なきドローン使用を禁止とし、同様に日吉キャンパス内でも7月2日付けで禁止の告知が貼り出されています。
首相官邸への落下事件で一躍「悪のイメージ」
ドローンは、昔でいう「ラジコン飛行機」を未来形に進化させたような“飛行物体”で、コントローラーを使って上空へ飛ばすことができる新しい「飛行機」です。
かつて、ラジコン飛行機を買って飛ばすとなると、それなりの覚悟や技術と資金が必要でしたが、このドローンは十万円程度を出せば、通販サイトで簡単に買うことができ、誰でもすぐ気軽に飛ばすことが可能です。おもちゃのような製品なら数万円で売られています。
これまでは、新しい技術や製品が好きな一部の層だけが楽しんだり、大学などの研究機関が活用法を探る実験や研究に使ったりする存在でしたが、今年4月22日に首相官邸の屋上へ意図的にドローンを落下させる事件が発覚。犯人逮捕にいたる間に大騒ぎとなって以来、ドローンの存在が一般に知れ渡りました。
以後、ドローンを規制する新たな法律が作られたり、飛行禁止の動きが強まったりしています。ひとたび、ドローンが落下するようなトラブルが起これば、一斉に新聞やテレビで大きく取り上げられ、ドローンはテロなどの犯罪にも使われる可能性を持つ危険かつ迷惑な“悪の存在”というイメージが広がっています。
ドローンは「空の産業革命」ともいわれる存在
一方、このドローンは、誰もが簡単に物体を空に飛ばせるため、空からの撮影や物の運搬など、新しい使い方ができると期待されている面があります。
米国のアマゾンはドローンを使ってインターネットで購入された商品を届けようと本気で実験をしていますし、日本でも農地の監視や肥料の散布、大きな橋やビルなど人が見づらい場所のメンテナンス箇所のチェックにも使われようとしています。
山奥や離島などへの緊急物資の運搬や、警備目的でも活用ができるといわれています。
そのため、ドローンの登場は「空の産業革命」とも言われており、一部の業界や先進的な人々の間では、高い期待と希望を持って活用実験が行われているのも現状です。
理工学部生ならドローン技術に触れるのは自然
相反する評価が持たれているドローンですが、技術開発や活用法に大きな可能性を秘めている以上、大学の研究室や学生が購入したり、活用したりするのはごく普通のことといえます。特に今回のトラブルを起こしたのは、理工学部の大学院生とのことなので、同分野を研究する学生ならば、未来への活用が期待できる先端技術に触れてみるのは当然のことでしょう。
研究のためにドローンを購入したのならば、実際に飛ばさないと何の成果も得られませんし、その場所として矢上キャンパスや日吉キャンパスは、敷地の広さからしても申し分ありません。日吉の住宅地で飛ばさないという判断をしたのは賢明です。
また、矢上キャンパス内からは真下に新幹線が走っている姿が見えづらいため、線路の存在に気づかなかったのかもしれません。
なぜ日本中が大騒ぎする最中に飛ばしたのか
とはいえ、今回のトラブルが起こったとされる4月30日という日付が気になります。
首相官邸にドローンが落下していたことが明らかとなったのが4月22日です。日本中が騒ぎとなっていた時期に、わざわざドローンを新たに買って飛ばしていたことになります。
報道では研究関連のために飛ばしたとのことですが、万が一、面白半分での行動であったならば猛省する必要があります。初心者には操縦が案外簡単ではないことさえ理解せず、高度を上げすぎてしまい、結果として大きな迷惑をかけてしまったことは、研究者を目指す大学院生の行動として、望ましいものではありません。
ドローンやその技術について、日本中で悪いイメージばかりが一段と増幅していくなかで、慶應理工学部の大学院に所属しているということは、高いレベルで客観的にドローンを研究・分析し、「活用法や今後の方向性を世に提示すべき立場」にいることを、再認識する必要があるでしょう。
まず、今回のトラブル自体は反省したうえで、研究活動においては変に委縮することなく、研究や調査活動に挑んで成果を出してほしいと願っています。